1. You're Gonna Need Someone on Your Side
2. Glamorous Glue
3. We'll Let You Know
4. National Front Disco
5. Certain People I Know
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6. We Hate It When Our Friends Become Successful
7. You're the One for Me, Fatty
8. Seasick, Yet Still Docked
9. I Know It's Gonna Happen Someday
10. Tomorrow
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ソロになって初めて"マイ・バンド"を率いての3rdアルバム。
10曲中8曲を作曲したのは、Kill Uncleツアーからギタリストとして採用されていたアラン・ホワイト。以前は小さなパプやライブ・ハウスでロカビリーのカバー・バンドをやっていたという当時無名の25歳。全く実績の無い、言い換えれば、まだ誰の手垢もついていない青年の抜擢が、いまいち勢いに欠けていた前2作の殻を破り、楽曲に新味をもたらす結果となった。
アランの楽曲は若々しくパンチの効いた(という表現が合う)ロックンロール曲でありながら、同時に、モリシーの好みそうな色気が見え隠れする。
特に"Glamorous Glue" "We Hate It When Our Friends Become Successful""Tomorrow"は初々しさの光る良作だ。
また演奏についても、前回までの腕利きミュージシャンを集めて作った装飾的な音から一転したタイトでシンプルな演奏が、かえってモリシーの声を引立てている。
歌詞に目を移すと、"Glamorous Glue"では92年の保守党再選の失望を絡めて「ロンドンは死んだ」と複雑な愛憎を歌い、"We Hate It When Our Friends Become Successful"では成功者を妬み引きづり降ろそうととする英国人(特に生まれ故郷マンチェスターの北部人)の性格を、"Certain People I Know"ではパブで管を巻くしかすることのない労働者階級の生き方を、"The National Front Disco"では国粋主義運動へ傾倒し命を失う若者の姿を、"We'll Let You Know"では一部の人達の中にあるぞっとするような「敵意」を……、当時モリシーが見ていた英国の様々な暗い側面を、時に率直に、時に特有の皮肉をまぶし描いている。
その中でも、"The National Front Disco"は右翼政党の「National Front」にちなんだ曲名であったため、あたかもモリシーが彼らに賛同し人種差別を肯定しているかのように受け取られもした。しかし、きちんと曲を聴きさえすれば、それが愚かな誤解であることが分かるだろう。"We'll Let You Know"のジワジワと忍び寄って来る恐怖感、"The National Front Disco"の不可解なまでの高揚、破壊と喪失は歌詞の真意をきちんと表現している。それはプロデューサーのミック・ロンソンの素晴らしい音作りの手腕に依るところも大きい。
他にも、「いつの日にか」を夢見るかつての自分自身を慰めるかのような"I Know It's Gonna Happen Someday"は、悲しみと優しさとノスタルジックさが漂う逸品。後に04年のツアーでも披露され、年齢を経た声で歌われると更に感慨深く、長く歌い継げる財産のような曲になった。
更に「壊れてしまう前に、君には傍にいてくれる誰かが必要だ」と叫ぶ"You're Gonna Need Someone on Your Side"や、「本当に明日は来るのかい? 本気じゃなくても良いから、愛していると言ってくれ」と懇願する"Tomorrow"には、今までになく肉感的でセクシーなモリシーの姿がある。
ソロ3作目にして時流を全く無視し、グラムロック、ロックンロール、ロカビリーとやりたいことだけをやった結果、ソロキャリアの大胆な心機一転となった一枚だ。