進藤ヒカル誕生祭11参加作品
睦言
最初に必ず二度、アキラは軽くヒカルの体を揺する。 そうした後に小さな声で「進藤」と名を呼んで、それでも何の反応も無いと、やっと安心したように眠っているヒカルの 掛け布団に手を入れてその手をそっと握るのだった。 「おめでとう。そして生まれて来てくれてありがとう」 囁くように言って、そのまましばらくヒカルの寝顔を見つめている。 それは毎年繰り返されるヒカルの誕生日の儀式のようなものだった。 一体いつからアキラがそうしていたのかヒカルは知らないし、面と向かって尋ねたことも無い。 (聞いたら絶対、二度としてくれなくなっちゃうもんなあ) 気づいたのは数年前。 目を覚ましたのは偶然で、密やかな気配に瞼を開くことなくうとうととしている内にに耳ともに愛の言葉を落とされた。 信じられない気持ちで、でもただ一度のことだろうと翌年も期待せず素直に眠りに就いた。けれど同じように夜中、 揺すられて目を覚まし嬉しい言葉を貰ったのだった。 時間は12時丁度だったり、明け方近かったりバラバラで、かけられる言葉も様々だけれど、アキラのヒカルへの溢 れんばかりの愛情が込められている。 翌日はもちろん普通に祝福してくれて、お祝いのケーキを一緒に食べたり、アキラなりに考え抜いたであろうプレゼ ントを贈ってくれる。 でもそれは夜中に密やかに行われる祝福とはまた全然別なものなのだった。 知る前は充分以上に嬉しく感じていたことだったけれど、眠っている間にアキラがくれる物を知ってからヒカルはそ れらがほんの少し平凡に思えてしまう。 (だって夜中のアレは塔矢の本当の本音だから) 本人に聞かれているとは思わない故に濃度が違う。 嘘偽らざるアキラの言葉は時にヒカルに涙をこぼさせる。 (こんなにおれを愛してくれているなんて) それが他でも無いアキラであることが信じがたく、奇跡のように思われてヒカルは嬉しくてたまらない。 (いつまでも、いつまでもおれを愛して) おれもまた、いつまでも、いつまでも変わらずにおまえのことを愛するから。 そう思いながらヒカルは誕生日の前日、素知らぬ顔でベッドに潜り込む。 交わって眠ることもあれば、そのまま眠ることもある。 喧嘩して背中を向けて眠った年もあったけれど、祝福は違わず与えられた。 (塔矢、大好き) 実際には単純に「おやすみ」とだけ口にして、ヒカルはその時が来るのをじっと眠らずに待つのだった。 |