この作品は塔矢アキラ誕生祭6に投稿させていただいたものです。






Platina

意地の悪い男だと思う。

自分の時には「別になんでもいい」で済ませて結果的に人を散々悩ませたくせに、
いざ人の誕生日になると「何が欲しい?」としつこく聞いてくる。



「別になんでもいいよ」

「なんでもじゃわかんないじゃん。おまえ結構趣味うるさいし、いらん物やったらすご
く困りつつもそのまま我慢して使いそうだし」



おれそういうのは嫌だからちゃんと具体的に欲しいものを言ってくれとプレゼントの
リクエストを聞かれて正直その顔に「それは自分のことだろう」と言いたくなってしま
った。



「だって…特別欲しいと思っている物は無いし」


不足している物も無い。それを敢えて考えろと言うならば無いことは無いけれどそれ
だと今度はありすぎる。



「じゃあ…洗濯機のクズ取りネット」

「おまえふざけてんのかぁ?」


じろりと睨め付けられて閉口する。


「それがダメなら電卓か、ネクタイでもいい」


それだったら確実に使うからと今度は幾分マシだろうと思って答えたのに進藤の表
情はむうっとむくれたものになった。



「つまんねー」

「は?」

「仮にもおまえの誕生日だぜ?」


一年に一度しか無いおまえの誕生日にそんなありきたりなものをあげられるかと口
を尖らせて言われて、ため息が出た。


どれもこれもぼく自身が彼に言いたかった言葉だった。


結局の所ぼくは彼の誕生日に冬物のコートを買って贈ったのだけれど、そしてそれ
はものすごく喜んで受け取って貰えたものの、足を棒にして選んだ時間を思えば、き
っぱりと何が欲しいと言ってくれた方がどれだけ良かったかと思うのだ。



だからこそ逆の立場になった今、正直にかつ具体的に欲しいものを言っていると言
うのにどうしてこの男はこうも天の邪鬼なのだろうかと思う。



(それともこれが棚上げというやつか?)


自分のことは棚に上げて、彼的な理想に達しないリクエストを言い続けるぼくのこと
をさも呆れたように非難する。これではあまりに非道いというものではないか。




「……じゃあキミが欲しい」


これ以上のリクエストは無いだろうと、彼が喜ぶことを期待してぼくは言った。

けれどこの答えにも彼は不満の表情を浮かべたのだった。


「ダメっ、そんなんもう全部最初っからおまえにあげてるもん」


そんな今更なもんじゃなくてもっと記念になるようなものを言ってくれと言われてさす
がのぼくもムッとした。



「キミの誕生日にぼくをあげると言ったらキミは喜んだじゃないか!」

「だって本当に嬉しかったから!」

「ぼくだってキミを貰えたら嬉しいよ」

「だからそれはもうあげちゃってるから、それよりもっといいものがいいんだって!」

「キミ以上に欲しいものなんか無いよ!」

「それでも考えて言え!」


命令か! と頭の血管が切れそうになったぼくは、それでも辛うじてキレる前に自分を
押さえて言った。



「わかった。キミよりもっと良いものを考えろって言うんだな」

「うん」

「でもぼくにはどうしてもキミ以上のものは思いつかないから、だったら逆にキミが教
えてくれ」


「え?」


思いがけない反撃に進藤の顔はきょとんとなった。


「教えてくれって何を?」

「キミがぼくに贈りたいものが何なのか」


どんなものを贈物としてくれたいと思うのか、思っているのか教えて欲しいと言ったら
進藤はぐっと言葉に詰まった。



「悪いけど、ぼくはキミが思っているより機転がきかない。凡人だし趣味も浅いし洞察
力も無い」



でもどうやらキミには何かぼくに「贈りたいもの」というものがあるようだからそれをい
っそ教えては貰えないかと言ったら進藤は益々困った顔になった。



「えー?……でもそれじゃあ…」

「頼む。こんなことでキミと喧嘩をするのもぼくは嫌だし」


そもそもこんな険悪な状態でリクエストして何かを貰ってもきっと嬉しい気持ちにはな
れないと正直な気持ちを訴えてみた。



「だから出来るならキミにそれを教えてもらって、それをキミにリクエストするから」


それならお互い文句は無いだろうと、言ってじっと見つめたら進藤は何故か真っ赤に
なった。



「さあ…教えてくれ進藤」


えーだの、うーだの、あーだの散々言いかけてはごにょごにょと口を濁した後で進藤
はぽつりとこう言った。



「えーとさ、だからあの……『おれ』?」

「は?」


それはさっきぼくが言って却下されたものではないだろうか。

不審がはっきりと顔に出ていたのだろう、進藤はまた更にあーとうーを繰り返した後
思い切ったように言った。



「だから、えーと、おれだけどスペシャルって言うか」

「3日くらい徹夜で碁の相手をしてくれるとか?」


それなら欲しいと思わず顔を輝かせて言ったら慌てたように手を横に振られた。


「違う違う、おまえおれを殺すつもりか!」

「じゃあなんなんだ。キミの言うことはさっぱりわからない」

「だからー、あの、その、なんだ。…………一生分のおれだよ」


言われている意味がわからなくてじっと相手の顔を見る。


「だからその、あー、もうなんでわからないんだ。だからーおまえに一生分のおれをや
るから、そのシルシのさ、なんて言うか丸いもんがあるじゃん」


「丸いもの?」

「丸くて、銀色で、指にはめたりなんかしてー」


それでもまだきょとんとしているぼくに彼は業を煮やしたように叫んだ。


「結婚指輪だよっ!」


おれもおまえも二十歳過ぎたし、お互いタイトル獲ったしと、そろそろちゃんとマジで結
婚とかしてもいいんじゃねえ? と言われてしばらく頭が追いつかなかった。



「ぼくと……結婚しようって?」

「そう! だから頼むからそのシルシに指輪を贈らせてっ!」


どうかお願いしますと深く頭を下げられてぼくはやっと思考が現実に追いついた。


「……ダメ?」


おまえが嫌なら電卓でもネクタイでも探すけどと頭を下げたまま言われて吹き出した。


「いや、そんな良いものをくれると聞いてしまって今更電卓には戻れないよ」

「じゃあ!」


ぱっと勢いよく彼が顔を上げる。


「欲しい……うん。貰いたい」


ぼくの方こそお願いしたい。


「もしキミが本当にぼくに贈りたいと思ってくれているならば、一生分のキミをどうか」


どうかぼくにくださいと深く頭を下げたら、進藤も慌てて頭を下げた。


「こっ、こちらこそっ」


ありがとう、ありがとうと繰り返し、ぼく達は米つきバッタのように頭を互いに下げ続け
た後、ようやく赤い顔で見つめ合うと、幸せな気持ちで抱きしめ合ったのだった。







誕生祭開催おめでとうございますv
今年も参加出来てとても嬉しいです。


アキラさんも今年は21歳ですね。タイトルは絶対何か一つは
獲得しているものと思われます。ヒカルと毎日切磋琢磨しつつ
ラブラブと暮しているのかなと妄想するととても楽しいです(笑)




HOME