まなかい





立ち寄るところがあるという。
何処へと問うと、ダチがいるんだ、と笑顔と一緒に応えが返ってきた。機嫌が良いのはすぐにわかった。面白いもんが見られるぜ、とも言う。元就に見せたいのもあるだろうが、自分が主に見たいのだろうと感じてそう指摘すれば、元親はぺろりと舌を出して「ばれたか」と笑った。
そういえば以前そんなことを言っていただろうかと元就は考え、考えながら何故か少し胸がすうとつめたくなった。
しばらく歩いた。
その間いつも以上に黙っていたらしい。元親が唐突に、具合でも悪いのかと心配そうに言うので元就は首をかしげた。
「別に。何故だ」
「いや、・・・ずっと黙ったっきりだからよ。どうかしたかと思った」
元就は瞬きをした。それから、手のひらを翳して天を見上げた。日の光が燦々と降り注ぐ陽気である。
「我は記憶力は悪くはないほうだが、貴様よりは」
「?なんの話だ?」
「思いだせぬ」
「だから、なにを」
「これから行く、貴様の“ダチ”と、“面白いもの”についてだ。聞いた覚えが確かにあるのだが」
「あぁ、―――竹千代のことか?そういやぁあいつのこと、最初の頃に話したっけな。そのうち寄るからって」
やはり、と元就は思った。
(何故覚えておらぬ?)
元就のもやもやしたこころに気付かず、元親は、たまにゃ忘れることもあるだろうぜと気楽に笑っている。



三河の城は簡素だったが堅実なつくりだった。あるじの人柄がうかがい知れる。
元親はさすが“ダチ”と言うだけあって、門番も笑顔で応じてくれた。ただ連れの元就については、やはりすんなりとはいかない。そもそも本当は中国の国主なのだから、本来ならば捕らえられても文句は言えないのである。
元親は、なんとか元就も一緒に、と思っているらしく色々話をつけようとしてくれているのだが、元就は特にこだわりもない。我は町宿で待っていると言った。
ちょうどそこへ城のあるじが戻ってきた。小柄で溌剌とした若者である。元親を見るや嬉しそうに声をあげた。
「元親じゃねぇか!なんで此処に?四国はどうした、ほっぽって海賊稼業か?」
元親は、人差し指をたてると、しーっという仕草をして片目をつぶった。
「ちょっくら、視察だ。・・・って言うのも言い訳だが」
「やっぱり海賊か?いいのか、四国の頭領が」
「野郎どもがちゃあんとやってくれてッから大丈夫だろうぜ」
和気藹々と話しながら、二人は中へ入ろうとする。元就は、黙ってその様子を見て立っていた。
「―――っと!いけねぇ、おい、竹千代。紹介するぜ、俺の連れで、えーっと」
「―――少輔次郎と申す」
素っ気なく仮名を名乗ると、元就は頭を下げた。竹千代は訝しげな表情のまま曖昧に頷いた。
「どこのお方で、どういう関係だ?元親」
訊かれて、元親と元就は顔を見合せた。最初は、元親の小姓だということにしようと思っていたのであるが、自然に元就から滲み出る威厳やら気品が、竹千代にはあっさりばれてしまったらしい。
「・・・まぁ、・・・あれだ。俺の一族ってぇか。いちおう部下のひとりなんだが」
他に言いようもなかったのだろう、元親が顎をなでながら困ったように応えた。竹千代はさらに食い下がる。
「部下だと?海賊にゃみえねぇぞ、お前とちがって上品だ」
「あー・・・母親の遠縁の従弟の息子なんだよ。俺んとこで今預かってるんだ、そういうこった」
「おめぇの母親、別に京生まれでもなんでもねぇだろうが?どう見てもこの御仁は四国の田舎者らしくねぇ」
「おい、さっきから聞いてりゃうるっせぇぞ竹千代!四国を田舎よばわりすんなッ」
元就は二人のやりとりを黙って聞いていたが、やがて袖で口元をかくして、ふ、と微かに笑った。
竹千代が、それに気づいたか口を噤んだ。元就の唇が開いた。
「――我は長曾我部の縁につらなる、伏見は秦氏の神祇(かみづかさ)なり」
「・・・あぁ・・・そういや、長曾我部の祖は秦氏だったな。なるほど神職か。それならうなずける」
元就のよどみない口上と振舞に、竹千代はすっかり納得したらしい。
弾んだ声で、ワシは家康、と名乗った。
「でも身近なものは竹千代と呼ぶ。御仁もそう呼んでくれていっこうかまわん」
先に立って、元就を先導したので、元親はほっと胸をなでおろした。
途中、元親は元就を小突いた。あんた、俺の先祖なんざよっく知ってんな、と小声で耳打ちすると、元就は首を傾げた。なにかおかしいか?と問うと、元親はべつに、と言って笑うばかりである。
知っていてくれて嬉しかったのだが、それは言わなかった。



「徳川に過ぎたるもの、か」
案内された場所で、元親はなんとも言えず上機嫌だ。竹千代は苦笑しながら、余計なとこを触るなよと念押ししている。
「忠勝は今寝てるんだ。起こすなよ?」
「わぁってるぜ。・・・しかし相変わらず、でけぇな」
三人の目の前で、静かにひざまづく格好で蹲っているのは、戦国最強と謳われる本田忠勝その者である。元就は、直接会うは初めてであったので食い入るようにその巨体を見つめていた。黒く光る装甲は重く鈍く色を湛えて、薄暗がりに浮かび上がる。
忠勝本人は、しんとして動かない。
眠っている、と竹千代は言ったが、元就は近づいてその体温の感じられない、寝息すら聞こえない“彼”に、違和感を感じた。全身は装甲に包まれて見える体の部分は目元だけである。その瞼すら、閉じられているためにほんとうに瞬きをして動くのか怪しい、と元就は思った。
元親と竹千代は、忠勝を囲む重厚な機械類の話で盛り上がっている。元就はぽつんと立っていたが、動かぬ忠勝を見つめているうちに息苦しくなってきた。
元就はつと、元親の袖を引いた。元親は話に夢中で気づかない。
何度か引いて、やっと気づいて元就を見下ろした。
「ん?なんだ?」
「・・・此処は気に入らぬ。我を外に案内せよ」
元親は、あからさまに嫌な顔をした。
「俺は今竹千代と話してる。気に入らないなら、別に付き合わなくっていいから、上にあがって表で待っててくれ」
「・・・」
元就は、元親の袖から手を離した。元親は忠勝に触れながら、竹千代と喋っている。
元就は、黙ってくるりと踵を返すと、この場に来た道をたどって外に出た。



屋敷の敷地からも出て、元就は一人だだっ広い野原に佇んでいた。遠くまで見渡せる平野である。冬場は雪のちらつく場所だと聞いていたが、今日はそんなことはなく、―――ただ、傾きかけた日輪の色が橙に足元の枯草を照らして、すこしうら寂しい。
手近にあった適当な石に腰掛けると、元就は黙って沈みゆく夕陽を見つめていた。
朝方は思い出せなかった、竹千代や、忠勝について、以前元親に聞いたときのことが静かに思い出されて、元就は自分の記憶を不思議に思った。忘れていたわけではないのにどうして朝は思い出せなかったのだろう、と。
思うに、元就は元親の(おそらくは)大切なそれらに、さほど興味がなかったということであろう。
ありていに言えば、「どうでもよかった」のである。
元親が親しく語る“ダチ”も、目を輝かせて触れる“戦国最強”も、元就にはただの三河の小大名と、それに従う巨体の武将でしかなく、個としては意味を為さないものであった。
(・・・ことごとく、奴とは合わぬな)
元就は意識せず溜息をついた。
遠い土地でも夕焼けはかわらずうつくしく、元就はそれを見ているうちにふと留守にしている国を思い出した。
どちらかといえば元就にとってはあの国は義務であり、あの国(と、民や駒たちの)元就への視線も冷めていると思う。それでも元就にとっては己の存在の拠り所にはちがいない。
瀬戸海の穏やかでどこかかすんだような色を思い出して、元就はふと俯いて笑った。郷愁などというものはもっとも自分から遠いものだと思っていたのに。
心の何処かで、誰かが、「帰りたい」と言った。小さな童の姿の己が見えたのかと元就は思った。





突如、轟音と、地響きがした。
元就は巻き起こった風に、なにごとかと立ち上がり、顔を上げた。
黒光りする巨大な影が、在る。
「―――ッ、貴様」
元就は咄嗟に武器を構えた。そこに在るは、戦国最強を謳われる無敗の武将その人であった。
いつの間に、どうやって先ほどの場所から来たのかわからない。気配は空から現れたことはわかっていたが、ふつうに考えてありえないことだった。元就の思考が混乱を訴えて、同時に危険も知らせていた。
(・・・ばれた?我が誰か?)
けれど国主の命令無くこの忠臣・忠勝が元就を討ちに来るだろうか。だとしたら―――竹千代と一緒にいた元親は?
(長曾我部は、こやつが我を討つを認めたのか?止めなかったのか?)
たどたどしく考えをまとめながら、元就はまた少し胸の奥が冷たくなった。最近そういうことが増えているのは奇妙なことだと自嘲する。



手が、差し伸べられた。



元就は、黙って見つめた。
元親の手ではない。黒く濡れたように光る、鋼鉄の鎧に固められた巨大な手である。
「・・・なんだ?」
思わず口にして、見上げた。
戦国最強の武将は、黙って元就を見下ろしている。相変わらず温度は感じられず―――けれど、元就は、このただの黒い塊だと思っていたものが、確かに生きているのだと実感して薄く笑った。
差し伸べられた手は退くことはない。その手は非常に巨大であった。元就は、思わず手を伸ばし、触れた。冷たい感触なのに、なぜかどこか温かい。
そのまま、元就はその手に腰かけた。忠勝は、かがめていた体をゆるりと起こした。自然、元就は忠勝に抱きあげられる格好になった。
再度、轟音と、煙がのぼりたつ。元就は袖で口元を覆って、足元を見ると、目を瞠った。確かに少し浮いているのである。
「・・・ほう」
感嘆したときに、悲鳴のような元親の声が轟音を掻っ切って届いた。
「おいっ、本田忠勝ッ!!!てめぇ、俺のそいつを何処へつれていきやがるつもりだ!!?」
駆けてきたのか、元親の息は上がっている。その間も、少しずつ元就を抱いた忠勝は空へと浮かんで行く。
元就は、わけもなく天を仰いだ。紅く染まる空の向こうに、己の国があることを思い出した。帰りたい、と―――思った瞬間、さらに忠勝は浮かんでいく。帰るのだ、と思った。このまま空を飛んでいけば、元就を拒絶しつつ受け入れるあの国がある。
そうして、また、ひとりだ。
竹千代の声がした。
「待てッ、忠勝!下りてこいッ!!勝手は許さんッ!!!」
爆音が、その声に少し、おさまった。
忠勝が降下を始めたことに気付いて元就は近づく地面を瞬きもせず見つめた。
あと数丈、というところで、下に元親がいてこちらを見上げていることに気付いた。元就は眉を顰めた。思わず、立ち上がろうとする。何故か近づきたくなかった。
立とうとしたのがいけなかったのだろう。元就の体はぐらりと平衡を崩し、
―――落ちた。
「―――元就ッ!!!」
天へ差しのべた元就の手は何も、誰もつかむことはない。
かわりに全身へくるはずの衝撃はさほどでもなく、けれど元就は自分を受け止めた者を確認するのを拒絶するように気を失った。



















「―――なぁ、元親。ほんとのとこ、どうなんだ?」
竹千代が、眠る元就に内掛けをかけてやる元親に、小声で問うた。上半身を肩脱ぎの元親はあちこちに膏薬を貼られている。細身とはいえ落ちてきた元就を受け止めるのはそれなりに体への衝撃があったためだ。
元親はふりかえって、首をかしげた。
竹千代は、子供のようにわくわくした気分を隠しもしない。訝しげに元親は聞き返す。
「ほんとのとこ?」
「このお人よ。何者だ」
「・・・だから、俺の遠戚だつったろうがよ、最初に」
受け止める際、思わず諱を呼んでしまった。そのせいで元就の身分がばれたかと、少し視線を逸らせながら言ったのだが、どうやらまったく見当違いだったらしい。
竹千代は掌を広げ、もう片方の手で小指を差してにこりとした。
「要するに、おめぇの、懸想相手――コレだろう?」
直球すぎる言葉と仕草に、一瞬元親は何を言われたかわからず、じっと竹千代を見つめた。―――たっぷりみっつかぞえるくらいそうして見つめた後、傍目にも面白いほど狼狽して大きな声を出した。
「ばッ!!!―――馬鹿言ってんじゃねぇぞ、竹千代!!!こいつはなぁ!!!」
「やっぱりな、図星か。俺のそいつ、とか言ってたもんなァ。ははッ、なんだ、そうならそう言え」
「違うつってんだろうが!!!」
「まぁ、わかる気はするな。別嬪だからなァ。―――おい、誰か。此処に元親の布団も敷いてやれ」
「竹千代ッ!!!てめッ、人の話を聞きやがれ!!!」
「照れるこたねぇだろうが。ワシももうそれくらいはわかるぞ。邪魔はせん、ゆっくりしていけ」
もはや聞く耳持たず、勝手に思いこんだまま竹千代は豪快に笑うと部屋を出ていった。入れ違いに竹千代の言葉どおり布団一式を持った腰元たちがやってきて、さっさと元就の隣に元親の布団を支度してしまった。
ごゆっくり、と言われて、元親は声も出せずに条件反射のように頷いていた。
障子が、ぱたりと閉まる。



「・・・違うつってんだろうがよ・・・」



溜息をひとつ、元親は眼帯に手を置いて呻いた。
それから、ちらと元就を見た。
冷酷な智将と名高い中国のあるじは、最初に会ったときと同じ人物かと疑いたくなるほどに無防備に眠っている。
忠勝も、あの後また眠ってしまって動かなくなった。竹千代が言うには、彼はこころに反応するのだという。二人で話していたら突如起動したときはほんとうに肝を抜かしたことだった。勝手に飛んでいったかと思えば、元就をどこかへ連れていこうとしていたのだ。
それにしても、竹千代以外に反応したのは初めてだったらしい。さきほど竹千代が言った言葉が思い出された。
「まっすぐな心に忠勝は反応し、起動する」―――、と。
忠勝は中国まで元就を送っていこうとしていたのだろうか。“彼”が人のこころに反応するというのなら、元就自身が本当にそう願っていたことになる。
「・・・毛利よぅ、」
元親は小声で話しかけた。骨の張った手を取る。
「・・・あんた、帰りたいかよ?俺と一緒は、嫌ってか?」
応えがかえることはなく、静寂は元親をよけい揺さぶった。どうにも哀しくなって、元親は元就の手の甲を数えるように自分の掌でなぞる。きんとこわばった夜の静謐な空気は元就のようだと思った。乱されることが、ほとんど、ない。
昼間、自分が元就に勝手に外に出てろと言ったことをようやく思い出して、元親は項垂れた。それから、今までにも、同じように彼を邪魔にするように扱っていることがある己を省みて、余計にしゅんとした。
「・・・別に、そういうわけじゃねぇんだ。あんたを邪魔になんてしてないし、――ただ、」
元親と元就のまなかいはいつも少しだけずれていて、互いが何処を見ているかわからない。好きなものも嫌いなものも合わない。元親は人が好きだし、けれど元就はひとりを好む。時代を生き抜くやりかたも違う、元親は天下を曲がりなりにも夢見て、元就は上洛になぞいささかの興味も無い。元就の見ている最も重要なものが中国と毛利の安泰だけなのは、旅にあってもかわらない。
その二人で一緒に歩いていくのは、たとえ仮初としても、果たしてよいことなのだろうかと元親は考え込む。
ふと、元就の手が動いた。元親ははっとして、咄嗟に手を放そうとした。
けれどやわらかく、元就の手が握られて、元親の手に温度と力がしみこむ。幼子のような仕草だった。
そうなってしまうと、もう、元親には放すことはできないのであった。
手を握り合ったまま、元親はごろりと元就の隣に転がった。空いた手で自分の布団を器用に引っ張ると、元就の布団とくっつけてやる。ったく竹千代の野郎、と口の中で文句を言いながら、元親は目を閉じた。
少なくとも日輪が昇るまでは、この手が離れることはないと少し安堵して。







三河の徳川屋敷を出て、元親と元就はまた一緒に歩いている。
元親が朝目覚めたときには当然のごとく朝日が昇っており、元就はすっかり身支度を整え日輪に拝謁した後だった。いつもどおり、である。
元親の手になにも残っているはずもなかった。元親は僅かに残念に思いながら起き上がって着替え、元就はその傍らで荷物をまとめた。
黙々と二人で用意された朝餉を平らげて、竹千代に礼を言って屋敷を出たが、それからふたりとも終始、無言である。
やがて元親の足が、ぴたりと止まった。後ろを歩く元就を振り返る。
「なぁ、毛利」
呼ばれて、元就は元親を見上げた。
「・・・帰りたいか?中国に」
問われて、元就は少し眉を顰めた。
「・・・あんたが帰りたいってんなら、べつに俺は止めねぇぜ」
そんなふうに元親は言って、それからがしがしと白い髪をかきまぜた。違う、そうじゃなくて、と言葉を探す。
「つまり、貴様は我に中国へ戻れと言うか」
元就はじっと元親を見つめた。元親は焦って、そうじゃねぇよ、と言った。
「俺がどうこうって、言ってんじゃねぇよ。あんたの気持ちを聞いてんだ」
「・・・我は中国を統べる身ぞ。そもそもこうして行く末も決めず歩いてよい道理があるまい」
元親はそれを聞いて、そうだよなと項垂れた。
そもそも、なりゆきで無理矢理連れてきたのだ。これだけ続ける必要もなかった。ひとりになっても、元親には旅の目的がある。元就には無い。
元就の足が前に踏み出され、元親を追い越して歩いていく。元親は黙ってその背を見つめた。
(・・・そうじゃなくって)
帰りたいか、と訊いてしまった己を元親は恨んだ。聞きたかったのはそれではない。
(もう少し俺と一緒にいてくれねぇか、ってことだったのに)



「・・・なにをしている」



声が届いて、元親は弾かれたように顔を上げた。
元就がこちらを怪訝な表情で見ている。
「まだ然程歩いておらぬ。もう疲れたか貴様」
「・・・あ?」
「今日の目的地は何処だ。はよう案内せよ」
「・・・・・・」
元親はぽかんと口をあけて立っている。元就はそれを見て、苛々と足元の地面をかかとで軽く一度、踏んだ。
「体が痛むなぞという言い訳は聞かぬ。貴様が勝手に我を受け止めたまでのことよ」
「・・・おい、毛利」
元就は少しどぎまぎしながら別のことを問い返した。
「俺と一緒で、いいのか」
元就は眉を顰めた。
「貴様がおらぬと困る。我は行先なぞ知らぬ」
「―――」
元親は、やっと、笑顔になった。
「そうか、・・・そうだな」
元親は足を踏み出した。元就に追いつくと、細い肩をぽんと叩いて、隣に立ち、ゆっくりと一歩。追い越しかけて、元就も一歩踏み出し、隣合わせに歩きはじめる。
「行くか、毛利」



合わない歩調でも、重ならないまなかいでも、―――二人でいたってかまわないのだと。