I NEED YOU
気持ちしかいらないと思うのは、やはり我が侭なんだろうか?
25才の誕生日、何が欲しい? と目の前で聞かれて、そりゃあそれ、おまえだよとはどうしても言えなくて、
でもだからと言って鞄や服など物が欲しいとは言えなかった。
「なんでもいいよ? ぼくにあげられる範囲のものだったら」
「なんでもいいって言われたってさあ」
本当にくれんの? おまえ後悔しないのと思い、じっと目の前の塔矢を見る。
(嘘つき、おまえ絶対ダメだって言うくせに)
そのくせ嫌になるくらい無邪気に素直におれを見る。
あげるよ、なんでもキミの欲しいものをあげるよと胸を抉るようなことを言いながら。
「そうだなあ…そんじゃ…」
頭の中で適当に選んで靴と言いかけた時、目の前の塔矢の目がすっと細められた。
「キミ、そんないい加減なことを言うと後悔するんじゃないのか?」
「へ?」
「本当にキミが靴を欲しいと思っているならあげるけど、違うんじゃないのか」
心にも無いことを言うと後悔する。そして後で撤回しようとしても、もうそれは遅いのだと言われてドキリと
した。
「なんだよ、それ、どーゆー意味」
「どういう意味も何もキミが一番よく解っているんじゃないのか?」
ぼくはキミになんでもあげると言った。そのなんでもには、たぶんキミが今心の底から欲しいと思っている
物も含まれると思うんだけれどと言われて背筋が震えた。
「…わけわかんねえ」
「案外しぶといんだな」
にこっと笑って塔矢は言った。
「ぼくは嘘つきでも無いし、ダメだなんて言わないと思うよ?」
「塔――」
「そして別にキミを引っかけようと思っているわけでも無いし、これは誘導尋問でも無い」
ただキミに正直になって貰いたいだけだと言われてごくりと唾を飲み込んだ。
「あの………つかぬことをお聞きしますが、塔矢家って何か特殊能力の一族か何か?」
人の心が読めんのかと聞いたら可笑しそうに笑われた。
「うちは代々、棋士の家系だけど」
「そうじゃなくて!」
「同じだろう。相手の心とやろうと思っていることを読む。それが打つということじゃないのか」
だからキミもそろそろ腹をくくってぼくの前に座ってくれないかと言われ、思わず大きな溜息をついた。
「いつからわかってたん?」
「―――さっき」
「え?」
「このファミレスに来て、キミと話をして、ぼくが『なんでも欲しいものをあげる』と言ったその時に解った」
キミ、顔に出過ぎだよと言われてほっとして、それから頭を抱えたくなってしまった。
「そんなにバレバレだった?」
「うん。はっきり顔に書いてあった『塔矢が欲しい。他のものはいらないって』」
それなのに勝手に諦めて足元なんかに目を落とすのだから、どうしてやろうかと思ったと言われて覚悟
を決めた。
「そんじゃ言う。えーと、あの、おれが誕生日に欲しいものは―」
何度も何度も噛みまくり、それでもようやくおまえデスと言ったおれに、塔矢は優しく笑いながら、テーブ
ルの下でそっと手を握ってくれたのだった。
※ヒカル誕生日おめでとー。もう25才なんて早すぎる。でも男としてはすごくいい年齢ですよね。毎年毎年思うけど、また今年も思う。
きっと格好良い男前に育ったんだろうなあ。アキラといつまでも仲良くね。2011.9.20 しょうこ
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