「進藤ヒカル誕生祭4」参加作品


せ な か



塔矢の背中はきっぱりとしている。

背筋は真っ直ぐに伸びているし、うなじから肩へ流れる線も綺麗だ。少しも前屈みになることが無
く、立っている姿は本当に綺麗で、時々そうとは気が付かずに見とれてしまうことがよくあった。





「なに?」


その日も打っていて、休憩の時にお茶を煎れてくれている塔矢の背中をつい見詰めてしまってい
たら不思議そうに聞かれてしまった。



「いや、おまえって姿勢が崩れないなって思って」


かなり長い時間打ったけれど、打っている間もぴしっと揃えられた膝は崩れることも無く、背中も
真っ直ぐに伸びたままだった。


普通少しは肩が下がったり、前屈みになって来たりするものなのにそれも無い。その上打ち止め
て休憩している今でさえその背中が凛としているので、くそ真面目とからかうよりも感心してしまっ
た。



「そんなにずっとぴしっとしていて疲れないん?」

「ぼくはこれが普通だから」

煎れてくれた茶をおれに勧めながら、ふふと小さく笑って言う。


「母がお茶とお花をやっていて小さい頃からそれに付き合わされて来たし、躾にとても厳しい人だ
ったから、少しでも猫背になりそうになると物差しで背中を叩かれたからね」


「うわ、厳しい。おれなんかがもしおまえん所に嫁に行ったら嫁いびりされそうだなあ」

「なんでキミがぼくの嫁になるんだ」

「えー? なんか不満があるのかよ。貰ってくれるって言うならおれ、おまえの嫁にならなってやっ
てもいいんだけど?」



まだあれは十代で、言った言葉はじゃれ合いのようなそんな軽いノリで言ったのだったと思う。


「嫌だよ、そんな威張り腐っているろくでなしの嫁」

「じゃあ逆は?」

「逆?」

「うん。だったらおまえがおれの嫁になるってのは?」


うちの親そんなに厳しく無いし、おまえが貰って欲しいなら幾らでも貰ってやるよと、それは本当に
軽い気持ちで言った戯れ言で、でもその底には本音を潜ませていたような気もする。


今は冗談で言っているけど、いつかおまえが嫌だって言っても絶対におまえを貰ってやると。


「なあ、どうする? おまえおれの嫁になる?」


その問いに塔矢は答えなかったと思う。無言で怒ったような顔をして、でもその頬は静かに赤く染
まっていったような記憶がある。


真っ直ぐにすっきりとその背中を伸ばしたままで―。


あの背中にいつか触れてみたいと思ってた。

制服の下、スーツの下、私服の下に隠されている肌に直に触れ、口づけてみたいと思っていた。

首の所で綺麗に髪がさらりと分れる、あの首筋に顔を埋めてみたいとも、いつも―いつも思ってい
た。





「何をしてるんだ?」

露わになった白い肌をじっと見詰めていたら、問いかけるように塔矢の声が言った。

「んー、いや、綺麗だなと思って」

ベッドの上、こんな時でも正座して座っている塔矢の腰の辺りには、たった今脱ぎすてたばかりの
シャツが恥ずかしそうに縮こまっている。


「ほんと、すげえ綺麗」

染み一つ、ほくろ一つ無い背中は、想像していたよりももっとずっと白かった。血管が透けて見え
る程の白い肌はうっすらと青みを帯びてまるで磁器か何かのように見える。



「バカなことを言っていないで、するならさっさとしろ」

「っておまえものっすごいこと言ってるってわかってる?」

「わかっているけれど、こんな状態で待たされるのは心臓に悪い」


触るなら触って、何かしたいならして欲しいと、切羽詰まったように言うのはきっと限界に近い程緊
張しているからなんだろう。


キミは本当に意地が悪いと言われて思わず苦笑してしまった。


「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど」


あまりに目の前の肌が綺麗で、簡単に触れてしまうことなんかとても出来なかったのだ。


「やっとおまえに触れる…やっとおまえがおれのものになる」


幸せで幸せでたまらないからと、ひたりと指で触れたら、その背中はびくりと大きく震えた。


「おれの『嫁』になってくれるんだっけ?」

「キミの『嫁』になんかなるつもりは無いけど、でも…」


キミのものにならなってもいいと、その背中は細かく震えていたけれど、おれの手を拒絶しなかっ
た。



「ずっと…ずっとキミが好きだったから」


触れられることは嫌では無いと、その言葉がどれ程の殺し文句になっているのか、こいつはわか
っているのだろうかと思った。



「おれも好き…ずっと、ずっとおまえのことが好きだった」


だからこうして触れて嬉しい。

触れることを許されて、愛することを許されて、おれの方こそ震える程に嬉しいとそう思った。


「ありがとう…大好き」

「余計なことは言わなくていい」

「うん、それでもさ」


おまえのことが大好きだから、触らせてくれて本当に嬉しいと囁いたら塔矢の背中は触れた所か
らぱあっとほのかな桜色に染まって行った。



「愛してる、一生。もう絶対に離さないから」


一生おれのものだけで居てと、おれの我が儘な言葉に塔矢は小さく頷いた。


「キミ以外のものになんか絶対にならない」


綺麗な、綺麗な、綺麗な背中。

長い間ずっと触れてみたいと思い、夢に見る程願い続けた。

その背中の真ん中に誓うようにそっと口づけて、それからおれは改めて誕生日に貰った『お祝い』
を心からゆっくり味わうために腕を伸ばすと包み込み、塔矢をぎゅっと抱きしめたのだった。









「進藤ヒカル誕生祭4」開催おめでとうございます♪

今年も参加させていただけてとても嬉しいです。ヒカルももう22歳なんですねえ。早いなあ(しみじみ)
二人には永久にいちゃいちゃとして欲しいなと思います。


サイト内には他にも色々ありますので、(ヒカアキ)よろしければそちらも見てみてやってください。
2008.9.20 しょうこ




HOME