A HAPPY NEW YEAR! 2004


朝、目を覚ましたら「愛しい」という気持ちが体中に満ちていて、こぼれ落ちる寸前になっていた。

まだ半分眠りの世界にいるような、現実との境が曖昧な一瞬、自分の側に恋人がいないのが切
なくて涙が溢れそうになった。


「進藤…」

進藤ヒカルがいない生活三日目。
夢に見てしまうくらい自分が寂しいのだと悟って塔矢は恥ずかしい気持ちになった。


「別に、こんなことよくあることなのに」

棋戦が始まれば、何日も顔を合わせないことは普通で、だから、たかだか数日会わなくたって本当は
大丈夫なはずなのにこんなにも切ない。自分はどうかしていると思った。


実際、正月の二日に進藤が両親と親戚の家に行くと出掛けて行った時は、全く平気な顔で見送ってし
まい、少しは寂しがってくれと懇願されてしまったくらいだったのだ。


一日目は平気だった。二日目もそう。
なのに三日目の今朝になって急にこんな気持ちになったのは、進藤がバカだからなのだった。


アンテナが立たないくらいイナカだから、行っている間は電話をかけられないしメールも送れない。そう
言っていたからそういうつもりでいたのに、夕べ遅く深夜二時をまわった頃にいきなり電話をかけてきた
から―。


『あ、塔矢。まだ起きてた?』

どこからかけているのか、バックでは車の行き来する音が絶え間なく聞こえる。

『おまえ怒るかなと思ったんだけど、どうしても声が聞きたくなって』

親戚の家を抜け出して、アンテナが入る所まで歩いてきてしまったのだと進藤は言うのだった。

「今どこにいるんだ?」
『んー、わかんねぇ、空港に向かう途中の幹線道路なのは確かだけど』
「空港…」


彼の親戚の家は空港から車で一時間ほど行った所だと言っていなかっただろうか?

「キミ、どれくらい歩いたって」
『んー、二時間くらい?』
「ばっ…」


バカという声が喉元まで上がった。だってそれでは戻る頃には夜明け近くになってしまうではないか。

『でもまあ、おれ元々宵っ張りだし、こっち来てから食ってばっかで運動してないからちょうど良かった
かも』


笑いを含んだ声で言われて、思わず怒りがこみ上げる。

なんてバカだ。

電話したいからという、ただそれだけの理由で深夜にそんな遠くまで歩くなんて。
進藤のことだから、すぐかけられるつもりで、服もちゃんとしたものを着ていないような気がしたので余
計に腹が立ってしかたなかった。


「帰り…気をつけて」
『ん?』
「帰り道、気をつけてって言ったんだ! もう正月休みは終わっているだろうけど、そのくらいの時間が
一番飲酒による事故が多いそうだから」


大きな道路の道の端を進藤が歩く。もし彼が事故にあったら考えただけで身が凍るような気持ちにな
った。
なのに当の進藤はというと至って暢気で、どれほど自分が心配しているのか、欠片もわかっていない
ようなのだった。


『大丈夫、大丈夫、おれ運動神経いいから』
「それでも気をつけろと言ってるんだ!」
『はいはい。おれのお姫様はおっかねぇなあ』
「なんだその言い草は、大体ぼくは姫なんかじゃ―」
『あーなんか怒鳴られるとおまえと喋ってるって気がするなあ』


しみじみと言われてしまって、怒る気すら萎えてしまった。

「…とにかく帰り道、気をつけて」
『ん、わかった。明日。もう…今日か。羽田着いたら電話すっからさ』


おまえももう寝てと優しい声で言われて、電話を抱きしめそうになってしまった。


一言も声に出しては言わなかったけれど、愛していると心の中で繰り返している自分がいる。

こんな時間に
自分の声が聞きたくて
何時間も歩くバカ。


後数時間我慢すれば、直接会うことが出来るとわかっていて
でもそれを我慢できなかった大バカ者。


それが愛しくないわけが無い。

そしてこんな気持ちで眠ったらもう絶対そうなるであろうと思った通りに進藤の夢を見てしまい、起きた今、
切なさで死にそうになっているのだった。


「本当に…なんでこんなに…」

ちょっと揺らしただけでも、たぶん愛しさが体からこぼれる。
愛しすぎて苦しいくらいの、満ちてしまったこの想いを一体どうすればいいんだろうか?


「早く…早く帰って来て」

本人の目の前では絶対言ったりしないけれど、寂しくて死にそうだと塔矢はつぶやいた。

「早くキミに会いたい。キミでぼくを満たして欲しい」

もてあますほどの愛情を代わりにキミにあげるからと、そうつぶやきながら、朝の光の中、塔矢は布団の
上で膝を抱えると、その間に顔を埋め、一人静かに泣いたのだった。



正月SS第二弾です。おかげさまで体調の方はもうすっかり良いです。
でもずっと家に閉じこもりきりの正月だった…(TT)サ○ィのバーゲンにも行けないなんて(涙)
ミスドの福袋も毎年買ってたのに…しくしく。


だからというわけではないですがSSちょっとメロウな感じになってます。いや、好きというのはいつも切なさと一緒だよねと思って。
でもこれ、この後ヒカルが帰ってきていつもの五十倍くらい甘甘になるはずなので大丈夫ですよ。と、ちょっとフォローでした。


それでは改めまして今年もよろしくお願いいたします。2004.1.5しょうこ




A HAPPY HAPPY NEW YEAR



うさぎだと思った。

布団の中、丸くなり眠る塔矢の背中を見ていたら、とても柔らかそうで、手触りがよさそうで、
なんとなくうさぎを連想してしまった。


優しい、温かさに満たされていそうな。そんな幸せが寝姿にある。

『キミが好き―』

ついさっき、自分の腕の中であれほど激しく肌を燃え立たせ、熱い息を耳に落とした。
あの姿が嘘のように、今は静かで無防備でカワイイ。


「なんか…ヤってっときは違うんだよな」

肩のひりつきに指で触れ、しがみつかれた勲章に微笑みながら思う。

「打ってっときと、ヤってっときって、ホントこいつ別人」

触れると灼ける。

火の欠片のようなあの熱さをこの静かな体のどこに隠しているのかと思う。

激しくて激しくて、側にいるおれまでも燃え立たせる。

もしそんなことを言ったならばひっぱたかれると思うけど、どちらのおまえも、とてもそそる。

打ってる時のおまえも、ヤってる時のおまえも大好き。

おれをここまで勃たせるのはこの世で一人おまえだけだと思うから。


「…ん」

つぶやく声にはっとして、はだけていた布団をきっちり首までかけてやる。

ついでに頬に指で触れ、髪もすくうようにして弄んだ。

「大好き…塔矢」

触れるだけではものたりなくて、そっと横顔に口づけてみる。

さすがに塔矢も目を覚まし、うすく目を開くと「なに?」とたずねてきた。

「んー?」

答えようとした時に壁にかかった時計が十二時を告げた。

午前0時。

新しい年になったのだと今更に気がついた。

「なに…進藤…どうかした?」

眠そうな目でおれを見る塔矢にもう一度そっと口づけるとおれは笑って言ってやった。

「一年の計は元旦にありってやつ」

「一年の計?」

「そ、おれ今さ、おまえのこと大好きって思ってちゅーしたんだ。そしたらちょうど十二時になったから」

今年一年おれはおまえを大好きでちゅーしまくることになったみたいだよと、そう言ったら塔矢は声を
出さずに薄く微笑んで、「バカ」とまた目を閉じてしまった。


呆れたのかと思ったけれど、でもすぐにつぶやくように言う。

「…本当にキミはバカだね」

元旦に誓わなくったって、キミはぼくにキスをするくせにと。


そして少し間を空けてからつぶやいた。

来年も再来年もきっとキミはぼくのことが好きだよ。そうでなければ困ると。

たぶん半分寝ぼけているから言ってくれたのだろう言葉に思わず赤面した。

(こいつ、なんだってこう…)

人がクるようなことさらっと言いやがるんだろうと、思いながらその頬にもう一度口づけた。

「愛してる」

囁くと、再び目が開いて優しい色がおれを見つめた。

「ぼくもキミを愛してる」

キミだけを愛しているよとそう言われて、幸せで死にそうになった。

「んーと、じゃあ、姫はじめは?姫はじめはどうでしょう塔矢センセイ」

今年もおれ、もおまえとたくさんえっちなことしたいな。だからこれからもうイッカイしませんかと、
ちょっとフザケタ口調で言ってみたら、あいつは呆れたように大きなため息をついて、でも顔は優
しく微笑んでいた。


「いいよ、じゃあ気絶するまでやろうか?」


艶やかな笑みで見つめられてぞくりとする。

「ぼくは別にどうでもいいんだけど、キミはそういうのが好きだものね」

だからキミにつきあってあげるよ『一年の計』と、そう言って優しく首に腕をまわされた。

「キミが好きだよ進藤」

愛してる。

そう言って笑って、塔矢は自分から、ちゅと甘いキスをしてくれた。

信じられないほどの最高のシアワセ。

今年もその次も、そのまた次も。おれたちはエイエンに愛し合うんだと、あいつの体を強く抱きしめな
がらおれは心の中でそう思ったのだった。



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こんにちは。しょうこです。あけましておめでとうございます。

体調不良のせいで、色々とご心配をかけてしまって申し訳ありませんでした。でもまだ実はダメっぽいです(TT)
とりあえず、用意しておいたトップだけでもーと更新しました。でも今はここまで〜。あー熱がまだ下がらない。


今年もよろしくお願いいたします。
それから、申年なのにうさぎでごめんなさい。アキラはやっぱりうさぎだろうと思ったので。20030101 しょうこ