※この話はコノカモです。








鬼やらい



端の凍った川の水は冷たいと言うより皮膚を裂くように痛かった。

足首まで浸かっているだけで全身の震えが止らない程寒いその水の中、賀茂は川の
中程までゆっくりと歩いて行くと座り込んで、それから手で掬って頭から水を被り始め
たのだった。


「賀茂!」

岸で見ていた近衛がたまらずに声をかけると、「静かに」と制する。

「身を清めているだけだ。だからせっかくの静寂を乱さないでくれ」

朝の気は一番強い。

そのためにわざわざ明け切らぬ内に来たのにキミが騒いでは意味が無くなってしまう
と、厳しい声に近衛は言いたかった言葉をぐっと飲み込んで代わりに大きく息を吐い
た。




「悪いけれど明日の朝は河原まで付き合って貰えないだろうか」

内裏まで呼ばれて賀茂にそう告げられた時、一瞬近衛は甘やかな物を想像した。

けれど今が真冬でその冬の朝の河原が恋を囁くにはほど遠い所だとはすぐに気がつ
くことだったので訝しく尋ねる。


「なんでそんな…」
「明日は追難の儀式があるから身を清めなければならないんだ」
「追灘って…ああ、あの厄払いの」


毎年大晦日に宮中で厄をはらう儀式が行われているのはさすがに色々と疎い近衛も知
っていた。


それに陰陽師が関わるというのもおぼろげには知っていたが、それと身を清めるのと
河原が頭の中で繋がらない。


「精進潔斎だよ」
「しょうじん? …何?」
「儀式のために身を清めることだ」


宮中で何か儀式が行われる場合にはそれに関わる者は皆、前日から肉や魚などの汚
れ物を断ち、水で身を清めなければならない。


「ぼくは元々肉や魚は食べないからそれはいいのだけれど、この身は清めなければな
らないから」


ほとんどの者は家の中で水を被る。

中には形だけで申し訳程度に頭に水を振るだけの者も居るらしいが賀茂は厄を払う祭
文を読むという大役のためにきちんと儀式に則ったやり方で清めたいらしいのだ。


「だからってなんで河原で?」
「あの川はね、良い『気』の流れが水に沿って流れている」


だから水を浴びることはその『良い気』を浴びることにもなって、ただ水を浴びるよりも、
もっと身が清められるのだと。


「大変だな…陰陽師って」
「それに付き合わされるキミも大変だと思うけれどね」


夜明けの河原はすごく寒いよと、予告されていた以上に冬の河原は本当に寒かった。



「おい、いつまで水被ってんだよ、おまえそんなことやってたら風邪ひくぞ」

見ているだけでも冷たい水に賀茂が浸かった時には近衛は内心ひっと声をあげた。

けれどその水を掬って頭からかけはじめた時にはもういてもたってもいられないような
気持ちになって、近衛は枯れた芦を寄り分けると自らも川に足を踏み入れた。


そしてそのあまりの冷たさに叫んだのだった。

「賀茂」―――と。


近衛の呼びかけにも賀茂は振り返ることなく無心に水を被り続けている。

その髪からぽたぽたと雫が落ち、装束がぺったりとその細い身体に張り付いているの
が、少し離れた場所に居る近衛にもよくわかる。


(あいつ、毎年こんなことやってんのか)

今まではきっと式神をお供に一人で来ていたのだろうが、その式神を手放してしまった
ために仕方無く近衛に護衛を頼んで来たのだろう。


『これは藤原様からのご命令でもある』と鯱張って言っていた顔がおかしくてつい微笑ん
でしまう。


(わざわざそんな形式張ったことしなくても、『頼む』の一言でいつでもおれは賀茂の側
に来るのにさ)


けれどそれを気軽には言えない賀茂の頑なさが近衛はまた好きだと思った。



「賀茂ー、いくらなんでももういいんじゃねえの?」

顔色が水の冷たさで青いを通り越して紙のように白い。

元々色白ではあるものの、それが透ける程になっているのを見ると近衛も我慢出来ず
に再び声をかけてしまった。


「もう行くよ―まったく」

キミと居ると騒がしくてちっとも集中出来やしないと、それでもなんとか儀式に必要なだ
けの気は浴びることが出来たから帰ると言って水の中を静かに戻って来る。


「早くしろよ、もうこうやって立ってるだけでおれなんか全身凍っちゃいそうなのにさぁ」

陰陽師ってのは冷たさも感じないようになってるのかよと皮肉半分言った瞬間だった。

ぐらりと賀茂の身体が崩れた。

「あ―」

見ている目の前で川面に倒れ込む。

近衛は思わず駈け寄って、水に浸かった賀茂を抱きかかえようと腕を伸ばした。

「触るなっ!」

それを指が届く寸前で賀茂が厳しい声で止める。

「せっかく清めたのに汚れる! 頼むからぼくに触らないでくれ!」
「そんなこと言ったっておまえ顔色真っ白じゃんか」


見ればその肌も寒さに細かく震えている。

陰陽師だから寒さ冷たさを感じないなどと言うことが無いことを今更ながらに思い知って
、近衛は皮肉った自分を心から恥じた。


「おまえ、そんな無理すんなよ。せめて抱き起こすくらいしたっていいじゃんか」

ここには今おれとおまえの二人しかいない。人の手が触れたとそれを見て言い回る者
も居ないのだから、それくらいせめてさせてくれと支えようとするのをキツい眼差しが拒
む。


「キミは…儀式の重要さを何もわかっていない。新しい年の福を迎えるには古い年の厄
を全てはらわなければ意味が無いんだ」


それには祭文を読む自分が僅かでも汚れていてはいけないのだと必死の形相で言わ
れて近衛は仕方無く手を引いた。


「わかった…触れないようにする。でもそのままで屋敷まで戻るんだろう?」
「ああ、申し訳ないけれどキミには夜まで付き合って貰うことになると思うよ」
「うん、いや、それはいいんだけど」
「ん?」
「おまえんち着替えくらいあるよな」
「それは…もちろん」
「わかった」


じゃあいいやと何がいいのか賀茂が理解出来ずにきょとんと見上げるその前で、いき
なり近衛も水の中に座り込んだのだった。


「ひゃあっ、冷たっ!」

そしてあっと思う間も無く手で掬って頭から水を被り始める。

「待て、何をやってるんだ、やめろっ!」

賀茂は近衛を止めようとして、けれどすぐにその手を引いた。

「触れると清めが無駄になっちゃうんだろう?」
「でも…やめろ! そんなことをしたら風邪をひく」
「そんなのおまえも一緒じゃん」


おれは陰陽道のことは何もわからない。おまえの大変さを軽くすることも出来ないから
せめて同じ冷たさを感じたいんだと言った近衛の言葉に賀茂の表情が一瞬崩れた。


凛とした大人びた陰陽師の顔から、年相応の幼さと頼りなさが表れたのだった。

「キミは…本当に救いようの無い馬鹿だな」
「馬鹿だよ。いつも検非違使仲間にもそう言われてる」
「馬鹿だよ、本当に」


こんな冷たい水、心の臓が止ることだってあるのにと言って俯いた肩は凍えとは違う震
え方をしていた。


「本当に馬鹿だ」

こんなぼくのためにと、小さな声で呟くように言ってそれから顔を上げる。

「さ、それじゃきちんとぼくを送り届けて貰おうか」

寒さに震えて役目を果たせないようならば情け容赦なく罵るからと、淡々と言うその顔
はいつもの賀茂だったけれど、唇の端は笑っていた。


「ああ、まかせとけって。こう見えてもおれ頑丈なんだから!」

けれど勢いよく言った割には、屋敷に着くまでに近衛の顔色は賀茂のそれよりかなり
悪いものへと変わっていたのだった。






夜、知らせの者が来て賀茂は内裏に出向いた。

もちろん近衛も一緒で、でもその顔色が益々悪い物になっているのに賀茂はとっくに
気がついていて、儀式のための打ち合わせにと控えの間を出る前に近衛の前に包み
を置いた。


「煎じ薬だ。これを飲めば少しは楽になると思うから」
「おれは別に…」
「言っただろう。もし風邪なんか引いたら情け容赦なく罵るって」
「おまえそういう言い方はしていなかっただろう。第一おれは風邪なんて…」
「ぼくの屋敷について、着替えてもいつまでも震えが止らなかったし、昼にもほとんど食
べなかった」


食欲が無かったんだろうと言われて近衛はぐっと詰まる。

「キミが食欲が無いなんてよっぽどだから、だから大人しく言うとおり薬を飲んでくれると
嬉しい」
「飲むよ、飲むけど…」
「そうしたらそのままここで休んでいてくれ。女房殿に頼んで御簾の向こうに布団を敷い
て貰ってある。儀式は疲れる。ぼくは帰りもキミに送ってもらうつもりだから」


それまでに頑張ってその熱を下げてくれと言われて近衛は仕方無く笑った。

「‥恋人が陰陽師って損だなあ」
「なんだ? 今更」
「だって全部お見通しなんだから」
「陰陽の術なんか使わなくたってキミの具合が悪いのなんかわかる。それにぼくはキミ
の恋人なんかじゃないし」
「じゃあなんだよ」


おまえにとってのおれって何と、具合が悪いくせに食らいつくように聞いてくる近衛に賀
茂はにっこりと意地の悪い程鮮やかな笑みで微笑んで言った。


「大切なライバルだっていつか言わなかったっけ?」








ドゥンと亥の刻を知らせる太鼓の音が内裏に響き渡る。

庭のあちこちには灯明が燃やされ、帝の居る紫宸殿の前には大きな櫓が組まれてい
た。


今、その合図と共に櫓には火が放たれ、その前に立つ賀茂の顔を鮮やかな赤で照らし
出した。


(始まる)

毎年のこと、数々ある宮中の行事のただ一つとは思う物の、この追難には他の儀式と
はまた違う緊張を賀茂はいつも感じる。


(新しく来る年が良い年でありますよう)

都に暮す全ての人々の暮らしが少しでも良いようにと願いながら、けれどその心の隅
ではただ一人の人の幸いを祈りたくなる自分が居た。


「こじらせていなければいいけれど…」
「賀茂殿何かおっしゃいましたかな?」


側に使えていた役人の一人が賀茂の呟きを聞きとがめてそっと尋ねる。

「何か儀式に思わしく無いことでも」
「いいえ、気を入れるために自分に呪をかけていただけですよ」


少しでも多くの厄を払い、少しでも多くの福を呼び込みたいですからねと言う賀茂の言
葉を相手はそのまま鵜呑みにしたようで、「さすが賀茂殿」と感心したように頷いている
ので賀茂は苦笑してしまった。


(いけない、いけない。大切な儀式の前に気を散らしては)

それこそ自分と一緒に水垢離をしてくれた近衛に申し訳ないでは無いかとまた再び私
心から微笑みかけた賀茂はすっと息を吸い込むと、愛しくはあるものの『雑念』を心の
中から全て追い出して儀式に集中したのだった。





「―始めます」

一言言って、櫓の前に更に一歩出る。

印を組み、それから目の前の炎を見据えると、それから瞬きもせずに朗々とした声で
祭文を詠み出した。


その後ろには賀茂以外の宮中使えの陰陽師、そして貴族達が控え、祭文が終わるま
で頭を垂れてじっと待っている。


紫宸殿の中では帝が同じように聞き入っているはずだけれど、それは表に居る賀茂達
には見ることは出来ない。


ぴんと張った空気。

頬を焦がすような炎。

夜の闇に燃え立つ赤い火は時折吹く風に揺られてゆうらゆうらと地面に怪しく賀茂の影
を映し出した。



「――――まで。」

響き渡った賀茂の声がぴたりと止る。

するとそれを待っていたかのように、払われる厄である方相子(ほうそうし)が20人ばか
りの童子を引きつれて現われた。


「鬼やらーい、鬼やらい」

かけ声と共に庭を回り、それから宮中に上がって中をくまなく回り始めた。

「鬼やらーい」

地に響くように低い方相子のかけ声の後には甲高い童子達のかけ声も混ざり、やっと
頭を上げることを許された陰陽師や貴族達は可愛らしいものだと一様に表情を緩ませ
た。


「お疲れ様でした賀茂殿」

背後から声をかけられ、賀茂もほっと肩の力を抜く。

「出来うる限りの厄は払いました」

後は仕上げで緒方様の弓が惑う事無く闇を射抜けば完全に厄は払えましょうと賀茂の
言葉に役人は頷く。


「在りがたいことです」

(本当に…)

これで全ての厄が払えるならばどんなに在りがたいことだろうかと賀茂は心の中で考え
る。実際はそれでも都の人々には何らかの厄が降り注ぐし、暮らしぶりは一向に楽にな
ったようには思えない。


「ぼくの力不足か…」

(いや、そんなことを考える傲りが都を厄災から守りきれずに居る原因かもしれない)

「…近衛に言ったら怒られてしまいそうだけれど」

櫓からそっと離れ、柱の影から儀式の残りを見守りながら賀茂は呟いた。

頑なな自分にずかずかと踏み込んでくる乱暴で粗雑な検非違使。近衛ならきっと賀茂
の漏らした呟きを捕らえてこう言うだろう。


『なんでおまえってそうクソ真面目なんだ? たった一人で都の全ての人達を守りきれる
わけねーじゃん』


だからこそおれ達が居るんだろうと、真剣な眼差しで返してくるに決まっている。

「そうだよね…」

(キミ達が居るから………キミが居るから)

「―ぼくも強くなれるんだ」

そう誰にも聞こえないようにそっと賀茂が呟いた時、童子を連れた方相子が紫宸殿の
前に戻って来た。


「鬼やらーい!」

響き渡る声にそれまで少しざわついていた庭がしんと静かになる。

これから上卿による弓打ちが始まるのだと期待した面持ちで皆が見守っていると、そこ
に白い装束をつけ、桃の枝で作られた弓を持った近衛が現われた。


「どうして、近衛が―」

ざわりと再びざわめきが走るが、波のように起こったそれは同じような早さで鎮まって行
った。


「緒方様が―」

どうやら弓を引くはずであった緒方が儀式の直前、着替えに出ようとしてうっかり女房の
一人に触れてしまったらしい。


出会い頭の事故のようなものであるものの、汚れは汚れ、急遽代役をということになっ
たけれど弓を扱えて尚かつ精進潔斎をしているというものが見つからなかった。


そこで引き出されて来たのが近衛である。

布団を敷くよう賀茂が頼んだ女房が喋ったのだろう。近衛は朝早くから賀茂と共に霊験
灼かな川の水で水垢離をしており、その後も賀茂の側に居たので一切人にも獣にも触
れていない。だったら使えるではないかということになったらしいのだ。


その上都合の良いことには朝は賀茂との約束に急ぐために食べ底ね、昼は食欲が無
くて果物しか口にしていなかった。前日はさすがに少し魚を食べはしていたもののそこ
まで咎めるともう完全に代役は居なくなってしまう。


「本来、あのような身分の低い者が行うべきものでは無いのですが」

汚れを持ち込むよりもマシであると、仕方無いというような空気になったらしい。

「近衛…あんなに具合が悪かったのに」

触れることが出来ないので実際の所はわからなかったが、顔色と気配だけでも体調は
わかる。薬を置いては来たものの、あれでもう弓を番えるようになれるとは賀茂にはと
ても思えなかった。


「近衛…」

止めたくても儀式の最中である。止めることなど到底無理で、近衛だとて止められること
は望んでいないだろうと思った。


まっすぐに歩いて来た近衛が燃え尽きた櫓の前で芦の矢を桃の弓に番える。

そしてきりりと引き絞る間際、探すように辺りを見渡した。そして賀茂の顔を見つけると
確かに一瞬微笑んだように見えた。


けれどそれは本当に一瞬で、思い切り弓を引き絞ると近衛はそれを北東に向かって力
の限り放った。


矢はまっすぐな近衛の心を映したかのように真っ直ぐに闇を切り裂き、おおと人の声が
どよめく間も無く2本目が番えられ、近衛はそれを北西に向って再び思い切り引き絞り
放ったのだった。


「素晴らしい」

誰がこぼしたのかわからないが、賀茂も又消えて行く矢を見つめながらそう思った。





「…やれやれ、良かったですな」

始まった時と同じく大きく太鼓の音が打ち鳴らされ、それで儀式は終了した。

「まったく、検非違使風情が現われた時はどうなることかと思いましたが」
「まあそれでも弓の腕はあったようで」


緒方様の手で大儺之儀が行われるに越したことは無かったが、それでも賀茂殿の祭文
で充分に払われたからと、いきなりの大役を果たした近衛を省みる者は誰も居ない。


「さ、賀茂殿も―」
「いえ私はもう少し残って厄の残りが無いかを見届けてから帰ります」
「そうですか、それではお気をつけて」


もうとうに帝は紫宸殿から去っている。

この寒い中これ以上居る義理は無いと皆ぞろぞろと寒さに身をすくませながら待ちかね
たように庭から揃って出て行ってしまった。



「近衛…」

近衛は燃え尽きた櫓の前でまだ弓を持ったままじっと立っていた。

「近衛っ!」

賀茂が走りより、その身体に触れるとぐらりと上体が揺れる。

「…見た?」
「え?」
「おれ、ちゃんとお役目を果たせたよな?」
「見たよ、見ていたよ。立派な弓だった」


キミの弓で残っていた厄も全て払われた。きっと来年は良い年になるだろうと賀茂の言
葉に近衛は心から嬉しそうに笑った。


「そうか、良かった。おまえがあんなに頑張って払ったのにおれが台無しにしたら申し訳
ないと思って」
「そんなこと無い、キミだから、キミの放った矢だから厄が払えたんだ」


気力だけで立っていたのだろう、崩れるように座り込んだ近衛の体は熱かった。

ついさっきまで櫓で燃えさかっていたその炎と同じくらい熱くなっていて、賀茂は抱きか
かえるようにしながらぞっとしてしまった。


(よくこの体であんな弓を放てたものだ)

「早くぼくの屋敷に戻ろう。すぐにまじないをかけて楽にしてあげるから」

なのに近衛は何故か身を引きはがそうとする。

「おまえ、ダメじゃん触っちゃ」
「え?」
「ほら、おれに触ると汚れが…」
「いいんだよ、もう儀式は終わったんだから」


もう回りには誰も居ない。だからいくらキミに触れても咎められることも無いと言ったら
近衛はやっとほっとしたような顔になった。


「そうか、良かった」

本当に良かったと、そして腕を回すと賀茂の体を抱きしめた。

「良かった、おれ、やっと今日は少しだけ賀茂の役に立てた」
「ば――」


馬鹿だなあと、賀茂はこみあげてくるものを必死で堪えて素っ気なく言った。

「当たり前だ、キミがぼくの役に立たなかったら思い切り罵るって言っただろうが」
「それ、また最初に言ったのと違っているって」


いい加減だなあと笑いながら子どものようにぎゅっとしがみついてくる。

近衛の体の熱を布越しに感じながら、賀茂はどうしても堪えきれずに泣いてしまった。

どんなに冷たくあしらっても優しさと愛情を惜しみなく向けてくるこの男が愛しくて。

素っ気なく気持ちに応えようとしない意固地な自分に苦笑しつつも、己の全てを捧げてく
れるこの男が愛しくてたまらなくて。


賀茂は近衛の肩に顔を埋めると、気づかれないよう声を殺し、静かに涙を流したのだっ
た。





※生まれて初めての初コノカモです。慣れないことをしたのがいけなかったのか今日は都内は大雪です。

「平○幻想異○録」はヒカ碁にはまり始めの頃にやりましてやはり大萌えしたわけなのですが
何故かそれで文を書こうとは思いませんでした。


この数年ずっと思わなかったのですが、今年ヒカアキの節分SSを書こうと思って色々と節分のことを調べている時に
「追難」「鬼やらい」に行き当たって突然猛烈に書きたくなったのでした。
まだ他にも書きたい話があるのでこれからはコノカモも時々書くかと思います。


この追難(鬼やらい)の儀式、平安時代に行われていたのは確かですが、
コノカモの人達の時代が平安のどの辺に入るのかわからなかったので色々嘘が入っています。
(いや、それを言ったら話口調もそうなんだけど)儀式自体も物語的に書きやすいように勝手に作り替えています。
節分の元になった儀式なので今日アップしていますが昔は大晦日の儀式だったようですし(^^;
なので歴史に詳しくてそーゆーのが許せんという方はごめんなさいです。
すみません。 2008.2.3 しょうこ