propose




12時ちょうどになるのを待って進藤の部屋のチャイムを鳴らしたら、非道く釈然としない顔でドア
を開けられた。



「塔矢? 何で???」


昨日、12月13日。進藤は一緒に夜を過ごして14日のぼくの誕生日を迎えることを望んだのだ
けれど、用事があるからと断ったのだ。



「今、暇か? それとも何かやっていた?」

「ちょうど今、おまえにおめでとう電話をかけようとしてた所。なんだよ、すげなくフッておいて今更
何しに来たんだよ」


毎年、前日を含めて二人きりで過ごしていたのを今年になって断られ、進藤は大人げなくも拗ね
てしまっている。


自分に関することには無頓着なくせに、進藤はぼくに関することは全て漏れなく大切にしていて、
大袈裟に祝おうとするからだ。



「まあいいよ、入れよ」


それでもぼくが来たことは嬉しかったらしい、いそいそと中に引き入れようとするので、やんわり
とその手を解いて払った。



「違うんだ」

「え?」

「違うんだ。ぼくはキミにプレゼントを貰いに来たんだ」


驚いたような顔をして、それから進藤がふてくされたような表情になる。


「何? まさかプレゼントだけ貰って、それで速攻で帰るつもりなんかよ」


一体どこの追いはぎだよと口調にムッとした物が混ざるのを隠しもしない。


「大体、今日の用事ってなんだったんだよ。また緒方センセーに美味いメシにでも連れて行って
貰ってたん? それともおれよりも大切な指導碁でもあったのかよ」


「―どうしてもキミに貰いたかったんだ」


まだまだ続きそうな文句を遮るように言う。


「キミをください」


ぶすっとした顔でいましも文句の続きを言おうとしていた進藤が、口を開けたまま声を失った。


「キミの人生をぼくに下さい」


そして深々と頭を下げる。


今日のため、ぼくは何を言ったらいいのか死ぬ程考えた。

進藤とぼくはもう何年も前から恋人同士の関係になっていたし、このまま一生離れることは無い
のだろうなとぼんやりと考えていた。


でも男同士なので結婚することは出来ないし、約束を形にすることは出来ない。だからはっきり
とした確約を貰わずにいたのだけれど、二十代半ばを過ぎた今、きちんと言葉として約束を貰っ
ておきたい気持ちになったのだ。



「ダメかな…」


下げていた頭を上げると進藤の困惑しきった顔が目に入った。彼は青くなったらいいのか、赤く
なったらいいのか解らない鬼みたいな、上気した頬と反対に血の気を失った顔色をしていた。



「あ――――そんなの」


それがゆっくり血が巡り、照れたような赤い顔色になる。


「とっくにぼくのものだったなんてそんな言い方は許さない。今ぼくは約束が欲しいんだ。キミの
人生を最後まで全部ぼくに下さい。ダメならダメで諦めるから」


「おれは…あーっ、もう」


お手上げというように天を向いて、大きく息を吐いた後ぼくに真っ直ぐ向き合って進藤はゆっくり
言ってくれた。



「やるよ、全部。おれの全部今日からおまえの物だから」

「ありがとう」


断られるとは思わなかった。でも確信は持っていなかった。


「でさ、やるからおれからも交換条件」

「何?」

「こういう卑怯なことやる時は前もって言えよ。おれの誕生日過ぎちゃったじゃん」

「ロレックスの時計は気に入らなかったか?」

「あーっ、もう、だから! おまえは素でバカですか!」


じれったそうな口調に小首を傾げる。


「おれにもおまえをくれって言ってんの!」


ああとやっと意味が解った。


「おれはおまえが欲しい。おまえの人生を全部カケラ残さずおれに下さい」


そしてぼくがしたようにぺこりと頭を下げたので、思わずその頭を撫でてしまった。


「バッ―バカにしてんのか?」

「いや、謹んで」

「ん?」

「謹んでキミに捧げます」


ぼくの人生はもうキミの物だから、好きにして構わないよと言ったら進藤はまた顔色が白に近く
なってしまった。



「おまえってさあ、どうしてそう――」


言って口籠もる。


「どうしてそう、おれの心臓止めるような殺し文句が得意なんかなあ」


その言葉こそぼくにとっては殺し文句だと思いながらぼくはやんわりと笑った。


「じゃあ、プレゼントも貰ったことだし、そろそろ部屋に上げて貰おうかな」

「おまえ帰るんじゃないの?」

「誰が帰るって言った。そもそも今日は会う約束をしていたじゃないか」


そう。

前日からの逢瀬は冷たく断って、ぼくは当日は丸々1日空けていた。


「キミと過ごすために苦労して都合つけたんだから、精々持てなしてもらわなくちゃ」

「ケー…」

「ケー?」


呆然とする彼の脇をすり抜けて、勝手知ったる彼の部屋の奥にずかずかと上がり込んだら、掠
れたような声で彼が言った。



「ケーキは明日買うつもりだったから、まだ無いから」

「うん」

「ワインとシャンパンも、おまえの好きなヤツ、レストランで分けて貰う約束になってたからまだ無
いよ」


「いいよ」

「メシも…さっきカップ麺食っただけで何も用意していないし」

「夕食は食べて来たから気にしないでいい。それよりキミ、いつまでもそんな所に突っ立っていな
いで、奥で確認しないか?」


「え?」

「お互いに贈り合った物を確認しないかと言っている」


キミがぼくにくれた物。ぼくがキミに捧げた物。その2つをゆっくりと確かめ合わないかと言ったら
進藤は一瞬気絶しそうな表情になった。



「つっ!」


踏まれたネズミみたいな声を上げる。


「謹んでっ!」


そして叫ぶように言うと真っ直ぐぼくに向かって来たので、ぼくは両手を広げると、貰ったばかり
のプレゼントを愛情を込めて全身で受け止めさせて貰ったのだった。




塔矢アキラ誕生祭11様、開催おめでとうございます。

素材はこちらからお借りしました

あっという間にアキラも二十六歳なんですねえ。しみじみ。
何歳になってもヒカルと永遠バカップルでいてください。


びしばしに強い最強美人男前棋士万歳。

サイト内には他にも色々ありますので、(ヒカアキ)よろしければそちらも見てみてやってください。
2012.12.14 しょうこ


HOME