Heart or body



起きている時もかわいいけれど、寝ている時は無防備な分もっとかわいいなと思った。

カーテン越しのぼんやりとした午後の光は、その整った顔を浮かび上がらせ、額や胸元に
浮かぶ汗もよく見てとれる。



こんな時間からするのは嫌だと、最初はひどく抵抗したくせに、塔矢は抱きしめて肌にキス
を落としたらすぐに体の緊張を解いた。


「…ヤじゃなかったの?」
「嫌だよ」


こんな何もかもはっきりと晒されてしまうような中でするのはやっぱり嫌だと、でも進藤が服を
はだけていく、その手を塔矢は止めなかった。


「キミはどうしてこう……」

けだものみたいなんだろうと、深いため息をついて塔矢はキスをせがむ進藤から顔を背けた。

「帰ってきていきなり『しよう』だなんて、キミの頭の中にはそのことしか入っていないのか?」
「そうだよ」


遠方での対局の後、本来ならそこで一泊してくるべきものを進藤はまだ夜行があるからと、無
理矢理切符をとって帰ってきてしまった。


それくらいならせめて朝まで待って、それから飛行機で帰ってくればよかったのにと塔矢は思う
のだけれど、進藤は一秒でも早く帰ってきたかったらしい。


「だってさー、おまえ明日になったら仕事入っちゃうじゃん」

入れ違いのように今度は塔矢の方が対局で家を離れてしまう。それが我慢できなかったらしい。

「大体、もう何ヶ月してないと思ってんだよ」
「…二年四ヶ月ぶり?」


皮肉まじりに塔矢がからかうのに進藤は口をとがらせる。

「んなわけねーだろ、二ヶ月ぶりだ、二ヶ月!」

その間、まるっきり会わなかったわけではないけれど、慌ただしい半日だけの逢瀬や、細切れな
時間の中では落ち着いてキスをすることも出来なかった。


話をして、食事をして、それよりも何よりも少しでも時間があれば打っていたので、体を重ねること
など無かったのだ。


「それでもう、そんなにサカリがついたって?」

うっすらと笑うその口を進藤は無理やりキスで塞いだ。

「悪いかよ」

恋人がいて、年頃の男同士で、なのにちっともそういう気持ちにならなかったらその方が問題だと、
言われて塔矢は「そうかな」と言った。


「ぼくは別にしなくてもいいけど」

してもしなくてもどちらでもいい、キミと一緒にいられるならねと見つめられて、進藤は見る間に赤く
なった。


「おまえ…狡い」
「なにが?」
「それだとまるっきりおれだけがバカみたいじゃん」


おまえが欲しくて欲しくて、飢えているのは自分だけのようだと、拗ねる声に塔矢は笑ってしまっ
た。


「もっとね、精神的な繋がりの方も重視して欲しいってそういうことだよ」

体の繋がりももちろん大切だけれどねと、拗ねきった恋人の顔に塔矢は自分からキスをした。

「ぼくだって、不安になるんだよ。いつもキミがそうだと」
「なにが?」
「キミはぼくの体だけが目的なんじゃないかって」


んなことあるわけないじゃんかと、言いかけた進藤の首に塔矢は腕をまわした。

「いいよ。今はどちらでもいい」

キミがぼくの体目当てでもなんでも、ぼくがキミを好きなことに変わりはないからと、言って足を
絡ませた。


「キミの―好きなように」

またしばらく抱き合うことは出来なくなるのだからと、誘うように動かれて進藤はもう言葉で話を
するのをやめてしまった。



ケダモノでも、なんでももういいやと。

目の前の恋人はあまりにも綺麗でそそられて、あまりにも欲情的だった。


何度も、何度も互いに果てて、途中「休みたい」と塔矢が言った時にも進藤は止められなかった。

激しく動いて塔矢の中に放った後、びっしょりと汗をかいた体で抱きしめたら、ぐったりと反応が
無い。


塔矢は気絶してしまっていたのだった。



「塔矢―」

ごめんと、一瞬殺してしまったのでは無いかと真っ青になって、けれど規則正しい呼吸に意識を
失っただけとわかり安心した。


「やりすぎちゃったなあ……」

浮いた汗が冷えはじめて、やっと頭と体の芯も冷える。

目の前で横たわる塔矢は、やはり汗を体中にかいて、でもその汗すらも美しく見えた。

「こうして寝てるとかわいいのに」

どうして起きているとおれに厳しいんかなあと、進藤は愚痴のようにつぶやいた。

時計を見るとまだ二時で、始めた時は午前中だったとはいえ、まだそれほど時間がたっていない
ことに驚く。


気分的にはもう丸一日くらいやり続けていたような気分だったのだ。

それくらい深く、濃い行為だった。


「風邪ひいちゃうな…」

脱がせずに、はだけたままでしてしまったシャツのボタンを取りあえずはめて、でもいっそ脱がせ
て、きちんと着替えさせた方がいいのかと進藤は少し迷ってしまった。


「本当に……寝てりゃかわいいのに」

けだるい午後の光の中で無防備に眠る恋人の顔を見ていたら、進藤は愛しくて、愛しさが溢れすぎ
て泣きたいような気持ちになった。



「嘘…起きててもかわいいよ、おまえ」

かわいくて美人でサイコーだと、眠っていて聞こえないことを承知で寝顔にささやく。

「信じて…おれ」

おまえの体目当てなんかじゃないからと。

「会いたくて、ただそれだけで帰ってきたんだって」

おまえにちょっとでもたくさん会いたくて、それで急いで帰ってきたんだと。

「大好き、塔矢」


体ではなく心を。


体ももちろん好きだけどと、言って進藤が身を屈め、そっと頬にキスをすると、眠っていたはずの
塔矢の腕が進藤の背中にまわされた。


「うん」

うん、ちゃんとわかっているよと。

笑いを含んだ声で言うと、塔矢は驚いて赤くなる進藤の体を逃がさないように強く、けれどたまら
ないくらいに優しく抱きしめたのだった。



2005.4.25 しょうこ