Late Night, Maudlin Street  レイト・ナイト・モードリン・ストリート
"冬がやって来る
 冬がきて
 どんどん
 深まり
 冬は、とても長く続き
 冬は去ってゆく"

深夜のモードリン・ストリート
さようなら お家
さようなら 階段
私はここで生まれ
ここで育ち、そして
……ここで、罰せられたようなもの
一目惚れだなんて
陳腐に聞こえるかもしれない
けれど本気だった 分かるでしょ
あなたが着ていた服全部を
細かく書き連ねることだってできた
あるいは、
あなたが言った言葉の一つひとつでも
あの日をどうやって耐えたのかでも
そして、ふたりがモードリン・ストリートで過ごす
最後の夜に、私言うわ
「さようなら お家、永遠に!」
この辺りで幸せな時間を盗み取ったことなんか
一度もなかった

ここは世界で最も醜い少年が
あなたの知る通り
ここにいる私に……世界で一番醜い男に変わった場所
モードリン・ストリートでの最後の夜
心から、やっぱりあなたを愛している
心から、やっぱりあなたを愛している

眠る時には、あなたの写真を
ベッドの脇に置いている
おお、子供っぽいし、馬鹿みたい
けれど、あなたが私の部屋の
ベッドの脇にいるように思うから(……そう、馬鹿みたいだって言ったでしょ)
自分でも分かっているの
私、変な薬を飲んだけれど
あなたを傷つけるつもりなんか無かった
心から、あなたを愛している

ある晩、家に帰ると
みんなはもう寝ていた
けれど 当たり前だよね
頭中に16針の縫い傷がある奴を
起きて待ってる人なんかいやしない
乗り損ねたバスはモードリン・ストリート行きの最終バス
そこで、彼がトラックに乗せて送ってくれた
「女達は、俺の性格は好きだって
 言うんだけどな……」と、ぼやきながら
懐中電灯をお忘れなく
1972年の停電に
備えなさい、でしょ
そんなわけで私達はこっそり公園を通り抜けて行く
なのに失敗、私はあなたのために
物干し紐からジーンズ一枚盗み取れない
けれど、あなた……服を脱いだあなたに
おお、すまし顔ではいられない
私……服を脱いだ私には?
そうね 国民ごと顔を背けて吐いちゃうさ……

私は荷造りされ
お家をお引越し
そこらじゅうの尻軽女に手を振られながら
今日で人生の半分が消える
(内心では私にいなくなって欲しいんだ
 いいとも、すぐにいなくなってやる
 おお すぐにいなくなってやる)
 すぐにいなくなってやる
 すぐにいなくなってやる
 すぐにいなくなってやる
 すぐにいなくなってやる
 すぐにいなくなってやる
 すぐにいなくなってやる

あなたがパトカーに連れて行かれた頃、
モードリン・ストリートは酷い時代だった
親愛なる警部補殿―ご存知じゃない?
どうでもいいとお思いで?
ご存知じゃないかしら―愛のことなんか?

あなたの祖母が死んだのも
あなたの母親が死んだのも
モードリン・ストリートだった
苦痛と屈辱にまみれて
大切なことを言う時間など
ありはしなかった
モードリン・ストリートからは重要なことを学んだ
そう、こんなものただの煉瓦とモルタルに過ぎないのさ!
そして……心から、やっぱりあなたを愛している
あなたが何処にいようとも
あなたが何処にいようとも
あなたが何処にいようとも
どうか今も歌っていますように
願わずにはいられない……
どうか今も歌っていますように


・Maudlin Street
 日本語にするなら「感傷通り」。

・goodbye house-forever!
 homeが「家庭や家族、帰る場所」といったニュアンスを伴うのに対し、houseは単に「建物」としての意味で使う場合が多い。
 ナレーターがモードリン・ストリートで悟った「家とは単に煉瓦とセメントの固まりに過ぎない」との決別を、houseという言葉がそのまま表している。
 
 「感傷通り」と呼ばれるような湿った路地から抜け出せずに、苦痛と屈辱にまみれて死んでいった祖母と母親(男親の不在が示唆されている)に育てられ、パトカーに乗せられて何処かへ連れて行かれてしまった「あなた」を愛した「私」の物語。

 一目惚れで、本気で、心から愛して、ベッドの脇にあなたの写真を飾りながら自殺未遂をして、『でもあなたを傷つけるつもりはなかった』と言う私。

 私の頭には16針の縫い傷があり、家族からは邪魔者扱いされている。おまけに世界で一番醜い(と、自分自身のことを思っている)。

 生まれ育った家へ、ついに永遠に「さようなら」を告げる時がきても、あなたが何処にいるのかさえ分からず、できるのは『どうかあなたが今も歌っていますように』と願うことだけ。

 ……物凄いな。まるでモリシーのメロドラマ好きが煮詰まって、最後に澄んだ結晶になったかのような歌だ。

 私が好きなのは、Viva Hate収録のアルバムヴァージョンよりも、02年のライブヴァージョン。I Just Want To See The Boy Happy 7inch(picture Vinyl) B-sideに収録されている。アルバム版よりもストレートな演奏が歌詞世界の叙情性により合っている。特に、この曲をを印象付ける間奏部分のギターリフは、まさに涙を誘う美しさだ。

 ちなみにこの歌は、
 Where the world's ugliest boy
 it became what you see
 here I am - the ugliest man
 という一節から分かるように、明らかに男性がナレーターの歌であるが、言葉遣いをかなり柔らかくした。私がモリシーの歌声から聴き取った「こんな感じ」のままに。

収録アルバム
基本的にオリジナル・アルバムのみの記載です。
アルバム未収録曲に限りベスト盤等を記載します。

Viva Hate