★300000hitキリリク3
満腹な猫
どちらかと言うと、犬のイメージがあるのに、ヒカルを見ていると時々アキラは猫を思い
浮かべる時がある。
(それも腹一杯にミルクを飲んで満ち足りて眠る猫みたいだ)
そう思うのは大概交わって眠った後で、寝付きの悪いアキラと違い、寝付きのいいヒカ
ルは疲れも手伝ってか一人さっさと深い眠りに落ちてしまう。
その顔がなんとも言えず幸せそうなのだ。
「…どうしてそんなに嬉しそうなんだ」
眠りそびれたアキラは、ヒカルの寝顔を眺めるのが好きだった。
打つ時はあんなに敵意むき出しで、本気で殺しにかかって来るのに、抱き合う時は甘く
優しく、その後は子どものように無防備であどけない。
「どの顔が本当のキミなんだろうね」
すう、すうと部屋に響く寝息は規則正しくて、聞いているだけで心が安まる。
人と居てこんなにも落ち着けるとは、ヒカルと出会って初めて知った感覚だった。
「ぼくもキミみたいに満ち足りた顔をしているんだろうか?」
幸せそうな寝顔で寝ているのだろうかと気恥ずかしく思い、でもきっと頑なで意固地な自
分は、寝ている時でもヒカル程には無防備にはなれていないだろうとそれが少し悔しくも
ある。
「キミの寝顔はぼくを幸せにしてくれるのに」
自分の寝顔はきっとヒカルを幸せにはしない。むしろがっかりさせるのではないかと思う
とそれもまたアキラは悔しかった。
「愛しているよ」
頬にキスしてそっと囁く。
「キミのことが大好きだ」
閉じられた瞼に口づけて呟く。
「ずっと―ずっと、キミとこうして一緒に居たい」
願わくば人生の終わるその時まで、共に時間を分かち合いたい。
「ん…塔矢…」
好きと、寝ぼけたヒカルの寝言が更にアキラを幸せにした。
「おやすみ、進藤」
最後に唇にキスをして傍らで目を閉じる。
アキラが眠ったのはそれから少し後のことで、安らかな寝息が聞こえ始めるのと同時に
入れ違いのようにヒカルが目を開いた。
「こんな速攻で寝れるわけ無いじゃん」
布団を揺らさないように少しだけ身を起こしてアキラの寝顔をそっと伺う。
「おまえの寝顔の方が百万倍おれを幸せにするってーの」
なかなか眠らないアキラの寝顔を見るために、ヒカルはいつも寝たふりをするのだ。
時に失敗して本当に眠ってしまうこともあるけれど、今日はちゃんと起きられた。
「おれの方が愛してる」
ちゅっと頬にキスをして、「おれの方がもっとずっと大好きだ」と、今度は瞼にキスをする。
「おれの方がおまえなんかより、ずっと、ずーっとおまえと一緒に居たいんだからな」
死ぬまで、いや、死んだその先も出来うるならば一緒に居たい。
「幸せそうな顔で寝やがって」
おれの気持ちも解っておけよなと最後に唇にキスをしながらヒカルはアキラをじっと見詰
めた。
ごちゃごちゃとなんだかつまらないことを言っていたけれど、アキラの寝顔はとても可愛
い。見ているだけで胸が一杯になるくらいシアワセだとヒカルは思った。
「おやすみ」
丸くなり眠るアキラの横にヒカルも再び身を横たえる。
(猫みてえ)
心配しなくても、おまえ満腹な猫みたいにシアワセそうな顔してるよと思いながらヒカルは
ようやく本当に眠った。
毛布にくるまる二匹の猫。それが自分達だと思いながら。
※300000を踏まれたAnneさんのリクエスト三つ目、「満腹な猫」です。これはお題を見た瞬間、ヒカルの寝顔が浮かびました。
事後に気持ちよく眠るヒカル。アキラはきっとすぐには眠れないだろうと。でも実際はヒカルも気持ちが高ぶっているからそうそう
寝れないと思うんですよね。寝付きの悪い恋人の寝顔を見るのは大変だと思います。ということでお題三つクリアでした。
Anneさん素敵なリクをありがとうございました。
2010.11.5 しょうこ