How Soon Is Now? / First Of The Gang To Die / I Just Want To See The Boy Happy / That's How People Grow Up / Stop Me If You Think You've Heard This One Before / Sister, I'm A Poet / Something Is Squeezing My Skull / All You Need Is Me / The National Front Disco / Death Of A Disco Dancer / Life Is A Pigsty / The Loop / Billy Budd / Mama Lay Softly On The Riverbed / The World Is Full Of Crashing Bores / I'm Throwing My Arms Around Paris / Why Don't You Find Out For Yourself? / Stretch Out And Wait / Irish Blood, English Heart // Last Of The Famous International Playboys
Roundhouse
久々のロンドン公演初日。ラウンドハウスは地下鉄駅カムデン・タウンから歩いて10分程にある、名前のとおり丸いドーム屋根を持つ3,000人(スタンディング)収容の会場だ。私は最前列向かって左側、ボズとソロモンの前辺りから観た。
クラウス・ノミの「
Wayward Sisters」が終わると、お馴染みのモリシーチャントが沸き起こる中、バンドを従えたモリシーが「Good evening West Ham」と言いながらステージに現れた。モリシーは黒のシャツに、黒地にジェームズ・ディーンの顔がシルバーでプリントされた幅広のネクタイを締め、茶色のスラックスを穿いている。バンドは濃い色合いのデニム上下、素肌にデニムジャケットを羽織っているのがセクシーだ。特に足が長くスタイルの良いソロモンには良く似合っていた。
一曲目のへヴィーなThe Smiths曲「
How Soon Is Now? 」から、続いてアップテンポな「
First Of The Gang To Die」まで一気に歌う。そして「ハロー。ありがとう、僕の名前はトラブルに違いない」と自己紹介を挟んで「
I Just Want To See The Boy Happy」を勢いよく歌い上げた。新キーボードのクリストファーが、前任のマイキー(ファレル)に比べ、ややたどたどしいながらもトランペットで曲の最後を締めくくった。
モリシーは「感謝したい。どうも、どうもありがとう」と、新シングルをオンエアしたRadio 2とXFMへの謝辞を述べて(モズは一昨年のツアーからラジオで曲がかからないことを度々愚痴っていた)、新シングル曲「
That's How People Grow Up」へ。イントロのクリスティーン・ヤングのコーラスは、そのままテープで流していた。
「
Sister, I'm A Poet」は、ソロ初期のような疾走感は薄れているが、それでもやはり良い曲だと思う。この曲はベースラインがとても魅力的なので、欲を言えばウッドベースを使ってスラップを派手にやって欲しいところだ。モズは曲最後の“all over this town”を昔と同じように力んで歌っていた。しかし今夜は声が詰まっていて苦しそうだった。
モリシーが声の不調について「分かる?トテナムの人々が言うように、僕は喉に蛙を飼っているんだ。可愛いフランス人のことじゃないよ」と言った後、曲はThe Smithsの「
Stop Me If You Think You've Heard This One Before」へ。やや早口の歌なせいもあり、ところどころで声が割れてしまうが、限界まで声を出して歌おうとしているのが分かる。間奏では手を叩き、腰を屈めるアクションで観客の目を逸らさせない。最後に大きくお辞儀をした。
雑誌の売り上げ目的のためにインタビューを曲解して掲載されたと主張するNMEへの皮肉なのか、「僕は大不況のさなかに新アルバムを作っているんだよ(In-between the bloodbaths I've made a new album)。この曲は新アルバムから」と新曲「
Something Is Squeezing My Skull」を紹介した。この曲は、今年のフランスツアーから披露されている、とてもアップテンポな曲で、サビの“Don't give me more, don't give me more”のフリーキーな繰り返しといい、滅茶苦茶にブレイクするドラムといい、良い意味でイっちゃっている。アルバム版もアレンジを綺麗にまとめたりせずに、ライブのテンションのまま壊れた調子で収録すれば面白いと思う。アラン・ホワイト作曲との推測があり、(Warner Chappell でもアラン作として登録されている)、私もおそらく彼の作曲だと思う。
バンド紹介は、いつもの通りボズ、ソロモン、マット、ジェシー、クリストファーとステージ左側から紹介していった。マットのことを「ソロモンと一卵性双生児」と紹介したが、おそらく冗談だろう。別の会場でも同じ冗談を言っていたような気がする。ジェシーのことは「本当に礼儀正しい元気なメキシコ人(real proper, live Mexican)」と言い、クリストファーを「新しい才能(new genius)」と紹介した後、最後に「僕の名前はStanley Ogden」と改めて自己紹介をした。
モリシーとバンド(左から、クリストファー、マット、ソロモン、モリシー、ジェシー、ボズ)
「
All You Need Is Me」は最初に聴いた頃の印象より、だいぶ良くなっている。歌メロにモズ独特の愛嬌があるし、詩の内容も愛らしい。友人が熱狂的なファンについて歌っているんだよと言っていたが、私もそうだと思っている。皆、モリシーの曲や振る舞いにあれこれ文句や苦言を呈する時があるけれど、結局のところ、それはモズのことが「必要でたまらない」からに違いないのだ。モズにこんな歌を歌われると、彼の皮肉っぽいユーモアと、そして奇妙な愛情に思わず笑みが漏れてしまう。また逆に、観客の反応にステージを左右されると言って憚らないモズにとっても、何よりも必要な存在が私達ファンの筈だ。だから、どんなにモズが好きなのか見せ付けてやるために、私達は精一杯の歓声をステージに送るのだ。
私の大好きな「
The National Front Disco」はとてもドラマティックな曲だ。深い情感があって、痛切だと思う。一人の若者が愚かに道を誤り、その喪失された人生を悼む物語だからだ。この歌を聴く度に、いつも胸が熱くなる。曲のアウトロ・ブレイクが終わると、再びモリシーチャントが起こり、モリシーは静かに「Beautiful」と囁いた。
「
Death Of A Disco Dancer」のアウトロで、ふと右側に視線をやるとジェシーがステージ端に積んであったアンプボックスの上に飛び乗って体をスウィングさせていた。彼がここまで目立つことをやるのを初めて見た。ただステージのかなり端っこだったので、気付いていない人が多いかもと思うと残念だ。
ジェシーとソロモン
「
Life Is A Pigsty」はモリシーが熱っぽく吐き出すように歌う歌詞の一言、一言が心に迫るだろう。この曲では、ボズが水を入れたグラスをスティックで叩いて効果音を入れるのだが、何故かなかなか澄んだ音が出ずに顔を顰めていた。アウトロはキーボードで「
蛍の光」のメロディが流れ、綺麗な余韻を残す……
……が、今回は息つく間もなく「
The Loop」に突入!91年、92年のステージで盛上がった曲だが、セットリストに返り咲いた今ツアーでもバンドの見せ場であることは全く変わりない。アップライト・ベースがステージに用意されると観客の期待が高まるのを感じる。マットのカウントを合図にドラムがリズムを叩き込んでイントロを飾り、ボズが旋回するようなロックンロールのリフを弾き、ソロモン、ジェシーとともにステージの前に躍り出る。観客が体をジャンプさせて縦ノリでうねる。
そして間髪入れずに「
Billy Budd」へ。この曲もドラムの勢いが好きだ。また、ジェシーのメイン・メロディを弾くギターと、ボズのリズムギター、エフェクト音を出すラップスティール・ギター(クリストファー担当)との絡みがライブで聴くと一層面白い。ただ今回、クリストファーが最後に入れるべきトライアングル(シンバル?)の音をやや早めに叩いてしまい、モズの声と被ってしまっていた。クリストファーのポジションはやることが沢山あって、体で覚えてしまう前は大変なのだろう、きっと。
モリシーが「もう一曲、新アルバムから」と紹介した「
Mama Lay Softly On The Riverbed」も今年に入ってから披露された曲だ。“ママァァァ〜”という印象的な出だしで始まるこの曲、ミッド・テンポのへヴィーな音で、ちょっと変り種だ。マーチング・バンドのようなスネアドラム(小太鼓)が面白い。ステージの両端に2台立てて、それぞれをクリストファーとボズが叩いていた。この曲は、アラン作曲のような気がしないでもないが、ドラムを聴いているとマイキー作?かなとも思う。が、やはり十中八九アラン作だろう。
「
The World Is Full Of Crashing Bores」の最中、ジェシーの後方から現れた青年が、すーっとモリシーに近寄って行き、後ろからモズの頬を掌で押さえて首筋に優しくキスをした。あまりに静かで素早い行動だったので、客席を向いていたモズはおろか、ステージを見つめている観客の殆どでさえ、青年がキスをするまで気付かなかったと思う。歓声さえ起きなかったのだから。チーフ・ボディガードのアルトゥーロ(Arturo)氏は、青年がステージを飛び降りて初めて気付いた様子だった。チーフはやや困惑した表情でモリシーに振り返り、モリシーは「ふぅん?」といった顔でチーフと目を合わせていた。ボズはずっと愉快そうな顔で笑っていた。ボズはナイスなインヴェーダーを見るのが好きなのだと思う。
「
Why Don't You Find Out For Yourself? 」では、再びアップライトベースが登場。以前はモリシーとアラン、ボズ3人のコーラスが聴き所だった曲だが、アランのいない現在はボズが控えめなコーラスを入れるに留まっている。昔のテープで構わないから、最後のコーラスは入れて欲しいなぁ。とはいえ、やはり大好きな曲なのでセットリストにあると嬉しい。
モリシーが「
Stretch Out And Wait」で、“This way and that way”と左右を指し示す振り付けが毎回可愛らしく、真似して手を振ってしまう。
「
Irish Blood, English Heart」は、モリシーの個人的なテーマソングでありながら、国家的同一性と個人の関係性において普遍的で力強い答えを提示してくれる曲だ。イントロのスリリングなギターには、聴くたびにドキドキさせられる。今回はボズが独特の音を出して弾いていた(以前はアランかジェシーだったと思う。ちょっと確信が無いが)。モリシーは間奏部分でマイクコードを振り回す、お馴染みのパフォーマンスをした。
アンコールは「
Last Of The Famous International Playboys」。ソロ初期の代表曲の一つだ。モリシーが“no, no, yeah, no, yeah”と歌うところは、観客がリフレインして合いの手を入れる。お客も皆して、可愛いじゃないか。モリシーは唸り、聞き取れない奇声を上げ、最後までアグレッシブにステージを盛り上げる。そして曲の終わりに間際にシャツを脱ぎ、観客に放り投げたのだった。
魅惑の肉体