pumpkin day



普段、誕生日だクリスマスだバレンタインだとイベント事に敏感な進藤が、今日は全く反応が無い。

「進藤」

もそもそと起きて来たのは昼過ぎで、オフなのだからそれも別に構わないのだけれど、実際に目
覚めていたのが朝早くだということは、一緒に寝ていたぼくが誰より解っている。


「進藤、今日は何日だ?」
「…31日だろ、知ってるよ」


出してやったみそ汁をすすりながら進藤が面倒臭そうに答える。

「31日は何の日なんだ?」
「10月最後の日」


ああ重症だ、そう思う。

「そうだね、10月最後の日だね」

確か去年の同じ日には、さすがに仮装までやりはしないものの、近所を練り歩く仮装した子ども達
を眺めに行ったり、かぼちゃの菓子を買いたがったものなのに。


「何もしなくていいのか?」
「…何かって?」


この二ヶ月ばかり、進藤は神経をすり減らしていた。

初めて取った王座のタイトルを三年連続死守するために、緒方さんを相手に粘っていたのが昨日
五局目で負けたのだ。


たった半目差での敗北。

帰って来た時、進藤はひとこともぼくに口をきかなかった。

「別に今日は休みだし、一日ゆっくり家に居るよ」
「…そう」


それなら別にいいんだけれど、折角雨も上がったのだから、後で少しだけ散歩にでも行かないか
と水を向ける。


「スーパーくらいならいいけど、でももしおまえが勘弁してくれるなら、今日は一日寝ていたいかな
あ」
「それならそれでも別にいいよ。ただキミはどちらもいらないのかなと思って」
「何が?」
「イタズラも、甘いお菓子もどっちもいらないのかな」


きょとんと、本当に鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして進藤はぼくをじっと見詰めた。

そうしてから持っている汁椀の中を箸で探って初めて笑う。

「…かぼちゃ…そうか」

そうだったっけと、それから顔を上げてもう一度ぼくを見た。

「どっちをくれんの?」

頬に赤味が差している。

「キミ次第かな」

キミ次第でどちらでも欲しい方をあげるよと言うぼくにすぐさま彼が言う。

「両方!」
「…欲張りだな」
「欲張りだよ、だから悔しかった」


うん、そうだ、だから悔しかったんだよと言う進藤はもういつもの進藤に戻っていた。

「だったら来期は取り戻さないとね」
「――ああ」


ひとつ息をして、進藤はじっと碗の中を見た。そして残りを掻っ込むと、たんとテーブルの上に置
いて改めて言った。


「いただきます」
「ごちそうさまだろう?」
「いや、だから―」


イタズラとお菓子とこれから両方頂くつもりだからとぼくに向かって手を伸ばす。

「で、どっちから先に貰えるん?」
「…キミ次第かな」


イタズラでも甘いお菓子でもキミが望む方になる。

ぼくの言葉に進藤は一瞬泣きそうな顔になってから、振り払うように明るく笑った。

「…イタズラ」

イタズラがいいと。

そしてぼくを引き寄せるとほんのりとかぼちゃ風味のキスをして、それから耳元に「ありがとう」
と小さな声で囁いたのだった。




※イタズラでもお菓子でも基本同じなわけですが、多少気持ち違うのかもしれません。
2010.10.31 しょうこ