わるいこと



両手で頬を挟んで仰向かせた。

こいつ、少し上向きになると微かに唇が開いて色っぽい顔になるんだよなあと思いつつ、そっと
塔矢にキスをした。


キスの味がどうとかそんなこと知らないけれど、でも塔矢の唇はとても柔らかい。

そして何よりも触れ合った瞬間の感触がとても好きだとそう思う。


味わうように触れて一旦離し、それから今度はついばむように触れる。

深く浅く角度を変えて、何度も唇を重ねていたら、ふいに胸元を手で押された。

「なんだよ」

せっかくノッてたのに邪魔すんなよと構わずにキスをしようとしたら、今度は手で口を塞がれてし
まった。


「何? おまえだってノリノリだったじゃん」

むっとして手を退けると、おれを睨む目と目がかち合った。

「ここじゃ嫌だ」
「へ?」


キスしていたのは塔矢の家の縁側。南側の窓は大きく開け放たれていたけれど、見えるのは庭
ばかりで別段何がどうということは無い。


「じゃあ部屋行くか? おまえの部屋でちゃんと布団敷いて最後までヤル?」
「違う、そういうことじゃなくて」


あからさまなおれの物言いに塔矢がさっと目の下を赤く染めて言う。

こいつのこういう初心な所大好き。

もう何度も数えられない程キスしているのに、いつまでもそれに慣れることが無い。そのぎこち
なさがたまらなく好きだと思う。


「…見ているから」
「誰が? 近所のオッサン?」


いつもの如く塔矢家には塔矢以外に誰もいない。塔矢先生達は海外でしばらく帰って来ないと言
っていたし、今日は特におれが来るので誰も呼んではいないはずだった。


「違うよ、お雛様が」

お雛様が見ているから、ここでするのは嫌だと言って塔矢は部屋の隅を指さした。

「んな、あんなの人形じゃん」

二週間ほど前帰国した塔矢のお母さんが、少し早いけれどと飾って行ったのだという段飾りがそ
こにはあった。


確かにそれはおれ達の方を向いていて、見られていると言えばそう言えるけれども。

「…おまえ、変な所で気にしいなのな」
「それでも衆人環視の中でこんなことをするのは嫌だ」


一度言い張ったら絶対に曲げない。仕方無くおれはため息をつくと、名残惜しく塔矢から手を離
してキスをするのを止めた。


「ごめん」
「いいよ。仕方無い。でも、見えない所でだったらいいんだろう」


おれの言いようにまた塔矢は赤くなったけれど、それでも嫌だとは言わなかった。

「それは…うん」

恥ずかしそうに頷いて、消え入りそうな声で構わないよと呟く。

「じゃあさっさと行こうぜ。おまえの部屋でさっきの続き、もっと濃厚にさせて貰う」

途中で止められたせいで余計に燃えたというか、気持ちがずっと高ぶってしまった。

いっそもう、廊下で押し倒してもいいくらいだと荒々しい気持ちにもなったけれど、たぶんそれも
お雛様の見える範囲ということで拒絶くらってしまうんだろう。


(あんな人形)

でも、人形は確かにおれ達の悪さに効果があった。

(塔矢のお母さんもやるなあ)

息子に悪い虫がつかないよう、自分の代わりに置いていったのだろうかと思ったら少し、いや、
かなり癪な気持ちになってしまった。


「そんな風に見ていても、目の届かない所だったら、どんなこともやり放題なんだからな」

べーっと舌を出してこれみよがしに塔矢の肩を抱く。

「誰に向かって言ってるんだ、キミ」

不思議そうに言う塔矢に顎でしゃくって人形を指す。

「雛人形に決まってんだろ、あの無粋な人形」

そして今一度、見せつけるようにぎゅっと塔矢を抱きしめると、キスよりももっとスゴイことを念入
りにするために、茶の間を出て塔矢の部屋に向かったのだった。

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※見られると燃えるタイプ…では無く(笑)止められると燃えるタイプでしょうか、ヒカル。こんちくしょうというのが常に根底にあるような気がします。
それに対してアキラは生まれた時からの生粋の「いい子」だから小さなことでも結構心の枷になるタイプ。でもヒカルについて行ってしまいますが。
お雛様も毎年大変です。2013.3,3 しょうこ