拍手お礼

おててつないで

「闇条さーん、表情カタいですよ、もっと笑顔、笑顔!」
「無茶言うな、くそっ!」
「ほーら晃士朗、リラックスリラックス」
「九鬼さん、目線こっちくださーい」
「……あれ?」

 パシャッ

 京都市内のとある写真スタジオで、非常に妙な組み合わせの二人がポーズを取っていた。
「もう、リーダーも九鬼さんも、モデルへたっぴだなぁ」
「ねー。私と朱香ちゃんは一発OKだったのに」
 既に撮影を終え、ドリンクを飲みながら大人組を楽しそうに眺めている朱香とミユキの話し声が聞こえたのか、それまでも不機嫌そうな表情だった晃士朗の隻眼が余計にきつくなる。
「うるせぇぞ、ガキ共」
「まあまあ晃士朗。イライラしてっと、またNG出しちゃうよ?」
「てめぇもいちいち余計な動きして手間増やすな!」
 舌打ちした晃士朗の苛立ちの原因は彼の右手を見れば瞭然だった。指を絡め合うように九鬼の左手と繋がれているのだ。
「大体なんで俺がモデルなんぞを……」
 改めて位置取りしながらも決して離してはくれないその手を一瞥して、彼は嘆息した。

 ケルベロス──『神曲』セルの戦闘部隊であるはずの四人がこうしているのにはもちろん理由があった。ファルスハーツの対外的戦略のため、とある書籍の表紙モデルに抜擢され、二組に分かれて写真撮影を行うことになってしまったのだ。
 それなら若く見栄えのいい朱香とミユキだけでいいだろう、と晃士朗は思ったのだが、どうやらセントラルドグマの深遠なる考えとやらで、自分と九鬼もそのモデルとやらをやらされることになってしまったのである。
 しかも男二人の表紙は一部書店でしか手に入らないレアもの扱いだ。
 翌月には男と手を繋いでいる──それも俗に言う『恋人繋ぎ』だ──そんな表紙が書店に並ぶのかと思うと、晃士朗はすこしだけ死にたくなった。
 だがこれも仕事だ。プルガトーリオに一泡吹かせるまではどんなことだってやってやる。そう心に念じて、彼は再び撮影に臨む。
 今回も案の定、九鬼がいきなり変な動きをしたために撮り直しとなった。
「ちっ……またNGかよ!? いい加減にしろよ! っていうか手ぇ離せ!」
「えぇ〜……や・だ」
 繋いだ手をにぎにぎしながら九鬼は何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「……ねえ、ミユキちゃん」
「うん……朱香ちゃん」
「あれってどう見ても……」
「わざと、だよね……」

 少し引いたような、それでいてどこか羨ましそうな女子高生二人の呟きをよそに、九鬼が晃士朗の手の感触を十分に堪能するまで写真撮影は長引いた。
 
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お題提供:TOY