初めてキスをした時に



初めて塔矢とキスをした時、間近で見る伏せられた睫毛が長くて綺麗でしばらく見惚れた。

「進藤?」

不安そうに呼ばれて開かれた目に慌ててごめんと謝ったけれど、再び閉じられた瞼を見たらやはりとても綺麗だったので
また無言で見つめてしまい、からかっていると誤解されて殴られたりもしたのだけれど。



(あれはちょっと…結構感動したな)

普段の生活で近づくことがあっても閉じられた目をあんな距離で見ることは滅多に無い。

だからこそそれを許される関係になったことが嬉しかったし、まだ知らなかった美しさを知ったことも喜びだった。

(それにあいつ、あの時ちょっと震えてたし)

気持ちを伝えてそれに同じものを返されて、いきなりそういう雰囲気になって顔を近づけてしまったのだけれど、塔矢には
まだそこまでの心の準備は出来てはいなかったのだろう。


でも拒むことも出来なくて必死におれに触れられる瞬間を待った。

(なのにいつまでもして貰えなかったら、そりゃあからかわれてると思うよな)

真っ赤な顔でおれを張り飛ばしたあいつの顔を今でもおれは忘れない。


『キミ、最低だ!』

『なんで! おれ何にもしてないじゃん』

『何もしないからいけないんだろう』

あの時はいきなり殴られてその痛さに逆上し、つい怒鳴り返してしまったけれど、どう考えても引き延ばし過ぎたおれの
方が悪い。


『キミは冗談のつもりでもぼくはそうじゃない。その気が無いならもう二度とこんなことはしないでくれ』

『おまえこそ何でそんなこと言うんだよ、目ぇ閉じたおまえが綺麗だから見とれちゃっただけじゃんか!』

『綺麗とかそういうことを真顔で言うな!』

すったもんだで結局させて貰うまでに随分時間がかかってしまったけれど、触れた唇は甘くて柔らかくて改めてまた感動
した。


(本当にあの時のあいつ可愛かったよなあ)

しみじみと思い出していると、ぺちりと軽く頬を叩かれた。

「―なんだよ」

「なんだよじゃない。キミ、昔からそうだけど、キスしようとしてそのまま止めるのは悪い癖だよ」

間近で見つめる塔矢の目が困った子供を叱るようにおれを微かに睨んでいる。

「そうやって無言で見ていられるとバカにされているような気持ちになるんだ」

「だから違うって、その『昔』からちゃんと言ってるじゃん」

目を閉じているおまえの顔が本当に綺麗で見とれてしまっているだけなんだってばと、言い訳するおれの頬を再び軽く
塔矢は叩いた。


「その『昔』からぼくもずっと言っている。綺麗とかそういうことは――――」

「言うなって言われてもこれからも言う」

おれは言いかけた塔矢の言葉の終わりを飲み込むように口づけた。

「しん―」

抗うのを無理矢理力で押さえて更に深く口づける。

「だって目を閉じたおまえって、本当に綺麗で本当にすっごく」

可愛いんだよと息の合間に囁いた。

口中を舌でなぞり、上顎も下顎も無く舐め回す。

塔矢が苦しそうに眉を寄せても離さずに、唾液の最後の一滴をも吸い尽くすようにしてからようやく唇を離してやった
ら、こほっと小さく咳き込んだ。


「今も昔もおまえって最高」

名残を惜しむように目元にちゅっと軽く口づけたら、塔矢は潤んだ目でおれを睨んだ。

「今も昔もキミはバカだ」

大馬鹿だよと、けれどもう殴りはせずに、ただ静かにおれの胸に顔を伏せたのだった。



※そんなバカを好きになってしまったんだから仕方が無い」と続く感じでしょうか。今年は無理かなーと思っていたのですが
拍手のメッセージで俄然燃えました。根性無しなのでこうしてケツを叩いて頂けると助かります。2014.5.26 しょうこ