NOVEL

些細なことで赤くなる

 QE反応を追って、三人はネガアースへと跳躍した。
「で、QEXはどこだ〜?」
「この近くにいることは間違いないみたいだけど……」
 周囲をキョロキョロと見渡すレン、エレバイルとにらめっこで反応を確かめるホミの二人に、キアラは人差し指を立てて、
「手分けして探しましょ!」
 自称リーダーの言葉に特に反対する理由もなく、三人はそれぞれにQEXを探し始めた。


「……で、またあんたってわけ」
「またとは何だ。こっちだってQE反応を追って来ているんだ、いるのは当然だろう」
 キアラが探しに行った方向、見晴らしのいい高台の上には、彼女がもっとも苦手とする少年の姿があった。こっちはコロニーチームがやって来た方向だったらしい。一人でいるところを見ると、おそらくあちら側も手分けして捜索中なのだろうか。
 相変わらずクールな反応を崩さないロドニーに、キアラは盛大に渋い顔を作ってみせる。
「ま、いいけど。今回もあたし達が回収するんだから」
「元素回収はゲームじゃない。勝ち負けの問題じゃないだろう! そっちこそ、僕達の邪魔はするなよ」
「それはこっちの台詞よ!」
 手を腰に当て、キアラはつーんとそっぽを向いた。

 常に強気な態度のキアラだが、ことロドニーと向き合うと、いつも以上にきつくなってしまう。真面目でお固くて嫌味なロドニーが相手だからだ、と今までは思っていたのだが、何度もネガアースで邂逅を繰り返し、時には共闘までするようになり、意外といいところもあるのだと気付いてからもそれは変わらなかった。変えられなかった、と言うべきか。
 調子が狂うのだ。ロドニーといる時の自分は、いつもの自分と違うような気がする。

 心を落ち着かせようと、肉眼でのQEXの捜索を始める──ぶっちゃけて言うと、景色を見渡しているのだが──キアラの目に映ったのは、緑の広がる大パノラマ。
「うわぁ……」
 その瞬間、キアラはそれまでいがみ合っていたことも忘れて見入っていた。

「すごーい! こんな綺麗な場所があったなんて」
 眼下を指差しながら、ふとロドニーをちらりと見遣る。彼は相変わらず無表情なままだ。
 だけど景色はちゃんと見てはいるらしい。感激するキアラに淡々とした答えが返ってくる。
「ね、ほら! 一面緑の絨毯みたい! こんなの映像でしか見たことないよ」
「ネガアースは、人の手が入っていない自然環境だ。こういう場所だって……」
「もう、ホントに情緒を理解しないんだから」
「一応、感動はしている」
 コロニーにはないものだから、とふてくされたようなロドニーにくすりと笑い、両手を後ろに組んだ格好でくるりと振り返る。
「こういう時はね、普通に『綺麗』でいいのよ」
「……!」
 回るのにあわせて、キアラの長い髪がふわりと舞った。それに視線を奪われてしまい、ロドニーの口から言うつもりのなかった言葉がするりと吐き出される。
「君も……」
「え?」
「君も、綺麗だ」
「な……」
 キアラは口だけをぱくぱく動かしたまま硬直した。まるで漫画みたいに顔の下から熱が上がってきて、あっという間に真っ赤になってしまう。
「ば……っ、な、何言ってんのあんたっ!?」
「いや、そういうつもりじゃ……」
「そういうってどういうつもりよ!」
 何とか弁解しようとしどろもどろになるロドニーの顔も、同じように赤くなっていた。だけど彼がごまかそうとすればするほど、キアラの熱は高くなっていく。
 今まで女の子の外見なんて気にしたことはなかった。もちろん仲間内でもそうだ。全てがパーフェクトだったアリーにも、現役人気アイドルのハンナにも、可愛いだの綺麗だのを言ったことなんて一度もない。
 なぜ自分がそんなことを口走ってしまったかすら分からないのだ。今のロドニーに説明することなど出来ない。
「ああもう! 思ったことを言っただけだろ! なんでそんなに怒るんだよ!」
「べ、別に怒ってなんかないわよ!」
 だからもう、彼には開き直るしかなかった。

 女の子に綺麗だと言ったことを別に謝る必要などないのだ、と認識するには、二人とも幼すぎる。

---

あとがき。

ジャンル外なんですが、辛抱たまらなくなってついに書いてしまいました、エレメントハンター。
ロドニー×キアラが可愛すぎる!
クール系ツンデレ×強気系ツンデレ、いいですね! ツンデレが振り回されるカプは大好物です。