花帰.




唐菓子があるから遊びにおいで。


式神に言付けたら近衛はすぐにやって来て、でも菓子では無くぼくを食べた。

御簾越しに差し込んで来る月の光の中、いきなり抱きしめられて口づけられた。

いつも思う。

近衛の肌は熱い。そして唇はもっと熱いと。



『ごめんな、賀茂が嫌ならやめるけど』

尋ねておいて答えを待たない所がこの男の悪い所だと、これもまたいつもの如く思い、
否と言う代わりに小さく息を吐いた。


まるで今すぐに交わらなければ今生の別れが待っているかのような、そんな急き方で
近衛はぼくを抱く。


乱暴で、でもそれでいて、臆病な程、非道く丁寧でもある。


『好きだよ』

賀茂のことが好き。大好きだと、耳に時雨れのように囁かれるのは心地よくて、ぼくは
いつも目を閉じる。


ぽたりと顔に落ちる雫に目を開ければ、汗をかいた近衛の顔がすぐ近くにあって、背
けるよりも早く口づけられた。


唇も熱ければ差し込まれる舌も熱い。

『賀茂、賀茂っ』

囁かれる言の葉の一つ一つも火傷しそうに熱くて、ああこのまま溶けて二人一緒に混
ざってしまえばいいのにと思うこともある。


帝なんか知らない。

都なんか滅びてもいい。

陰陽師としての仕事も何もかも捨て去って、賀茂明というただ一人の人間として近衛の
為だけの存在になりたい。


『賀茂―賀茂はおれのこと…』

熱くて、痛くて、苦しくて、切ない。

胸いっぱいに溢れるのは相手を好きだというその想いのみで、でもぼくはそれを口に
は出さない。


出してはいけないことだと、最後に欠片残っている理性がそう言うから。




「近衛―」

終わった後、静かに眠る近衛の顔を眺めながらぽつりと呟いてみる。

「好きだよ」

ぼくもキミが大好きだと、かすれるようなぼくの声は、外から漏れ聞こえてくる虫の鳴く
声よりも小さい。


「いつか全ての役目が終わって、キミもぼくも肉体の軛から解放される時が来たら、そ
の時に言うから」


魂で言う。

必ず言うからと、囁いた声に近衛からの答えはもちろん無い。

けれど寄り添うように隣に寝そべったら静かに腕で包まれた。

「うん、それでいい」

待っているからと。

そしてその後はもう何も言わない。


酷な恋人だと、我ながらそう思う。

けれど、それでも近衛はぼくを―ぼくだけを愛し包んでくれるのだった。



※ちょっと大人。ゲームの時よりちょっと育った感じでしょうか。2010.8.30 しょうこ