冷たい手


ひやりとした手に手を握られて、反射的に思い切り振り払っていた。

それはどう考えても進藤の手では無く、生きている者の手でも無いと思ったからだ。


二人で花火大会に出かけ、人混みの中で繋いでいた手が離れてしまった。

すぐに探して握りしめてくれたと思ったら、それは進藤とは似ても似つかない指だっ
た。


「触るな!」

執拗に握って来ようとする手をぼくは再び強い力で払った。

「おまえなんかに触られたく無い。ぼくに触っていいのは一人だけだ」

一体何を迷い、そしてぼくに何を求めているのか。

解らないけれど知りたいとも思わなかった。

「消えろ!」

怒鳴ったら青白い手はすっと消えて、代わりに汗だくになった進藤が人をかき分け
るようにして現れた。


「どこ行ってんだよ、おまえ」

いきなり怒鳴られてムッとしたけれど、その顔つきが泣きそうだったので怒りをすぐ
に引っ込めた。


「ごめん、キミの姿を見失ってしまって」

トロいだの、間抜けだの散々非道いことをぼくに言ったけれど、進藤は本当にほっ
としていて、ため息をつくと同時にぼくの手をぎゅっと握りしめた。


「いいか、もう絶対はぐれるなよ?」

おれの手、絶対離すなよなと念を押す彼の手は温かくて汗で湿っている。

それがなんだか嬉しくて、ぼくは彼の手を握り返すと、再び前もろくに見えないような
人混みの中を歩き始めたのだった。



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