進藤ヒカル誕生祭14
「進藤ヒカル誕生祭14」参加作品

特別な日


朝食の席に着いたヒカルは、テーブルの上に並ぶメニューに目をやってにんまりとした。


「なんだ?」

「ん、いや別に」


並んでいたのは焼き鮭と卵焼きとなめ茸とみそ汁。

ごくごく普通の物たちだけれど、きっと卵焼きは甘くてみそ汁の具は玉ねぎとジャガイモだ。

九月二十日。

誕生日にはいつもアキラはヒカルの好物を作ってくれる。

そもそも食事は交代で作っているが、その日がヒカルの番だとしても関係なくアキラは作る。
もちろんアキラの誕生日にはその逆のことが起こるのだが。



(愛されてるなあ、おれ)


思った通りに甘かった卵焼きをほおばりながらヒカルはしみじみと思った。

今日は共に棋院で手合いがあり、たぶん昼にはヒカルの好きなファストフードに行くだろう。

秋限定のバーガーを食べたいと言っていたのを覚えているはずだからだ。


(それで夜は外食か、それとも何か考えてくれてるのか)


そのどちらでもきっとヒカルは嬉しい。

共に暮らし始めて随分経ち、十代の頃のように互いを待つということはあまりしなくなっていた
けれど、今日はきっと検討がどんなに長引いてもきっとアキラはヒカルのことを一階でずっと待
っていてくれる。



(そして手を繋いで帰るんだ)


普段なら頑として首を縦に振らない手つなぎも今日はきっと許される。

ヒカルはきっと痛いと言われるほどしっかりとアキラの手を握るだろう。


「…シアワセだな」

「何が」

「別になんでも無いけどシアワセだなあって」

「キミは簡単でいいな。卵焼きが甘いくらいでそんなに幸せになれるなんて」


しかしこれは失言だったのでアキラはすぐにむっと口をへの字に曲げる。

ヒカルのためにしている。

それを知られるのをアキラは死ぬ程嫌がっている。例えヒカルがそれを十分に理解していると解
っていてもだ。



「簡単じゃねーよ、朝食って大事なんだぜ。何しろ一日の始まりなんだから。それに好きなもんが
出たらそりゃシアワセにもなるって」


「そんなものかな」

「そうだよ!」


素知らぬ顔で朝食を食べ続けるアキラは、けれど目の下がほんのりと赤らんでいる。


(意地っ張り)

でも大好き。


ヒカルはみそ汁の椀に口をつけると更に嬉しそうな顔になった。

思った通り、具がじゃがいもと玉ねぎだったからだ。


「おれ、みそ汁はじゃがいもと玉ねぎのヤツが一番好きなんだ」

「そうか、良かったな」

「うん、良かった。好きなもんばっかり作ってくれたから今日はお礼にケーキでも買おうか?」

「いいよ、わざわざそんなことしてくれなくても」


決定。きっとケーキももう用意してある。


「じゃあ次の粗大ゴミの日に古くなったキャビネット出しておく」

「ああ、それは頼む」

「って、嘘だよ、手伝えよ。一人じゃ無理だってあれ」

「だったら言うな」


くすりと笑ってアキラはヒカルを見た。


「明日のゴミ出しをやってくれたらいい」

「ん」

「たぶんぼくはキミより早く起きられないと思うから」

「う-? うん」


今度はヒカルが赤くなる番だった。


「まあそれも今日の手合いの結果次第かもだけど」


鮭の骨を外しながらアキラが言う。


「勝つよ、勝つに決まってんじゃん」

「そう願うよ。誕生日さん」


アキラの二度目の失言だった。

その後はもう何も言わず、ただ目の下の赤味を顔中に広がらせてアキラは朝食をもくもくと食べ続
ける。


ヒカルはと言えば骨の山に首まで埋まった犬のように満足そうな笑みを浮かべながら、そんなアキ
ラをただじっと見つめていたのだった。






「進藤ヒカル誕生祭14」開催おめでとうございます♪
進藤ヒカル誕生祭14

今年も参加させていただけてとても嬉しいです。ヒカルももう32歳ですね。嘘みたいです。
二人には永久にいちゃいちゃとして欲しいなと思います。


サイト内には他にも色々ありますので、(ヒカアキ)よろしければそちらも見てみてやってください。
20018.9.25 しょうこ




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