HAPPINESS OF





幸せか、と問われた。元就は瞬きをしたまま応えなかった。
「なぁ、あんた、幸せかい」
「・・・知らぬ」
吐息をひとつ、元就はうつむき、落ちてきた髪を煩そうに手のひらですくい、かきあげた。
元親がいつの間にか近づいてきて、背後からなおも問う。なぁ、あんた、幸せか、と。
「大毛利のあるじが幸せでないはずもあるまいに。それだけで」
「大毛利のあるじであることが幸せなのか。大毛利のあるじでなけりゃ幸せじゃないのか」
意味がよくつかめず、元就はまた溜息を吐く。元親は今度はさらに近付いて、手のひらであやすように元就の髪を撫ぜる。
「毛利に生まれて幸せか」
「幸せなのだろう、おそらく」
「あんたに聞いてんのに、なんでおそらくとか?」
元就は鼻白んだ。
何がどのように幸せかなど考えたこともない。義務も使命も運命も同時にいつの間にか、元就の中で当たり前のことになっていて、それが幸せなのか不幸なのかは、さて問われたところでどうにもよくわからない。
だから、わからぬものはわからぬ、と応えた。元親の両手が(両腕が)元就を背中から抱きしめた。
「なぁ、あんた、幸せか?」
何度も問いかける声を、どうしてか煩いとは思わなかった。幸せなのだろうな、と呟いた。
毛利に生まれて、泥を啜る様に這い上がってきた時期もある、辛いこともあった。
それでも、この背中の体温が在るのがその過程ゆえの結果なら、きっと、幸せなのだろう。
「幸せだ」
あらためて答えて肩越しに元親を見遣る。
「貴様は、幸せなのか」
問い返せば、一瞬きょとんとして、それから元親は破顔一笑。



「幸せだぜ。あんたといっしょにいて、こうしているから」



あぁ、そういうふうに言えばよいのか、と、元就はひとり得心した。その唇に元親の唇が降ってきたことも、幸せのうちのひとつに違いなかった。





なんか久々に短文書いてみたくなったので。