浅く深く
目が覚めたら、ぼくは真っ暗な空間に居て、他には誰もいなかった。
誰もいないどころか何もなくて上も下も解らない。
(それでも起き上がれるんだから足の下が下なんだな)
そんなことを思いながら周りを見渡して、それからふと自分の手首に白い紐が結びつけられている
ことに気がついた。
「なんだろう…これ」
だらりと垂れ下がった紐はそのままどこかに伸びているらしく、少し引っ張っても先が見えない。
解こうとしてみたけれど、思いがけずしっかり結びつけられていて、爪が痛くなるまで試してもどうし
ても解くことが出来なかった。
(仕方無い)
せめてこの先がどこに繋がっているのか見に行こうとぼくはゆっくり歩き始めた。
長く、長く伸びる紐。
真っ暗な中、導のように伸びるその白い紐は、途中絡まったり蛇行したり、大きく迂回したりしていて、
少しも真っ直ぐには続かない。
どうしてこうも素直ではないのだと思いつつ、時間がわからなくなるほど歩いて、ぼくは唐突に紐の終
わりにたどり着いた。
「進藤…」
そこには進藤ヒカルが居た。
いつもベッドでそうしているのと同じように、少しだけ俯せ加減に体を横に向けながら、深く、深く眠っ
ている。
その彼の手首にぼくから伸びた白い紐は同じようにしっかりと結びつけられていた。
(そうか)
ぼくは苦笑のように笑ってしまった。
「…ぼく達は繋がっているんだね」
解こうとしても決して解けない、白い紐で固く結ばれている。
それはたぶん運命というようなもので、ぼくは自分と繋がっているのが彼で良かったと心から思った。
「あまり楽そうではないけれどね」
ぼくの先に居るのがキミで良かったと呟いた時に目が覚めた。
今度は本当の覚醒だった。
照明を落とした見慣れた部屋。
微かに響く時計の針の音を聞きながらぼくはゆっくり起きあがった。
そっと動いたはずなのに、それでもきしりとベッドは軋み、去ってしまうと思ったのか、眠っているは
ずの進藤の手が、ぐっとぼくの手首を握りしめた。
「行っちゃヤダ」
そしてまた、くーと眠る。
「行かないよ、どこにも」
見下ろして、握られた己の手首に、今さっき見た夢を思い返す。
「だってぼく達は繋がっているんだから」
解こうとしても絶対に解けない、たった一人の永遠の相手。
ぼくは彼の寝顔を見詰めながら、その顔が安らかであることに胸が痛くなるような本当の幸せを感
じたのだった。
※すみません。前にも似たような話を書きましたが(^^;
2011.5.5 しょうこ