進藤ヒカル誕生祭7参加作品


Love is best.


昨日の昼は和谷に天丼を奢って貰った。

『特別に「上」にしてやるから、精々感謝しろよ』

滅多に行かない高めな店で、散々恩を着せられて食べた天丼は、でもすごく美味しかった。

『あ、進藤。これやるから』

戻った棋院で門脇さんには缶コーヒーを奢って貰い、奈瀬には控え室で手作りだというクッ
キーを食わせて貰った。


『まったく、飯島くんにだってまだ食べさせたこと無いんだからね』

有り難く思いなさいよとこれまた恩を着せられたが、でもそれっておれで実験してねえ? と
思わず言い返したら叩かれた。


『いい加減トイレから出た時に服で手を拭くのはやめて下さい』

越智にはなんだかよくわからない渋い模様のハンカチを貰い(意外にあいつイイヤツだ)、
冴木さんには前にカッコイイと褒めたシャツを譲って貰った。


帰る前には事務室に呼び出され、紙袋を渡されて、エレベーターの所ですれ違った伊角さん
には今度改めて何か贈るからと言われた。


『いいよそんなの、和谷だって天丼だったし』

じゃあ肉。今度和谷込みで焼き肉に連れて行ってあげるからと言われてありがとうと返した。

出た所でうっかり緒方先生に出会い、飲みに連れて行ってやると言うのをゴーインに振り切
って待ち合わせ場所まで走る。


約束した時間に15分遅れたおれを塔矢は怒らずに許してくれた。

『どこに行く?』
『うーん、まずメシ食って、それからおれんちでも来る?』


あんまりこじゃれた所だとこそばゆいので、美味いという噂のラーメン屋に行き、二人で行列
に一時間並んだ。


『並んでラーメンを食べるなんて初めてだ』

物珍しそうにきょろきょろとしている塔矢に笑い、でもおれもそういえば並んでまで食べるのは
初めてだったと気がついた。


噂ほどでは無かったけれど、そこそこには美味かったラーメンを食って、帰り道でケーキ屋に
寄る。


『キミはいらないって言ったけれど、でもやっぱりこういうものは気分だから』

縁起物のつもりで食べろと塔矢が言い張ってショートケーキを二つ買ってくれたのだ。



(それで…それからどうしたんだっけ?)

眠い目をこすりながら体を起こし、ぼんやりと周りを見る。

部屋の隅には碁盤と碁笥。ああ、帰ってケーキ食った後に塔矢と打ったっけと思い出す。

その反対側には紙袋。まだ中身は見て無いけれど、棋院に贈られて来たファンからのプレゼ
ントが入っているはずだった。


『人気者だな、キミは』

皆に貰った物も一緒に詰め込んだので、パンパンになってしまった紙袋を見下ろしながら塔
矢が笑って言ったっけ。


『人気もんなんかじゃねーよ、こーゆーのだったらおまえのがいつも貰ってんじゃん』
『数の問題じゃないだろう。だってぼくは少なくとも、越智君から何か貰ったことなんか無いか
らね』
『なんだよ、おまえ妬いてんの?』
『……そうだね、うん。少しだけ妬いているかもしれない』



(ああ…)

そうか、そうだったと、ゆっくりと首を巡らせて隣を見る。

そこにはおれに体をすり寄せるようにして眠る塔矢の横顔があった。

すうすうと規則正しい寝息をたてるその顔は、静かでとても穏やかで、夕べあったことなんか
まるで夢みたいにしか思えない。


「でも…本当なんだよなあ…」

頬にかかった髪を指で直してやったら、塔矢は「ん」と小さく声をあげて、でも目は開かなかっ
た。


しっかりと閉じたまま手探りで何かを探しているので、指先を握ってやったら、安心したように
笑ってそのまま再びすうと眠った。


胸が痛い。

痛いくらいに幸せだった。

「おれ…滅茶苦茶いいもん貰ったなあ」

天丼に缶コーヒーにクッキーにシャツにハンカチに、たくさんの『おめでとう』。

ケーキとシステム手帳も貰ったけど、塔矢にはみんなより『いいもの』を貰った。

貰った全てのプレゼントを合わせたよりも、もっともっと『いいもの』。


「…なあ、あのさぁ、夢だったら困るから、起きたらもう一回だけ好きって言ってくんない?」

顔を近づけて囁くように言ったら、眠っているはずのその顔が赤く染まって、いきなりくるりと
背中を向けられた。


「なんだ、起きてるんじゃん。あのさ…もう一回だけ」
「うるさい」


邪険な口調で断られて、でもみの虫みたいに掛け布団にくるまりながら、塔矢は確かに小さ
な声で言ってくれた。


好きだよ。

キミが大好きだよ――と。



満たされる。心の底から満たされた。

昨日、9月20日から今日、9月21日にかけて、たぶんおれは世界中の誰より、シアワセな
誕生日を過ごしたのだった。





「進藤ヒカル誕生祭7」開催おめでとうございます♪

今年も素敵な企画をありがとうございます。
25歳のヒカル、どんな感じかな? 男前なのは間違い無いし、タイトルもきっと持っていますね。
毎日忙しく、でも充実して打つ日々を送っていることでしょう。
ヒカルお誕生日おめでとう。そして生まれて来てくれてありがとう。


サイト内には他にも色々ありますので、(ヒカアキ)よろしければそちらも見てみてやってください。
2011.9.20 しょうこ


素材はこちらからお借りしました。