今日も今日とて。
『柊さぁ〜ん、これからするわたくしのお願いにぃ〜ハイかイエスでぇ〜お返事してくださぁ〜い!』
「絶対にノゥだっ!!」
『では次の任務でーす!』
「聞けよ人の話っ!?」
テーブルの向かい側に座って、距離が近いというのにわざわざメガホンでそう言ってくるアンゼロットの言葉を遮った。そう柊は確信していた。
甘かった。
『何を言ってるんですか柊さん。これは世界の危機なのですよ、あなたが動かなければ世界は滅んでしまいまーす』
「だからっ……」
『それに……』
何か言い返そうとしたのと同時、アンゼロットがメガホンを下ろし表情が引き締まる。
「……な、何だよ」
「それに、柊さんはわたくしが選択肢を与えた任務の時に限って、躊躇わずイエスと言ってくださるんですもの。期待してしまうのは当然のことだと思いませんか?」
「え……」
言葉に詰まる。
確かに彼女の言うとおりだった。アンゼロットが拒否権をくれるほどの危険な任務に限って、柊は例外なく即承諾を出しているのだ。
「そ、それは……お前がああいう風に言うってことは、それくらいヤバイ任務ってことだろ? だったら」
「柊さんがスリルシーカーだなんて、知りませんでした」
まあ、と口に手を当て、アンゼロットが驚きの声を上げる。顔はちっとも驚いていないのがムカつくと言えばムカついたが、柊は気にしないことにした。
「そういうわけじゃねえよ、ただ、それほどヤバイってんなら、行かないわけにはいかねーだろ?」
「そうですわね、そういう方でしたね、柊さんは」
アンゼロットは今度はにこりと微笑んだ。まるで真昼の空に浮かぶ淡い月のような微笑み。そしてテーブルの上に置かれたカップを取り、口へと運ぶ。
「さ、柊さん。せっかくのお茶が冷めてしまいます。どうぞ召し上がってください」
「お、おう……」
つられて柊も紅茶をすすった。ほのかな甘みと香りが鼻の奥に突き抜けていく。
そしてカップを置いたアンゼロットは、笑顔のまま言った。
「さて、一息ついたところで次の任務でーす!」
「台無しにすんなぁぁぁぁぁぁっ!?」
柊の叫びも空しく、彼は足元のシュートから直接任地へと向かわせられるのであった。
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ここまでのお題提供:
31D様