想い色
何気なく手首を見たら、食い込んだ爪の痕が細い三日月のように肌の内側に赤く残っていた。 「夕べの―」 これは近衛が強く握った痕だった。 お互いに初めてで、でも勢いが止まらずに最後までした。 『賀茂―』 『何?』 『賀茂』 『だから』 なんだと尋ねる賀茂の口を近衛の唇が奪うように塞いだ。 ぽたぽたと被さる肌から滴る汗。 汚される。 清めた体が汚されてしまうと、陰陽師としての賀茂は頭の隅で考えていたけれど、それでも抵抗 する気はまるで無かった。 (何が悪い) 好きな相手と肌で交わって、それの一体何が悪いのだと開き直ったような心は、滅多には現わ れない賀茂の本質だった。 汚れてはならない。 汚されたい。 触れてはならない。 触れられたい。 もしも自分が白だと言うならば、彼の色に滅茶滅茶に乱暴に塗り替えて欲しいと、願うことは禁 忌だった。 それでも、自分の役目を置き去りにしても、この一瞬だけでもいいから相手と繋がりたいと切に 願った。 それは賀茂が生まれて初めて自分のためだけに心の底から願ったこと。 好きな――相手と結ばれたい。 「おかげで一週間も物忌みで引き籠もらなければならなかったけれど…」 それでも全く後悔は無い。 「好きだ…近衛」 生涯で唯一キミだけを愛すると呟くと、賀茂は人に見られぬように気をつけながら、手首につい た爪痕にそっと口づけたのだった。 |