寝息



久しぶりに屋敷を訪ねたら、ふらふらと出て来た賀茂はおれの腕の中に倒れ込むようにして収
まると、そのまま頽れてしまった。


「かっ、賀茂っ、どうした?」
「…どうしたもこうしたも無い。ぼくは三日前から一睡も眠らずに祈祷を続けていて、つい先程、
屋敷に戻って来たばかりなんだ」


そしてやっと今から眠ろうとしていたのに、それをキミが邪魔したんじゃないかと言う賀茂の口
調は剣呑極まりない。


「ごめん、だっておれそんなの知らないから」
「知ってたってキミは来るだろう」


いつだってぼくの都合なんて考えたことも無いんだからと睨み付けて来るのに、言い返してやり
たいけれど実際そうなので言い返すことも出来ない。



「…じゃあおれ、帰る?」

速攻で帰った方がいいか? と尋ねるのに賀茂はしばし黙った後で目を閉じて言った。

「帰らなくていい。その代わりぼくが起きるまでこのまま抱いていろ」

背中が痛くなっても下ろしたりしたら怒るからなと、言いたい放題言ってからいきなりすうと寝息
になった。


「…賀茂?」

もう返事は無い。

「ってそんなすぐに寝ちゃうのかよ、おまえ!」

まだぎゅって抱きしめることも、ちゅーと口づけることも何一つしていないのにお前が起きるまで
全部お預けかよとついこぼしてしまう。


「…でもきっとおれ以外にはこんなこと絶対しないもんな」

ものすごく外面が良くて人に弱みを見せることを死ぬ程嫌う。そんな賀茂が寝着にも着替えず下
着姿のままで寝こけている。


「…こんな可愛い顔を見られるのってたぶんおれだけなんだもんな」

そう思えば悪口雑言、何を言われても気にならない。


もしかしたら一晩中、おれが帰る間際まで賀茂は目を覚まさないかもしれないけれど―。


それでもすうすうと響くこの寝息が愛しくて、いじらしくてたまらないので、背中が痛くても体が冷
え切っても、出来る限りこのまま抱き続けていようと、はらりとかかる前髪を指で退けてやりな
がらおれは幸せな気持ちで恋人の寝顔を見詰めたのだった。


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※しているのかしていないのか微妙ーな所です。2008.11.21 しょうこ