遠征帰りのフレンの部屋に、待ってましたとばかりに窓から滑り込む。
話したいことが山ほどあった。たぶん向こうも、聞いて欲しいことがたくさんあることだろう。
何で分かるかって? そいつは聞くだけ野暮ってもんだ。
……の、つもりだったのだが。
ユーリが部屋に入ると、フレンは机に向かって書類仕事をしていた。出迎えもそこそこに、挨拶を一言交わすと彼はすぐに仕事に戻る。
文句を言うわけでもなくユーリはベッドに腰掛けて、それをぼーっと眺めていた。
暇だって? まあそうだけど。
そうしてかれこれ二時間ほど経ったころ、フレンの周りの空気が揺れるのを感じユーリは立ち上がった。迷うことなく枕元に置いてあったメモ用紙のようなものを拾い上げ、フレンのそばまで行く。
「ん」
「ありがとう」
一瞥をくれるとすぐに机に向き直る。フレンはメモを受け取るとそれを見ながら書類に何か書き込んでいた。ちゃんとお礼を言うのを忘れないところは本当礼儀正しいなと少し笑って、ユーリは元の場所に戻る。
何で分かったかって? さあ何でだろうな。
静かなのはそんなに得意ではないのに、今はそれがとても心地良い。
久しぶりに会ったら、いっぱいくっついていっぱいキスもして……と色々期待していた。だけど現実は全然構ってもらえないのに、まだ何の話もしていないのに。
それでもそこにフレンがいるだけで十分満足している自分が少々意外だった。今までがフレン不足過ぎて、視界に収めるだけで心が満足してしまっているのだろうか。
その疑問は置いといて、このまま時間の許す限り、贅沢な暇を持て余そうか。そう思って、とりあえず水でも飲もうかとテーブルに置いてある水差しに視線を向けた時。
いつの間にか立ち上がって、水の入ったコップをこちらに差し出しているフレンと目が合った。
「ん」
「サンキュ」
あまり驚かなかった。当然のことのようにコップを受け取り、一気に飲み干すと、フレンはそれを受け取りテーブルに戻してから、再び椅子に座り書類と格闘し始めた。
何で分かったんだ? まあお互い様か。
こういうの、以心伝心って言うんだっけ。
ベッドに寝転がり、横を向いてフレンの仕事姿を見ながら、ユーリはぼんやりとそんなことを考えていた。
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TOY様