(40)〜エンディング


本当の意味での和議と同盟が成って、数カ月が過ぎた。
四国と中国で本州は分断され、巨大な勢力となったため、他勢力も簡単に手を出せないらしく、また強力な統制力を持つ者もいまだあらわれず、一応の静かな期間が続いている。
元親と毛利は、互いに自国の自治をこれまでどおり守っている。月に一度程度、互いの国を行き来する。話し合うことはその時々で違っていたが、毎回少しずつ互いが分かっていくのが元親には楽しい。
毛利は、きっと、あの狐神なのだろうと元親は、話せば話すほどそう思う。仕草も、考え方も、なんとはなしに浮かべる表情も、時折呆けたことを真剣に言うところもよく似ていて、その都度元親はどきりとする。けれど本人には勿論言っていない。
二度目の出会いをしていると思えば、なんて幸せなのだろうと思う。



その日、毛利は四国にやって来た。出迎えた元親の前で、毛利は桟橋から降りるとき、風が急に吹いてふと眉を顰めた。砂埃が目に入っただけだったのだろうが、元親は思わず腕を伸ばすと、彼をひょいと抱き上げていた。
驚いたのは毛利である。
「なっ、―――何をする貴様?」
「あぁ、いや・・・ええと」
最初に狐神が此処に来たとき、嫌な顔をした。その表情に少し似て見えて、元親なりに咄嗟に、この地面に足をつけなければよいのではないかと考えたのだった。
当然毛利にそんな話をするわけにもいかず、黙っていると、ばしんと頭をはたかれた。
「早う、おろせ。家臣たちの前ぞ。我に恥をかかせるな」
「・・・恥?なんで恥なんだよ」
思わず言い返すと、毛利は苛々とした様子でまた元親の頭をべしんと叩いた。
「おろせ。早う」
「・・・要するに、あれか。恥ずかしいってか。あんまり抱っこされたこと、ねぇのかよあんた?」
「そういう問題ではない!」
元親は楽しくなってきて、大笑いすると毛利をよいしょと抱きあげなおす。さて、今日は重機類をご覧にいれるぜ、と言いながら悠々と歩きだす元親と、早くおろせの一点張りで元親の腕の中でじたばたする毛利を、毛利の船の者たちは呆気にとられて見送った。



岡豊の城へ向かう馬のところまで来て、ようやく元親は毛利をおろした。毛利は不貞腐れた顔で、ちらりと元親を見た。
「・・・無理をしおって。まだ癒えておらぬであろうに」
小さな、ぼそぼそとした声だったが、元親は嬉しくなってばしんと毛利の背中を叩いた。
「脇腹か?もう大丈夫だぜ!心配してくれるのかよ、毛利」
「―――知らぬ」
ぷいと顔を背けると馬に跨る。元親も自分の馬に跨った。
そのまま城の近くの重機をつくる場所へ毛利を案内する。
「―――以前見たが。やはり大きいな」
「厳島であんたに撃破されちまったからな。弱点補強中だ」
「・・・ふん。また殲滅するまでよ」
それから、じっと見上げて、毛利はふと呟いた。
「・・・よく見れば、・・・これは、象を模したか?」
「―――」
元親は、声をなくした。
呼吸を三度。そうして、少しさびしそうに笑うと、白い髪を片手でかきまぜた。
「・・・おう。そうだぜ。本物は見たことねぇから、本やら巻きものやら見て作ったんだがよ」
(・・・“あいつ”も、これ見て象のようだと言っていたっけなぁ・・・)
元親は、毛利から離れると自分の工具箱を探した。片隅に入れてある小さなものを取り出すと、それを持って毛利の傍へ戻る。
訝しげな毛利に、
「これ、やるよ」
取りだして差し出したのは、以前狐神に渡した小さな象のからくりだった。
元親はぜんまいを巻くと、それを床に置いた。久々だから動くかどうか、と呟くと、果たして小さな象の人形はかたかたと揺れながら、ゆっくりと、けれど間違いなく毛利の足元へと進んだ。
「・・・ほう。面白い」
毛利は感心したのか、かがむとそれを手に取った。それ、あんたにやるよと元親はもう一度言った。毛利は不思議そうに玩具の象と元親の顔を交互に見比べていたが、やがてひとつ頷くと自分の着物の袂に入れた。
(・・・長かったなぁ)
元親は、そっと笑った。
目の前にいる人物のは、好きだった相手ではなく、体を重ねた相手でもない。
今はまだ、友人と呼べるところにも辿りついていない。
それでも、―――ゆっくり歩いていけばいいと、元親は思う。



「なぁ、毛利。・・・いつか一緒に、天竺行かねぇか」
「・・・天竺?だと?」
「おう。俺の船で。一緒に。」
象を一緒に見ると約束した相手はもういないが、目の前の男と一緒に見られたら嬉しいだろうと元親は思ったから、素直にそう誘った。
毛利は、珍しく「戯れ言を」と馬鹿にはしなかった。真面目な顔でしばし考えていたが、やがて小さく微笑んだ。
「・・・面白いやもしれぬな。つきあってやらんこともない」
「そうか?ありがとよ」
「しかし、貴様、方向音痴と聞いた。その体たらくで天竺に果たして辿りつけるものか・・・」
「なっ。ちっくしょう、誰だそんなこと言いやがったのぁ!?」
思わず声を上げると、毛利はすまして、そのようなこととっくに誰でも知っておるわ、と言うので周りの者たちも笑った。
元親は、頬を膨らませていたが、やがて一緒に笑いだした。
それから、
「おっ。―――いいこと思いついたぜ」
毛利の顔を覗きこむ。



「だったらよ」
元親は、満面の笑顔を浮かべた。
「これから、行くか。一緒に」
「は?・・・天竺にか?」
阿呆、と呟いて毛利は元親を呆れ顔で睨む。元親は、いやいや、と首を横にふった。
「天竺はちょっと早いな。・・・だがよ、ちょうど俺、日の本の地図を書いてみたくてよ!旅に出ようかと思ってたんだ。あんたとこと同盟関係になって、国も安定したし・・・」
「・・・旅?地図?なにを馬鹿な・・・」
「馬鹿なことじゃねぇよ。地図書いてるうちに方向音痴だって直るかもしれねぇだろうが!なんたって面白そうだろ?」
元親は、再びひょいと毛利の体を抱き上げた。
今度は、毛利はうろたえもせず、怒りもしない。ただじっと、元親を見つめる。
元親は、腕の中の毛利の顔を見つめ、頷いた。
「行こうぜ、毛利。俺と一緒に」



・・・小さく、毛利の首が、縦に振られたのを見てとって、元親はよしっと大きな声を上げた。



「善は急げだ。行くぜ毛利!」



(終)



そして「旅の途中」に続く・・・と、いいな!

この話は、BASARAサイト開設してすぐのときにいただいた「狐の毛利」リクエスト・案を元にして書きはじめました
知識・構成力・筆力、全部不足でうまくまとめられず、当初のあらすじと内容も随分変わってしまい・・・3年以上かかってどうにか完結 orz あらためまして有難う御座いました。

獣耳のパラレルは、自分は不得手と最初からわかっていたのですが、実際始めてみると本当にもうこれどうしたらいいのっていうw 無駄な設定ばかりが増えてもはや誰得状態ww
拍手メッセージをいただくたびに「読んでくださってる方がいる限りは頑張ろう」と思って書いていました ほんとに有難う御座いました。

伊羅と狐の話は書く気はなかったのですが、わかりづらいとご意見いただいたので恥ずかしながら入れてみました・・・今更ながら、オリジナル作品でやるべきネタだっただろうかと反省してます。しかし色々調べててすごく楽しかったので、今後に生かせたらいいなぁと思いました。誤字脱字などお気づきの場合は教えていただけると嬉しいです。

サンデーが書いてて楽しかった!サンデー好きです。元就の中の人はサンデーに近い気がしますw いつかサンデーがプレイアブルキャラに昇格することを祈ってる。
読んでくださった皆さま・感想や拍手・ご意見くださった皆様に心から感謝いたします。有難う御座いました!(20091218 M)