誰よりも早く



通り過ぎるスーツと振り袖の集団を見送って、進藤がぽつりと「早いな」とつぶやいた。

「なんかすげぇ早く感じる」
「もう…一年たったって?」
「そう。おれらの成人式って本当につい昨日みたいな気がするのにさ」


これが年を取ると時間が経つのが早く感じるってことなのかなあと妙にしみじみと言っ
ているので笑ってしまった。


「彼らと一歳しか違わないくせに」
「だってマジですげえ早く感じたから」
「それはキミが真剣にこの一年を過ごしたからだろう」
「真剣?」
「そう、毎年毎年、キミはその前の年より確実に厳しい世界を生きている」


だから早く感じるんだよと言ったら進藤は少し照れ臭そうな顔になって「そうかな」と言っ
た。


「そうだよ、だからぼくも」

益々キミを好きになってしまうんだと、それは言うつもりが無かったので言葉にはしなか
ったのに何故か進藤は赤くなった。


「マジ? だったらおれもっと早く時間が過ぎてもいいかも」
「ぼくは今何も言わなかったけど?」
「でも聞こえたもん」


もっともっとおれのことが格好良く見えてどんどん好きになって骨抜きになるってと、余計
な背びれ尾ひれがついているので思わず怒鳴る。


「言って無い。ぼくが思ったのは益々キミを好きになってしまうって、ただそれだけだ」
「へーそうなんだ」


にやりとした笑いにかまをかけられたことを悟る。

「へー、そうかー、益々おれのこと好きになっちゃうんだ」
「だからそれは…」
「言って無いけど思ったんだろう?」


だったらおれにとっては同じことだと、笑いながら心持ち後ずさって逃げる。
その進藤を追いながらぼくは更にたくさんのスーツと振り袖を目の端に見た。



一年前、ぼく達はあの群れの側に居た。
でも中身は決して同じでは無かったように思う。


早くから戦いの場に身を置いていたぼく達は、彼らよりももっとずっと大人だったように
思えるのだ。


(でもそんなこと言ったら傲っているって怒られてしまうかな)


一年前よりは今。

たぶん今よりは来年。

年を重ねるごとに強く大きく成長して行きたい。

誰よりも早く。

人よりも先を―。


少なくとも彼は確実に強くなり、もっともっと大人になっているだろうと思うから、ぼくもま
たそれに負けないように「大人」になっていたいものだと心からそう強く思ったのだった。




※今年は真面目な成人式ということで。彼らは何やら仕事があったようです。2008.1.14 しょうこ