視線



「見られてる」

塔矢がぼそっと言ったのは、貪り合うようにキスをしてベッドになだれ込んだ所でだった。

「んなわけねーだろ、この部屋おれ達以外に誰もいないし、隠しカメラでもついてるって?」

神経質だなあと思いつつ、気を逸らされるのも嫌なので動きを止めて返事を待つ。

「いや、そういう間接的な視線じゃなくて…」

もっとこう、直接見られているような気配がするのだと言われて訳もなくぞっとした。

「気持ち悪いこと言うなあ、でもこの部屋新築だし、クローゼットも人が隠れられるようなス
ペースは無いし」


「わかってる」

わかっているけれど、視線を感じるのは本当なのだから仕方無いと塔矢は頑なに言って
おれを見る。


「しゃーねーなあ…やめる?」

そんな気分ではノれないだろうとため息をついて言うと塔矢は何故かふっと笑い、それか
らおれにこう言った。


「いや、折角キミと会えてこうしているのに途中で止めたいとは思わないな」

「じゃあ、どーすんだよ」

「見せてやればいいんじゃないかな」

「は?」

「見たいと言うなら見せつけてやればいい」

どこの誰だか知らないけれど、そのくらいでぼく達は止めたりしないと思い知らせてやれば
いいのだと。


そう言っておれにしがみついてきた塔矢は妖艶で、おれはのぞき見ているのが生きている
人間なのかそうで無いのかは知らないけれど、それよりも怖いと思ったのだった。



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