拍手お礼ログ その8

悪戯アイスクリーム(アリアンサガ)

「暑い……」

 夏である。
 フェリタニア=メルトランド連合王国の女王ピアニィは、この暑さでうだっていた。
「暑い……何かで気を紛らわせないと融けてしまいそうなくらいに暑い……そうだ!」
 そして、何かを思いつくと、いつものメンバーを招集し、こう言い放った。

「では、今から納涼ものまね大会を行いまーす!」

「はぁっ!?」
「いや、ちょっと待て姫さ……」
「審査員はあたしです! 一番似てた人が優勝! 優勝者には豪華賞品、でもあまりにも似てないものはお仕置きですよ!」
「…………」
 制止する声も聞かず、ピアニィはにこにこしたまま、最初の生贄……もとい、挑戦者を指名する。
「じゃあ、最初はベネットちゃん、れっつごー!」
「へぁ!? あっしでやんすか!?」
 ベネットは恐る恐る周囲をうかがってみる。しかし周りの人間は、皆諦めた表情で首を振るのみ。ベネットは観念した。
「じゃあ、一番ベネット……悪の組織のボスに裏切られて死んじゃう部下をするでやんす。げはぁ! ば、バカなっ!? 私はあなたの右腕のはず……っ!」
 そしてぶくぶくと沈んでいくジェスチャーをするベネットに、ピアニィは笑顔のまま、
「それ、いつものベネットちゃんですよね? はい、じゃあ次はナヴァール!」
 スルーした。

「では、二番ナヴァール、ナイトメアをやります。どりぃーむ……」
「反則です! お仕置きっ!!」
「え」
「《フロストプリズム》っ!!」
「ぐわぁぁああああああああっ!?」
 何か反応を返す間もなく、ナヴァールを吹雪が襲った。

「さあ、じゃんじゃん行きますよ! 次は……ナーシアさん!」
「……分かった。私は反則はしない」
 静かに言い、ナーシアはピアニィの前に立つ。
「小暮英麻のものまねをする田中天……のものまねをする。はぁい、こぐれえまでぇすっ!?」
「どこの小暮さんだ、それはっ!?」
「う〜ん惜しいっ!」
「それじゃあ、また別のを考えてみる。次、どうぞ」
「うお、おい、俺かよ……」
 ナーシアに前にぐいぐいと押され、今度はアルがピアニィの前に出た。
「真打登場ですねっ、さあ、アルどうぞっ!」

 笑顔のピアニィに、アルは咳払いを一つして、
「四番アル、ドモン・カッシュやります。俺のこの手が……」
「お仕置きっ!!」
「どぅわぁぁああああああああああっ!?」
 城内に二度目の吹雪が舞う。

 こうして、フロストプリズムの冷気によりあたりが冷え切るまで、ものまね大会は続いた。
 ちなみに、優勝者は『携帯のバイブ音』のものまねをしたナーシアに決定した。

「ナーシアさん、賞品、何がいいですか?」
「肉……焼肉、食べたい」

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※この作品はフィクションであり、登場する人物、団体名等は実在の人物とは一切関係ありません

こわい夜(柊アンゼ+くれは)

「……平和だ……」

 ある夏の夜のこと。
 柊蓮司は珍しく、自宅で猫を膝の上にのせながら、星を見ていた。
「平和すぎて、怖いくらいだぜ……」
 呟いて猫を撫でる。にゃぁという気の抜けた(だが最強にかわいい)返事がした。
「そうだな、このまま何もなきゃいいんだがな……」
 彼にとっては珍しすぎる、普通の日であった。

 もちろん、何も無いわけがなかった。

「はわー、ひーらぎー、これからする私のお願いに『はわ』か『はわわ』で答えてー」
 世界魔術協会のトップが代わっても、柊に降りかかる急な任務には、全く変わりがなかった。現在の世界の守護者代行の赤羽くれはに、本来の守護者と同じようなことを言われる。もちろん、今が夜だというのもお構い無しだ。
 そして柊が最初に言うのが否定の言葉なのも変わらない。
「い・や・だ!」
「答えないとー、あんたの恥ずかしい秘密をばらすわよー」
「わ、分かった! 分かったよちくしょうっ!? 何の用だよ!!」
「じゃあ、早速任務に行ってもらうねー」
 そして天井からぶら下がる紐を引っ張るくれは。柊がシュートから落ちていくところまでまったく同じだ。
「がんばってね〜柊〜」

「ちくしょおおおおおおアンゼロットてめぇぇえええええって違ったぁぁぁぁああああああああっ!?」

 その柊の悲鳴のみが、いつもと違っていた。
「はわ……」
 見送りにシュートを覗き込んでいたくれはの表情が、少し不機嫌そうだった。

爆ぜる音律(ロドキア)

「うわぁ……綺麗! ね、ロドニー!」
 夜空に咲く花火を見上げて、キアラははしゃいだ声を上げた。いつもよりテンションが高い。中学生が珍しく夜にデートしてもいいシチュエーションにあるためだろうか、それとも、今着ている浴衣のせいだろうか。
 最初にこの姿をロドニーに見せた時、彼は驚いた表情で言葉の一つも出てこなかった。ちゃんとした感想が聞きたい、という思いは、現在上がっている花火のおかげで少しだけ紛れている。
 ふと横を見ると、ロドニーも同じく上を向いて、じっと花火を見つめていた。
「ロドニー」
「ん、何だ?」
 呼びかけてこちらを向かせても、すぐに意識は上空へと向かって行っているらしい。だからここはおとなしく空気を読んで、キアラもそれに倣った。せっかく花火が綺麗なんだから。
「ロドニーは、どれが好き? あたしは、さっきの青いのがいいな」
「ああ、あの青い色は酸化銅だな」
「……は?」
 彼の言葉に、一瞬キアラの時が止まった。ロドニーはそれに気付かず、何かを誤魔化すように早口で続ける。
「炎色反応だよ。玉の中に黒色火薬をつめて、それで色を出しているんだ。君も知っているだろう? 胴は青系で、赤ならリチウム、黄色は……」
「……もう! どうしてそうムード無いことばっかり言うのよ!?」
 その態度にキアラが爆発した。そのことにやっと気付いたのか、ロドニーの視線があらためてキアラに向けられる。
「ぼ、僕はただ事実を言ってるだけで……!」
「それがムード無いって言ってるの! だいたい、そのくらいのことあたしだって知ってるわよ!」
「じゃあ何を話せって言うんだ! ただでさえ、そんな……」
「そんな、何よ?」
 キアラが詰め寄ると、ロドニーは視線をさまよわせ、再び夜空に向けた。
「こっち向いて!」
「だ、ダメだ! ただでさえ、そんな、かわいい格好してたら……どうしていいか、分からなくなって……」
「……っ」

 沈黙を花火の爆ぜる音が破った。
 一瞬の閃光に照らされて、浴衣姿のキアラがロドニーの目に焼き付けられる。

「ロドニー……あたし、その……」
 その言葉の続きも、また花火がかき消した。

冷たいイタイ甘いシアワセ

「はい、できたわよ」
 強い陽射しの中、リタがそう言って人数分差し出したのはシャーベットだった。しかし、何かがおかしい。
「ねえリタ……これ何?」
「シャーベット」
 カロルの問いに力強く宣言すると、周囲がどよめいた。
「これ……なんか、氷が荒くない?」
「シャーベットというのは、白身魚のように滑らかな食感がキモなのじゃ。リタ姐、失敗したの? 氷が鮫肌のようなのじゃ」
「あら、これでもまだ上達した方よ? 最初の頃は氷の塊にフルーツソースをかけただけだったもの」
「それは……豪快だな」
 彼らの言うとおり、そのシャーベットは通常より氷のきめが粗かった。どうもミルクの量が少なかったらしく、見栄えは『普通の氷を細かく砕いて上からイチゴの果汁をかけたもの』となっている。
 仲間達がおのおの『リタ作シャーベットっぽいもの』を手に持ったまま好き勝手言うのを、リタはしばし黙って聞いていた。しかし、視界の端に、シャーベットを脇に避け穴を掘ってそこに腹を乗せ舌を出すという、珍しく犬らしい行動をとったラピードの姿が映った瞬間、それは爆発した。

「うっさいわね! 味は問題ないはずなんだから……!」

 むすっとした表情で、リタはスプーンを手に取りそのまま一口。皆が見守る中、少々驚いた顔になって最初に発した言葉は、
「あ、おいし……」
 直後、一斉にスプーンを取る凛々の明星の姿があった。

「あ、これシャリシャリしてて美味しいです」
「そうね、暑いしちょうどいいかも」
「ま、食えなくはないわね」
「シャーベットっつーよりカキ氷だけどな」
 そして事件は、それまで口を開かなかったユーリがスプーンで氷をざくざくと崩し始めながらそう言った次の瞬間に起こった。

「ちょ、ちょっとユーリ!?」
「……くーっ!!」

 ユーリはおもむろにカキ氷を口の中にかき込み、半分ほど食べたところで急に頭を押さえてうずくまった。
「大丈夫です!?」
「そんな急に食べるからよー」
「……何言ってんだ、お前ら……」
 慌ててまわりに駆けつける仲間達の心配そうな声を振り払って、頭を押さえたままユーリは苦しそうに言葉を吐き出した。
「カキ氷は頭がキーンってなるまで一気に食うのが常識、いや、カキ氷に対する礼儀だろうが……っ!」
 ユーリは大真面目だった。

「バ……」
「君はバカだっ!」
 リタがいつものように呟くより早く、フレンのそんな叫び声が響いた。

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お題提供:Fortune Fate