猟奇的な彼氏
願い事、言えば何でも叶えてやるよと進藤が言うので、少し考えてから「殴らせて欲しい」と 言ったら世にも情けない顔をされた。 「なんでだよ!」 「何でと言われれば一つ一つ説明出来なくも無いんだけれど」 それを本当に聞きたいかと尋ねたら、進藤の表情は更に悲壮なものになった。 「…おまえ、そんなに色々おれに思う所があるのかよ?」 「キミが無いと思うなら無い。あると思うならあるんじゃないかな」 曖昧に言うのはこの一年を振り返っていたからだ。 世の中の全ての恋人達が毎日ただ睦まじく寄り添い合っているわけでは無いように、去年 のぼくの誕生日から今日までの間、ぼく達にも甘い時間と辛い時間が交互に入り乱れるよ うに訪れた。 手合いの成績で相手にムッとしたこともあるし、女性関係で軽い浮気未遂事件(進藤は違 うと言っている)もあったし、かと思えばバカみたいに何もせず部屋で抱き合って過ごした日 もあった。 それらの比率は六対四ぐらいで、もちろん六が辛い時間の方である。 「別に全部キミだけが悪いとは思ってなんかいないけれど、でも折角願いを叶えてくれるっ て言うから」 お言葉に甘えてすっきりさせて貰おうかと思ったのだと、ぼくの言葉に進藤は大きく息を吐 いた。 「おれはー、おまえの誕生日だから『お願い』を何でも聞いてやろうと思っただけで、決して 普段の憂さ晴らしをさせてやろうと思ったわけじゃねーんだよ。…でも、まあそれが叶えて 欲しいってことなら仕方ねえ」 殴るなら殴れよ、それがおれのおまえへのバースデープレゼントだと、ずいと顔を突き出さ れて苦笑した。 「…随分殊勝なことを言うんだな。それじゃ遠慮無く―」 ちゅっと頬にキスをしたら進藤は目を見開いて驚いた顔になった。 「は? 殴んねーの?」 「殴った方が良かったか?」 「いやいやいやいやいや、全然」 けれどまだ腑に落ちないという顔をしている。 「確かに最初は本当に殴らせて貰おうかとも思ったんだけどね、キミの顔を見ていたら殴 るよりキスの方がしたくなったから」 だから殴るつもりだった回数分だけキミにキスをしても良いかと尋ねたら、進藤は大きく頭 を縦に振った。 「あ、でも」 「なんだ?」 十回ほどした後で唐突に進藤がぼくに言った。 「これだとなんかおれのが絶対的にシアワセだから、おれもおまえにキスしてもいい?」 「この一年、ぼくにムッとした数だけ?」 「いや―」 この一年、おまえを可愛いと思った数だけキスがしたいと愛しそうにぼくを見つめて言うの で、ぼくはわざと考えるふりをしてから「いいよ」と勿体をつけて彼に返事をしたのだった。 |
アキラも今年で二十七歳ですね。何歳のアキラを想像しても美しい顔しか思い浮かびません。
キレイで強くてカッコイイ、日本を代表する棋士になっていることでしょう。
年を取ってもしゃんと背筋を伸ばしてヒカルと打っているんだろうなあ。しみじみ。
サイト内には他にも色々ありますので、(ヒカアキ)よろしければそちらも見てみてやってください。
2013.12.14 しょうこ
HOME