解
明るい空を見ていた。
見てはいたけれど瞳は何も映していなかったらしく、気が付くと塔矢が床についたおれの手に
そっと自分の手を重ねていた。
「あ、ごめん。おれ今ちょっとぼんやりしていて―」
みなまで言う前に塔矢の指は食込むようにしておれの指の隙間に埋められる。
ぎゅっと強く絡められて少し驚いて思わず顔を見る。
「たまには―」
「ん?」
「たまにはぼくが居ることも思いだして欲しい」
何をバカなことをと言いかけて、俯く横顔の切なさに黙る。
「うん、ごめんな」
「謝らなくていい、ただ頭の隅にいつかぼくの場所も作ってくれたら」
それでいいんだと、泣いてはいないけれど声は泣いているかのようだった。
非道い恋人だと思う。
半分くらい……もしかしたらもっと気が付いている相手に決して伝えることをしない。伝えないの
に毎年甘えて全部を委ね、預けてしまう。
「あのさ…もしキツかったら」
「こんなこと別にキツくなんか無い」
ぎゅっと握られた指から伝わってくる温もり。
「キミの心に空いたまま、塞がらない傷に比べたらこんなこと辛くもなんとも無い」
だから変な気を回して、ぼく以外に甘えに行くことは絶対に許さないと、さっきとは打って変わって
きっぱりとした意志の声に苦笑する。
(意地っ張り)
そして負けず嫌いだ。
(そして―)
そして、世界中の誰よりもおれに甘い。
「大丈夫だよ」
言いながら握られるままだった指を今度は握り返す。
「おれ、おまえしかいないもん」
おれが唯一傷を共有出来るのはおまえただ一人だからと、言ったら塔矢は俯いたまま薄く笑
った。
「嘘つきめ」
「嘘なんかついて無い」
「それでもキミは嘘つきだ」
静かな言葉のやり取りは5月の空に消えて行く。
毎年、毎年、この日がくるたび胸が千切れる。
でもそれに付き合っているこいつは、きっともっと胸が痛いんだと思いながら、おれは塔矢を抱
き寄せて、静かにその肩に頭を埋めたのだった。
※わからなくてもわかることはあるし、わからなくてもわかっているからいいこともあるのだと思います。
2008.5.5 しょうこ