仕事始め




彼に届いた年賀状の女性の名前に思わず手が止まってしまう。

(これは奈瀬さん)

院生時代からの知り合いなんだから年賀状が来ても当たり前だと言い聞かせる。

(桜野さんと、春木さん)

囲碁フェスなんかで一緒になることが多いんだから来てもちっとも不思議は無い。

「…藤崎さん」

彼の幼なじみで幼稚園からずっと一緒だったのだと聞いた。

「藤崎さんは毎年欠かさず進藤に出すんだな…」

今でも進藤のことが好きなんだろうかと考えつつ、胸にじりっとした熱さと苦さを覚
えて苦笑する。


「本当に…いつまでたってもぼくは…」

彼に近づく女性の影に平静ではいられない。

(真木さん…確かこの人は雑誌の記者だ)

でも既婚者だから大丈夫。

(宮下さんと、加藤さんは確か関西棋院の人)

「どういう知り合いなんだろう…」


一枚一枚葉書をめくる。


「東さんは…誰だっけ?」

つい声に出したら部屋の向こうから「なんか言った?」と進藤が言った。

「いや、なんでも無い」

なんでも無いからこっちに来るな。そう念じながら手早く分ける。

(山崎さんは指導碁に行っている人だっけ…保坂さんは…)

たぶん大丈夫。

胸の中でそれぞれの顔を思い浮かべては溜息とともにそれを彼の方に仕分けて
置く。


「今年は随分女性からのものが多いんだな…」

「やっぱり、なんか言っただろ、おまえ」

「言ってない! 本当になんでも無いから向こうに行っていろ!」

少なくても怪しみ、多くても悩む。

我ながら業が深いと思いつつ、どうしても確認せずにはいられない。

毎年元旦、束になって届くぼくと彼への年賀状。それを仕分けるという名目で、女
性の名前をチェックする。


それが我ながら呆れるくらい嫉妬深いぼくの、新年で一番最初にする『仕事』だっ
た。




※女々しいとか、色々思われたかもしれませんが、一人で悶々としているだけなので実は可愛い嫉妬です。
そして当然もちろんですが、アキラが自分の年賀状をチェックしているのをヒカルはちゃんと知っています。
知っていて新年から幸せーなどと阿呆なことを思いながら覗いて見ているんですよ。困ったものです。
2009.1.2 しょうこ