Wish a Star




子どもでは無いから書くのは恥ずかしい。

でも、子どもでは無いから書きたいこともある。



「塔矢、もう書いた?」
「まだ…ちょっと考えているから」
「ふうん、おれはすぐに書けちゃったけど」



おまえって結構欲が深いなと笑われて、軽く進藤を睨みつける。


「欲が深くて何が悪い」



キミと居たい。

少しでも長く、いつまでも二人で。

そう願う願いはどう書けば星に届くのか考えて考えて、でもなかなかその一言を書き出せ
ない。



「キミはなんて書いたんだ?」
「おれ? おれは決まってんじゃん」
「ずっと一緒に居られますように…とか?」
「バーカそんなんじゃねーよ」



照れながら聞いたのに、即座に違うと言われて少しだけ傷つく。


「じゃあ何だ? 珍しく真面目に碁のことでも書いたのか」


手の中の短冊は子どもの頃によく遊んだ折り紙。
彼は鮮やかな青を選び、ぼくはなんとなく白を選んだ。



「うーん、そうだな。そうとも言えるかも」


よくわかんないけどという言葉に眉を顰めると、額をぴんと指ではじかれた。

「いいじゃん、なんでも」

でもそうだな、もしかしたらおまえよりもずっと欲深い願いごとかもと言って、それから少し
考えて言い換える。



「すげえ傲慢な願いごとなんだ」
「なんだそれは一体」


気になってのぞき込んだ手の中の短冊を彼は焦らして焦らして中々見せてはくれなくて、
でも抱きつくようにして無理矢理腕を掴んだら、苦笑してやっと見せてくれた。


「ほら――」

呆れるぐらい傲慢で強欲な願いごとだろうと言う彼の短冊には、ただ一言こう書いてあっ
た。


『塔矢の願い事が一つ残らず全部叶いますように』


「バカだな…せっかくの短冊なのに」
「いいんだよ、だっておれ、おまえが幸せならシアワセだもん」
「そんなの!」


ぼくだって同じだと言いかけて気が付く。

「そうか…なんだ」

とても簡単なことだった。
だってぼくの願っていたことも彼と全く同じなのだから。


「…で、結局おまえ何書いたん?」

書き上がった短冊をベランダに置いた笹の枝に結わえ付ける。

「―傲慢なこと」
「傲慢?」
「そう。傲慢で我が儘で独りよがりなことだよ」


でもそれがぼくの一番の願いごとだからと、言ったぼくの言葉に自分の短冊を結わえつけ
ながら、彼はぼくの短冊を見た。


くるりと手の中で返して見たその瞬間に、ぼっと火がついたように耳が赤く染まり「狡い」と
彼が呟くのが聞こえた。



「おまえ狡い、これおれの真似っこじゃん」
「真似なんかしていないよ。だって――」


だってぼくもキミが幸せならばシアワセだからと言ったぼくの言葉に、彼の顔はおかしなほ
どに真っ赤になった。



小さな小さな笹飾り。
見つけて来て、まねごとで二人で作った色紙の飾り物。


願い事の短冊は彼とぼくとの二つだけ。

彼のは青、願いごとは一つ。
ぼくのは白、願い事はやっぱり一つ。


彼と同じ、願うことは同じ。

どうか七夕の夜の星々よ『進藤の願いごとが一つ残らず全て叶いますように』―――。



「…叶うかな?」
「どうだろう」



強欲すぎて星には呆れられてしまうかもしれないけれど。

「…叶ったならいいな」
「うん」


夜風に揺れる笹の葉と短冊を眺めながら二人でビールの缶を開ける。

生ぬるい風の中、ホップの香りがじんわりと混ざり、ベランダの空気が夏独特のけだるさに
に包まれていくような気持ちになった。


「今年はあんまりいい天気じゃなかったけど、来年は晴れるかな」
「晴れるよ」
「なんでそんなに自信満々なん?」
「だって折角の逢瀬が雨続きだったら気の毒だから」


だからぼくは来年の七夕はもっと良い天気になるように祈ると、言ったぼくの言葉に彼は
笑った。


「そうだな、毎年願いごとばっかりしてるんだし」

あっちだってイイコトがあった方がいいよなと言う彼にぼくも笑う。

「どうか―」

ぼく達の愚かで傲慢な願いごとが叶いますように。

そして、遠い、遠い星の上、一年に一度しか会えない恋人達の願いごとも叶い、報われま
すようにと祈りながら、ぼく達はビールを再び飲んで、それから冷えた唇で静かに口づけを
交わしたのだった。







※大人七夕。相手のシアワセが自分のシアワセでもあると本当にそう思えたらシアワセですよね。
2008.7.8 しょうこ