落とし物
たたたたっと軽い足音が近づいて来て、振り向くより先に抱きつかれる。 「賀茂、おはようっ」 振り向いて顔を見る前にもう誰かはわかっている。 「どうしてキミはいつも抱きついて来るんだっ」 内裏でも都でも家の近くでもぼくを見つけて抱きついて来るのは近衛くらいだから すぐわかる。 「だって賀茂が落ちてたから…」 「落ちていたわけじゃないっ、式神の報告を聞いていただけだっ」 ぼくの持つ式神は空のモノ、水のモノの他に地に潜むモノもある。今はちょうど地 に潜むモノの報告を聞いていた所で屈み込んでいたので避けることが出来なかっ た。 「落ちてたじゃん、賀茂。賀茂が路に落ちてたらそりゃ絶対拾わなくちゃだから」 これからもおれは絶対に拾うよと、言いたい放題言いまくると今一度ぼくをぎゅっと 抱きしめてから離れた所に佇んでいる佐為殿の所に走って戻る。 優雅な動作でお辞儀する佐為殿は近衛が戻るとそのまま何事も無かったかのよう に紫宸殿に向かって歩いて行った。 「まったく近衛には一度キツく言ってやらないと…」 閉口しつつつぶやくぼくに式神が笑う声が聞こえた。 ぼくと近衛はなんでも無い。 たまに顔を合わせたり、家で会ったりするだけの間柄なのに、何故か佐為殿は近 衛の無礼を止めないし、式神もぼくに近衛が駆けて来ることを絶対に教えない。 ただ可笑しそうに笑って居るのでそれがいつもぼくは、とても腑に落ちないのだっ た。 ![]() |