Novel
ラベンダー
森を抜けるその道すがら、ほいっと手渡された小さな花、一輪。
「ゼロス、これやる」
それだけ言って「ん!」と花を押し付けてくるロイド。彼が握っているのは先程倒したモンスターが何故か持っていたらしいラベンダーの花だった。
「お、何よ〜俺様が華のある美青年だってか?」
とりあえず、意図がつかめず茶化してみたが、当のロイドはそれに首を傾げるばかり。
「何言ってんだ。これ使って力上げたら、攻撃力も上がるだろ?」
無邪気に放たれる台詞に、ああそうそういうコトねと少しだけガッカリするが、せっかくの彼の厚意を無駄にするのもなんなので、一応受け取るだけ受け取っておく。
かくしてゼロスの手に渡ったラベンダーを、ロイドは興味津々に見つめていた。
「……あー、ロイド君? 今すぐは使わないから」
「えー、せっかくやったのに?」
あからさまに残念そうなロイドを宥めるように、花を持ってない方の手をひらひらと振った。
「ホラ、コレは取っといて、後でルーンボトル使ってからの方が効果が高いだろ?」
「あ、そっか。じゃあ、それまでお前が持ってろよ」
「おう、んじゃありがたく貰うぜ〜」
そしてそのまま、ラベンダーはゼロスの懐に収まった。
それからかなりの時が過ぎても、花は『そこ』にあった。
悪くなるといけないので、プリザーブして、ゼロスの懐に、大事にしまってあった。
何故今、そんなことを思い出したのだろうか。今はそんな場合ではないというのに。
罠により脱落した仲間を全員助けて、フリだけとはいえ裏切り欺いてしまったロイドのもとへ行かなければならないというのに。
(待ってろ、ロイド)
懐の花を微妙に意識しながら、ゼロスは救いの塔を疾走していた。
※ラベンダー ……花言葉:「あなたを待っています」
---
あとがき。
夕凪時雨さんのサイトが3周年ということで、こいつを捧げます。
このお方は私のゼロロイ師匠なので、やはりここはゼロロイを、というわけでこんなものを。
時雨さんこれからもよろしくお願いします!