雛遊び



ひなあられ、菱餅、白酒、桃の花。


「…でも肝心のお雛様が無い」

「だっておれら男だし」


雛祭りはオンナノコの祭りなんだろうと言う進藤は、それなのに楽しそうに
ちらし寿司を作っている。


「はまぐりの吸い物はおまえが作ってくれよな! 後、菜の花の和え物と鯛の
塩焼きも!」

「はいはいはい」


なんなら鶏の唐揚げとポテトサラダも作ってあげようかと言ったら「それはお
れが作るから!」と元気よく返された。


(まったく…)


テーブルの上には草餅と桜餅。

何を勘違いしたものか真っ赤な苺が瑞々しいホールのケーキとワインまでが
並んで居る。


どうして男同士の二人暮らしで毎年毎年雛人形も飾らずに、雛祭りをやるの
かわからない。

でも―。


「なあ、ビールはやっぱり違うよな?」

「いいよ、キミが飲みたいならビールも出して」

「枝豆は?」

「さすがにそれは違うだろう」

「ピザは? 後パスタもちょっと食べたくなった」

「…進藤、雛祭りから離れて来ている」



(でも、それでも…)

進藤が嬉しいならぼくも嬉しいと心の底からそう思い、毎年三月三日には、
二人で時間をかけて用意した雛の膳に向かうのだった。







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