力碁の人




ヒカルの誕生日に何をあげたら良いのか考えあぐねたアキラは、思いきって直接ヒカルに尋ねてみた。


「え? おれの欲しいもの? そんなのもちろんおま―」


途中まで言いかけたヒカルは何故か真っ赤になって口を閉ざすと、それから慌てて言い直した。


「おまけ! ほら今テレビでCMやってるじゃん! おれがいつも飲んでる炭酸飲料にアメコミのおまけが付いてるだろ、あれが今1番欲しい」

「…へえ、おまけ」


アキラはそんなもので良いのかと思いつつも、苦手な炭酸飲料を必死で飲んでおまけをコンプリートしてヒカルに渡した。


「別に好きならいいんだけど、キミももういい大人なんだからこんなおもちゃじゃなくて年相応の物を欲しがったらいいと思うよ?」

「おれだって別にホントは!」

「本当は?」

「……いやなんでも無い、マジ嬉しい。ありがとな」


ヒカルは自分でリクエストしたくせにアキラが贈ったプレゼントを実に微妙な顔をして受け取ったのだった。


翌年もアキラはヒカルに同じ質問をした。


「誕生日に欲しいもの? そりゃおま―」

「おま?」

「おま―んじゅうかな」


おれ饅頭好きなんだよと、へらりと笑ってヒカルが言うのでアキラは内心消化不良のような気持ちになりながらも、母親に聞いて老舗和菓子店の薯蕷饅頭に熨斗をつけてヒカルに贈った。

翌々年にはオー○イスパゲッティのギフトセット。更にその翌年にはお○めさん(商品名)一年分をリクエストされ、贈りはしたものの流石にアキラも堪忍袋の緒が切れた。


「キミね、いつも妙な物ばかりリクエストするけれど、本当にあれが欲しいものなのか?」


今年の贈り物を何にするのか尋ねようとしたアキラは、気配を察したヒカルが視線を彷徨わせ始めたのを見て先手を打ってびしりと言った。


「え? うん。おまけはマジで欲しかったし、饅頭も甘いもの好きだから嬉しかったし、ギフトセットも豆の煮物も一人暮らしだから有り難かったし」

「ふうん」


詰問調のアキラにヒカルは一瞬焦った顔をしたものの、何食わぬ顔で誤魔化そうとする。


「今年は何を貰おうかな〜」

「オマールエビでもお守りでも、おまるでもなんでもキミが欲しいって言うならあげるけれどね」

「なんだよ」

「でも違うだろう? キミが本当に欲しいものは違うはずだ」


じっと見つめるアキラの視線の強さにヒカルはたじろいだように顔を背けた。


「べっ、別に違ってなんか――」


此の期に及んでもまだヒカルは白を切ろうとする。


「キミは傍若無人な性格のくせに、案外ぼくに対しては紳士というか慎重だよね。それとも臆病なのかな? 言い出せるまで待ってあげようとか思ったんだけれど、このままだとキミは永遠に欲しいものを言いそうに無い」


だからと言ってこれ以上無駄に時間を費やすのも嫌だから、もう今日でケリをつけようとアキラはヒカルに詰め寄った。


「観念しろ、進藤ヒカル! キミの本当に欲しいものは一体何だ? キミが本気で願うならぼくはいつでもそれをキミに差し出す覚悟がある。でも、のらりくらりと逃げ続けるつもりなら永遠にその機会は失われるものと思え! さあ答えろ、今すぐにだ!」


有無を言わせない口調にヒカルは青くなったり赤くなったり唸ったりを繰り返した。

それでもアキラは微動だにせずヒカルを見つめ続けるので、ヒカルはとうとう諦めたようにその重い口を開いた。


「おまえ―が欲しいデス」


睨み付けるようなキツイ視線から一転、花がほころぶようにアキラが優しく微笑んだ。


「よく出来ました」


そして恥ずかしさのあまり悶死しそうになっているヒカルの頬にかすめるようにキスをすると、宣言通り『欲しいもの』を贈るため、その身を気前良く相手の胸に投げ出したのだった。


※『塔矢の強さは「力」だ―盤上で勝利をもぎ取ろうとする力がスゲェんだ 多少の不利などものともしない』(コミックス21巻)
ということで力碁の人、塔矢アキラでした! ヒカル誕生日おめでとう〜。2015.9.20 しょうこ