Very Sweet
一個のケーキを食べながら、進藤のことを思い出してしまうのがたまらなく悔しい。 これは好きな味だなとか、居たらきっと喜んだだろうなとか、つらつらと考えながら食べて もちっとも美味しく感じられ無くてそれがまた悔しい。 (…元々そんなにぼくは甘いものは好きじゃないんだ) なのに何故かぼくばかり、こうして頂き物でケーキなど貰ってしまう。 「でもまさか、ケーキを食べに来いなんて言えないし」 だからと言って全部食べるのも非道く空しい。 『おまえっていかにも甘いもの好きそうな顔に見えるんだよ』 それでみんなくれるんだと、いつだったか言われて激昂したが、実際は進藤の方が甘い 物を好きそうな顔をしているとそう思う。 (だって和菓子でも洋菓子でも見ると凄く喜ぶじゃないか) 「あ、美味そう」とか「食ってみたいなあ」とか照れることなく素直に言う。 甘く無い物も好きだけど、甘いものも同じくらい好んで食べる。だからと言って女々し い所が無いのが男らしくていいと思う。 「…何でこんなふうに進藤のことを思い出しながらケーキを食べなくちゃいけないんだ」 ぼくはむしろ漬け物とか渋い味の物が好きなのに。 脇に置いた携帯をじっと見る。 もし呼び出したならきっと即座に『行く』と返って来るに決まってる。でも解っているから こそ逆に呼び出すのを躊躇う気持ちも胸の中にある。 「どうしよう…」 散々迷って、でもやはり幾ら思い直してもケーキを見るたびに進藤の顔がちらついてし まうので、ぼくは大きな溜息をつくと意を決して進藤に『うちにおいで』と誘いのメールを 送ったのだった。 |