盆提灯


盆提灯を飾りながら、ふと「キミは誰か帰って来て欲しい人はいるのか」と尋ねた。

飾るのが初めてだという進藤は、面白そうにぼくを手伝いながら仏壇の両側に盆
提灯を置いていたけれど問われてふっと真顔になり、「いや、いないな」と言った。


「おれん所、じーちゃんばーちゃん生きてるし、それより前の親戚はどんな人が居
たかもしんないしさ」


友人にも早世した者は無く、だからお盆だからと帰って来て欲しいと願う相手はい
ないのだと言う。


「そう言うおまえはどうなんだよ」

水を向けられて考える。

「ぼくも…そうだな、会いたいと願う程親しい方はいなかったし」

もちろん会えるものならば歴代の高名な棋士に会ってみたくもあるけれど、血縁で
もなんでも無いその人達が来てくれるとは思わなかった。


「でももしそれが可能なら、キミの大切な人が帰って来てくれたならいいと思うよ」

ぼくと二人だけでもそれを願いとして口にしなかった、彼の中のその人がどんな人
かは知らないけれど。


一瞬驚いたような顔をした進藤は、しかしすぐにニヤっと笑って「いや、提灯なんか
じゃ来ないよ」と言った。


「そう?」

「あいつ呼び出すんだったら碁盤と碁笥を置いとかなくちゃ」

そうしたらもしかしたら来るかもしれないと、最後だけ切ない口調で彼が言うので、
ぼくは別室から碁盤と碁笥を運んで来ると盆提灯の横にそっと置いて、その人が
来るように祈ったのだった。



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