塔矢アキラ誕生際8参加作品




overflow


「何が欲しい?」と、尋ねたら「何もいらない」とすぐに言われた。

「なんで? 折角の誕生日じゃん。何か贈らせろよ」
「いや…だってどうせすぐにクリスマスで、キミはその時にもぼくに山ほど『何か』くれるつもり
なんだろう?」

毎年思っていたことだけれど、こんなに短い間にこんなにたくさん貰ってばかりでは罰が当た
りそうなんだと言う。

「それに正直、もう欲しい物ってあまり無いし」
「それにしたって何か一つくらいはあるだろう?」

コートとか手帳とか靴とか靴下とか何か無いのかよと迫ったら「だからそういう物はみんなキミ
がくれてしまっているじゃないか」と笑われた。

「何かあったらくれるし、何も無くてもくれる」

だから今はあまり物欲が無いんだよと言われて苦笑した。

「なんだよ、おれのせいかよ」
「そうだよ、キミのせいだ」

にっこりと笑って塔矢は非道いことを言う。

「キミはいつもぼくを甘やかして物をぽいぽいくれてしまう。だからいざ誕生日って言う時になっ
て欲しい物が無くても仕方無いとは思わないか?」

「それにしたってさぁ…」

つまんない物でもいいから何か贈らせろよとぼやくように言ったら笑われた。

「本当に物で欲しい物はみんな貰ってしまっているし、物じゃない物はそれよりもっとたくさん貰
ってしまっているし」

これ以上貰ったら持ちきれなくなりそうなのに一体ぼくはどうしたらいいと、本音半分の顔で苦
笑されてしまって腐った。

「それでも、やりたいんだからしゃーねーじゃん」

出会った時はもう小学生だった。それから気持ちが通うまで数年あって、更に恋人として付き
合うようになるまではもう数年かかった。

「その分、すげー損してる気がするんだよ」
「損?」
「そ。こんなにおまえのこと好きなのに十数年分、贈り物をし損ねてる」

それはもう巻き戻すことが出来ないことだから、今更幾ら贈っても足りないような気持ちになっ
てしまうのだ。

「別におまえの親に張り合おうって気は無いけどさ、緒方センセーとか芦原さんの方がずっと
早くおまえの誕生日を祝っていたのって悔しいじゃん」

だって絶対におれの方がおまえのことを好きなのにと口を尖らせて言ったら何故か爆笑され
てしまった。


「――充分だよ」
「え?」
「今のでもう充分過ぎる」

何を言われているのかわからなくてきょとんと見つめると、塔矢は笑いすぎて目尻に浮かんだ
涙を拭いながら言った。

「自分で気がついていないのか? キミ、さっきからぼくが嬉しくて死んでしまいそうな言葉を山
のように言っている」

今のだけでも10年分以上は満たされてしまったねと言われて慌てた。

「待てよ、おれ何か言ったかよ」

特別なことなんか何も言ってねーじゃんと言ったらまた笑われて付け足された。

「ほら、これでまた数年分」

本当にキミは愛情の出し惜しみをしないと言われて、嬉しいというよりも悔しくなった。

「当たり前だろう。おまえのこと好きで好きで好きで好きで仕方無いんだから!」

言いながら頬が染まるのがわかったけれど気にしなかった。

「こんなに好きで毎日おまえのことばっかり考えてるんだから、何言ってもおまえが嬉しいよう
なことになったって仕方ねーじゃんか!」

「…………うん」

逆ギレのように一気にまくしたてた言葉を塔矢はしかし今度は笑わずに聞いていた。

「うん、よくわかっている」

ありがとうと、そして静かに真面目な顔で言うとおれに向かって手を差し出したのだった。

「何?」
「手を繋いでくれないかな」
「今?」
「うん。今、ここから家に帰るまで」

それから誕生日にもやはり手を繋いで欲しいと言われて目を見開いた。

「何? それって一日中ってこと?」
「そう。朝も昼も夜も」

一緒に過ごすその全ての時間、ぼくと手を繋いでいて欲しいと言われて顔が赤く染まった。

「結構…強欲じゃん」
「そうだよ、ぼくは強欲だよ」

キミに関しては強欲だと言うことにたった今気がついたと言って塔矢は嬉しそうに笑った。

「貰いすぎだなんて気のせいだった。物はともかく、物で無い方は」

まだまだ貰っても全然足りない。キミが干からびるまで摂取してやると、それは本当に嬉しそう
な笑顔だったのでつられておれも嬉しくなった。

「無尽蔵だぜ? おれ」
「ぼくの欲も無尽蔵だよ」

どっちが勝っているか楽しみだねと、それはまだまだこれからもおれに『ねだる』ということな
んだろう。

「おれの勝ちだよ、もちろん」

幾ら欲しがられてもそれで無くなるような底の浅い愛情じゃない。

「ぼくの勝ちだよ、きっと」

欲しがって欲しがって、キミが悲鳴をあげるまで欲しがってやるつもりなのだからと言われて、
おれは笑ってしまった。

「欲しがれよ、たくさん」

例えばもしおれが悲鳴をあげたとしてもそれはきっと嬉しい悲鳴ってヤツだからと言ったら塔
矢は一瞬目を見開いて、それからゆっくりとまた微笑んだ。

今度のは先程よりも更に嬉しそうなたまらない程幸せな笑みだった。

「…前言撤回」
「え?」
「物はともかくと言ったのを撤回する」

やはり物欲もキミに満たして貰うことにするよと言われて今度はおれが目を見開いた。

「へえ、珍しい。『物』だったら一体何が欲しいん?」
「そうだね、何か身につけるものが欲しいかな」

例えば指輪とかと言われて一瞬意味がわからなかった。

「え?」

聞き返して苦笑される。

「キミの三ヶ月分って言うのはどれくらいだ? それとも一般的な収入の三ヶ月分くらいの指輪
ってことになるのかな」

そこまで言われてさすがに鈍いおれにも解った。

「年収でもいいって!」
「いや、さすがにそんな物を気楽に指には填められないから」

安くてもいい、指に馴染む物をこれから二人で選びに行かないかと聞かれて思わず返した。

「これから????」
「都合が悪いか?」
「いや――」
「だったら今すぐ買いに行こう。そうしたらきっと誕生日には間に合うはずだから」

指輪の裏にはキミのイニシャルと愛の言葉でも入れて貰おうかと言われておれは益々赤くな
った。

「いいよ……すげえの入れてやるから後悔すんなよ」
「しないよ」

いつだって絶対、キミが贈ってくれたものに後悔なんかするはずも無いと、そして明るく笑って
促すのでおれは塔矢の手を取ると、しっかりと握りしめて贈り物を買うために二人で街に繰り
出したのだった。






誕生祭開催おめでとうございます(^^)
こうして毎年お祭りに参加させて頂いてアキラの誕生日を祝えてとても幸せです。
二十三才のアキラはもうきっとタイトルを獲っていますよね。
ヒカルと仲良くいちゃいちゃ獲ったり獲られたりの日々を過ごしていてくれたらいいなあと思います。


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