数え年
「年の数なんて…一体、何粒食べりゃいいんだ」
呟きながら進藤が豆を拾う。
「自分の年も解らなくなったか?」
「そんなの解ってるって」
問題は年の解らないヤツの分だってと、ぶつぶつと言いながらまだ豆を拾い続ける。
「お父さん?」
違うと解っていて尋ねてみる。
「違うよ」
「じゃあお母さんかな」
「違うって」
親の年くらい知っていると、素っ気なく言ってまた豆を探す。
「じゃあ―」
言いかけた言葉を飲み込んで、足元に見つけた豆を拾い上げて彼に渡す。
「何才くらいって、キミが思う年の分だけでいいんじゃないか」
「だって何才なんて…」
眉を寄せ、それからふっと小さく笑った。
「もしかしたらおれ、もう追い越しちゃっているのかもしれないなあ」
自分よりずっと大人だと思っていたけれど、本当はそんなでも無かったのかもしれないと。
「…子どもの時って、大人の人が自分より大きくて、年を取って見えるものね」
いつまでも追いつけないような、果てしなく遠くに居るような。そんなふうに思えるのに、気
がつけば自分がその年になっていたりする。
「おれ…中身もちゃんと追いついているのかな。まだ全然追いつけているようには思えな
いんだけど」
進藤は自嘲気味に言って掌に乗せた豆を見詰める。
「ぼくだって、今のお父さんと同じ年になったって、きっと同じ位置に立てたとは思えない
と思うよ」
「…そんなもん?」
「そんなものだよ」
だからいつかぼく達も誰かにそう思って貰えるようになれるといいねと。そんな大人にな
りたいねと言ったら進藤は微かに微笑んだ。
「おまえならなれるだろ」
「キミもね」
キミならば絶対になれる。
キミの大切な人もきっと同じことを言うと思うよと言ったら、進藤は一瞬目を潤ませ、けれ
どすぐにそれを誤魔化すように豆を一気に口に放り込むと、「バーカ」とひとこと言ったの
だった。
※佐為ちゃんは何歳だったんだろうなと時々ふっと思います。平安時代の人の寿命は今の人より短いはずで、
だったらきっとこの話のヒカルよりは絶対年下だっただろうと。でも精神的には年上だったかもしれないですね。
ヒカルにとってはたぶんずっと越えられない自分より大きな存在なんだろうなと思います。
2012.2.3 しょうこ