塔矢アキラ誕生祭参加作品




最低で最高な記念日




12月14日はぼくの誕生日であり、ぼくが彼に告白した日でもある。

いつものように彼と待ち合わせ、一通り打った後、せっかくだからと食事した。もう充分に大人な
ぼく達は、良い気分でワインも頼み、ほろ酔い加減で店を出た。


人通りの少ない道を頬を上気させながらゆっくりと歩き、他愛無いことを話し続けた。


「なあ…本当にプレゼント何も用意しなくて良かったん?」

前を歩いていた進藤が、ふと振り返ってぼくに言った。

「昔ならともかく、今ならおれ、懐結構あったかいから、ちょっと気張った物でも大丈夫だぜ?」

少し前、ぼくと争ってタイトルを獲得した彼は、小憎たらしくもニッと笑う。

「いらない。そんな見るたびにムカっとするものを貰ってどうする。それに…」
「それに?」
「それに…」


言い淀んでから思い切って言った。

「本当に欲しいものはお金では買えないし」
「へえ? 何それ、意味深」


程良く酔っぱらいな彼は、興味津々という顔でぼくの顔をのぞき込んだ。

「何だよ。本因坊の席ならもう返さねーぞ」
「違うよ。そんなものだったら自分の力でもぎとってみせる」
「言うじゃん」
「でも、ぼくが欲しいものは相手の意志を必要とするから」


本当は言うつもりなど欠片も無かった。

ずっとずっと好きだった彼に自分の気持ちを伝えることなど、一生無いと思っていた。

それを思わず口にしてしまったのは、そんな自覚も無いままに、ぼくも相当酔っぱらってしまっ
ていたのだろう。



「キミが欲しいな」
「え?」
「キミが…好きだから。キミにもぼくを好きになって欲しい」


緩みきっていた進藤の顔が、さっと酔いの抜けたものになり、ぼくは途端に後悔した。

「ごめん…悪いけど、おれ…」

厳しい表情で言いにくそうに言う彼に、ぼくは心が砕け散るのを感じた。


「いいんだ、今のは忘れてく――」

「なーんてね。嘘。おれもおまえのこと好き、大好き」

だからおれなんかで良ければ全部おまえにやるよと言われて、嬉しいよりも先に手が出てしまっ
た。


ぱあんと、夜の空気が震えるほどに、ぼくは思いきり彼を殴っていた。

「人には…やっていい冗談と…悪い冗談が…」

言いながらぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。

「ぼくは…本当に真剣に…」

キミが好きだと言ったのに。

「ごめん、塔矢、ごめんて」

進藤は慌てたようにぼくの肩を掴むと、そのままぎゅっと抱きしめた。

「悔しかったんだって…ごめん。だっておまえが先に言うから」
「何が?」
「好きだって、絶対におれから告るつもりだったのに、おまえが先に言っちゃうからさ、ちょっと
悔しくて意地悪した。ごめん」


本当に本当に好きだから。だからおれのこと貰ってくれる? と神妙な声で囁かれ、ぼくは涙を
ぬぐいながら辛うじて答えた。


「…そんなに言うなら、貰ってやってもいい」

でもまたもう一度でも、こんな無駄な意地悪をするようなら、遠慮なくキミを捨てるからと言ったら
進藤はぼくを抱く手に力をこめた。


「ごめん、本当に。マジ、すごく嬉しかった。おまえの誕生日なのにおればっかり嬉しくて、なのに
泣かしちゃってごめんな」
「いいよ―もう」


その後、どうやって抱き合った腕を解いたのかわからない。

ぎこちなく初めてのキスをしたような気もするし、その後で改めてお互い赤くなったような気もす
る。


でもそれ以来、12月14日はぼくにとって生まれた日という以上に、最高に幸せで、でもほんの
少しだけほろ苦い、忘れられない記念日になったのだった。




誕生祭開催おめでとうございます。
毎年とても楽しみです。管理人様ありがとうございます。



二十五歳になったアキラ美人でしょうねえ。タイトル幾つ持ってるのかな。
毎日切磋琢磨しつつヒカルと打っていてくれたならもうそれだけで嬉しい。
来年も再来年も幸せに!


サイト内には他にも色々ありますので、(ヒカアキ)よろしければそちらも見てみてやってください。

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