Happiness



疲れ切った体で玄関のドアを開けたヒカルは、靴を脱いで上がった所で背後で鍵穴に鍵を差し込む音を
聞いて驚いて振り返った。


まだ鍵は締めていない。

なので逆に戸締まりされたことになり、ガチっとドアが音をたてて揺れた。

不審そうに何度か繰り返されたその後、改めて鍵が差し込まれて解錠される。


「えっ」


開いたドアから入って来たアキラはヒカルを見るなり驚きの声を上げた。


「キミ、今日は帰らないのじゃ無かったか?」

「そーゆーおまえこそ明日まで帰って来ない予定だったろ」


ヒカルもまたびっくり顔のままで問い返す。

実は二人とも遠方に行っていて、帰宅予定は明日だったのだ。

それというのもヒカルの方は父方の叔父が亡くなった葬儀に出席するためで、アキラはアキラで地方イベ
ントに行くはずだった緒方がインフルエンザに罹って出席出来なくなりその代役を頼まれたからだった。


不幸が重なったその日は12月24日で、距離を考えると翌日の25日も帰宅時間はかなり遅い。つまり今
年はクリスマスは無理だということになっていたのである。


初々しい恋人時代から、なんとかスケジュールを合わせて二人で過ごして来たクリスマスだが、さすがにこ
んなイレギュラーな予定には対応出来ない。


残念だけれど仕方無いと納得の上、それぞれ目的地に向かったのだった。


「ぼくは……行ったら、向こうでもインフルエンザが大流行していて、参加者が半分以上欠席だったから予
定の半分くらいの時間でイベントが切り上げられたんだ」


「おれは車で来てた従兄が明日仕事だとかでこっちに帰るって言うから、それに一緒に乗せて来てもらった」


ヒカルにしてもアキラにしても帰ることになったのは予定外の出来事だった。相手はそのまま一拍するもの
と思っていたし、だから帰ることになったと連絡すらしなかったのだ。



「なんだよう。解ってたらせめてコンビニでケーキくらい買って来たのに」

「いや、無かったよ。帰りがけにちょっと覗いたけれど浚えたように何も無かったから」


疲れて甘い物が食べたくなり近くのコンビニに入ったけれど、見事なくらいに何も無く、それで諦めて帰って
来たのだと、なるほどそのために絶妙な帰宅の時間差が生じたらしい。



「まあ、とにかくメリークリスマス」


ヒカルが苦笑しながらアキラに手を差し伸べる。


「そんなところに突っ立って無いでいい加減中に入れよ。寒いだろう」

「ありがとう。メリークリスマス。でもぼくが突っ立ったままなのはキミがそこに立ちはだかっているからだか
ら」



笑ってアキラがヒカルの手を取る。

靴を脱いで部屋に上がり、そうしてから改めて二人で抱きしめ合った。


「なんか凄いな、おれ達」

「そうだね。結局こんな形でもクリスマスを一緒に過ごすことが出来ている」


神様に感謝だねと、そして互いの顔を見つめるとゆっくりと深いキスをした。


「愛してるよ。泊まって行けばと言われたけれど、そのまま帰って来て良かった」

「おまえもか! おれも親はそのまま泊まって行くから一緒に泊まればって言われたんだけど、なんとなくさ」


帰りたくなって帰って来て良かったと、幸せそうに笑う顔にアキラは胸が痛くなった。


「ケーキも無いし、ご馳走も無いし、ワインもプレゼントも何も無いけど……それでもやっぱりクリスマスは良
いものだね」


「なんも無くても良いよ。おまえが居ればおれはそれだけで最高だから」

「ぼくもだ」


改めてキスを繰り返し、そして飽きる程抱きしめ合ってから、二人で仲良く冷え切ったリビングに向かった。

辛うじてツリーだけは飾ってある。

それを見つめながらまたもう一度キスをした。

色々とイレギュラーだったけれど、たぶん今年のクリスマスが今までで一番幸せかもしれないと思いながら。





※色々と間に合っていない私ですがなんとかクリスマス更新は間に合いそうです。
神様早く目を覚まさせてくれてありがとう!


ヒカアキの二人も長い年月の内にはどうしても全てのイベントを二人で過ごすわけにはいかないと思うんですよ。
それは仕方無いことだしお互い納得するわけですが、それでもちょっと寂しいなあという気持ちにはなると思うんですよね。
だからこそこんな奇跡が起これば倍以上嬉しく幸せになると思います。
皆様もどうか良いクリスマスをお過ごし下さい。


2015.12.24 しょうこ