千年も万年も
夕暮れだった。
駅から帰る途中で日は沈み、でも辺りは薄青い。
そんな中をヒカルとアキラは二人して、その日あったことなどを話しながら歩いていたのだが、ふとアキラが
立ち止まった。
そこは公園の端に面していて、柵越しに大きな桜が枝を伸ばしている。その桜が少し気が早く満開になって
いるのだ。
「ああ、綺麗だな」
ヒカルはアキラが桜を見て立ち止まったのだと思った。
けれどよくよく見ればアキラの視線は桜よりもっと下にある。なんだろうと思ったらその下を歩いている老夫
婦を見つめていたのだ。
夫の方は杖をつき、右足を少し引きずりながら歩いている。その隣にはぴったりと寄り添うようにして老いた
妻が老人カーを押しながら、やはりゆっくりと歩いている。
「年を取っても」
唐突にぽつりとアキラが言った。
「ん?」
「年を取っても睦まじく二人で生きていけたらそれだけでいい」
目を細め、アキラは焦がれるように老夫婦を見ている。
「ぼく達だって年を取ればあちこちガタが出るだろうし、病気にだってなるだろうし」
「うん」
「体も衰えて、目だってよく見えなくなるかもしれない」
「そうだな」
「それでも、例え辛うじて生きているような状態だったとしても、キミと二人で生きていけたら、ぼくはそれだけ
でいいんだ」
ゆっくり、ゆっくりと老夫婦は歩いて行く。
普通に歩いていけばすぐに追い抜かしてしまえる程の早さだけれど、それでも時折顔を見合わせながら歩む
二人の姿はヒカルの胸をも熱くした。
「…おれも皺くちゃのジジイになってもおまえと一緒に歩きたいな」
何十年後か、今のようには歩けなくなって、それこそ杖をつくようになるかもしれないけれど、あんなふうに同
じ距離で慈しみ合いながら生きていけたらそれだけでいい、心の底からそう思った。
「愛してるよ、年を取っても」
ヒカルの方を向いてアキラが言った。
こんな風に外でアキラが気持ちを口にするのは非道く珍しいことだった。
「おれだって、もちろん」
一億年後だって絶対におまえのことを愛していると、そう言ってヒカルはアキラの手にそっと指を絡ませた。
普段だったらすぐに払いのけられるそれは、逆にしっかりと握られてヒカルの顔に驚きと共に微笑みが広が
った。
「幸せだよな、おれ達」
「今頃気がついたのか」
「いや、ずっとそう思っていたけど」
改めてそう思ったんだと呟きながらヒカルはアキラを抱きしめたい衝動を抑え、握りしめた手を引っ張るよう
にして歩き出した。
満開の桜の花の下、先を行く老夫婦を追いかけるように睦まじく二人で歩いたのだった。

※本当は微エロ?な話を書くつもりだったのですが唐突に思いついてこちらを書きました。
タイトル、同じタイトルで別な話を書いたことがあるかもですが、ごめん、勘弁、スルーして下さい。もはや自分でも全てを把握出来ない
数になってしまっているのですよ。2015.3.14 しょうこ