4月のばか
「キミは嘘つきだ」
俯いたはずみに言葉がこぼれた。
「いつもキミはぼくに嘘ばかりついている」
言うつもりなどこれっぽっちも無かったのに、それでも思わず言ってしまったのは、
進藤がぼくにあまりにも優しかったからかもしれない。
『愛してる』
ずっとずっとおまえだけを愛しているからと、その言葉は耳をくすぐり、胸の中を温
もらせたけれど、同時にぼくをたまらなく切ない気持ちにもさせた。
彼は嘘をつかない。
けれど彼は嘘をつく。
相反する真実が嬉しいはずの愛の言葉をぼくの耳に悲しく響かせた。
「ぼくはキミを愛しているけれど…でも」
泣くつもりも無かったのに気が付けば涙が頬を滑り落ちる。
ぽたぽたと足元に落ちる雨のような滴を見詰めながら、どうしてぼくはこんなにも苦し
い恋をしているのだろうかとそっと思った。
「うん―」
長いこと黙っていた後、進藤はぽつりと呟くように言った。
「うん、確かにおれ、おまえに嘘ばかりついているもんな」
否定するかと思ったのに、進藤は一言も「嘘なんかついていない」とは言わなかった。
「認めるのか」
「うん。おれ、嘘つきだから」
でも―と、言葉をついで彼はぼくを緩く抱いた。
「でもおれ嘘つきだけど、これだけは本当だから」
おまえのことを愛してる。
他に幾ら嘘をついてもこれだけは本当に命かけて真実だからと、それからぎゅっと力
を込めて折れる程に強くぼくを抱きしめる。
「…知ってる」
そんなこと知ってると言ったら低く笑われた。
「なんだおまえちゃんと知ってたんじゃんか」
「知ってたよ! それでも」
それでもどうしても言わずにはいられなかった。
キミを嘘つきと罵らずにはいられなかった。
その愛に欠片でも嘘があるとは疑ってもいないのに、それでもどうしても罵らずにはい
られなかったのだ。
「愛してる」
「…うん」
「愛してるから」
「うん」
何度も何度も。
まるで小さな子どもに言い聞かせるように繰り返す彼に頷きながら、ぼくは彼を抱き返
した。
「…ぼくもキミを愛してる」
仕方無い男だけれど心の底から愛しているよと彼の耳に囁くと、彼は再び小さく笑い、
「充分だ」と幸せそうに言ったのだった。
※別に浮気したとかそーゆーことではなく。アキラは絶対に嘘がつけない人なのに対して、
ヒカルは嘘がつけてしまう人だから。でもそれは決して裏切りの嘘ではないのですよ。
2009.4.1 しょうこ