愛人
※パラレルです。そういうのがお嫌いな方は読まないことをオススメします。それでもって時代考証などものすごく大ざっぱでいい加減ですのでそこらへん
も気にしない方のみご覧ください。




江戸は大伝馬町に店を構える『進藤屋』はこの界隈では名の知れた老舗の木綿問屋だった。

数代前の店主が一介の小さな木綿店から築き上げた店は今では使用人を多数抱え、近隣の
木綿問屋を束ねる大店に成長していた。


代を譲り受けた現店主は夫婦むつまじく商売熱心で評判も良く周囲にも広く慕われている。男
児にも二人恵まれて順風満帆と思われていた。


ほんの数年前までは――。




近所の米問屋の一人娘と婚礼が決まっていた長男が病であっさりとこの世を去ったのは非道く
暑い夏の終わりだった。


相手の娘を家に送る際雨に降られ、ほんの少し体を濡らした。それが元で風邪を引き、あれよ
あれよという間にこじらせてあっさりと息を引き取ってしまったのだ。


頭も良く真面目で温厚な長男がいなくなり、進藤屋の嘆きは相当なものだったが、周囲の者た
ちはそこまで憂いてはいなかった。


何故なら進藤屋にはもう一人男児が居て、その残された次男が店を継げば良いと考えたからだ。

ところが数年たつうちに、進藤屋の未来を憂う者は多くなった。というのも一人残された次男は、
頭も悪く落ち着きの無い、遊び歩いてばかりいるろくでなしだったからだった。







「…って言ってもさあ、しょうがないじゃん。おれ、計算苦手なんだからさぁ」

開け放した縁側からしっとりと濡れた小庭を見渡してヒカルが言うと、傍らに座り繕い物をしていた
アキラがため息をつきながら答えた。


「そうだね、キミはそろばんとか計算事が大嫌いだよね」

それどころかじっと座って商売の事を聞いているのも苦痛で、何度となく両親や番頭が教えようと
するのを振り切って逃げ出して来ていた。


「売るだけだったらさあ、おれ得意なんだけど。どうもあの取り引きの計算とかそういうのが面倒
臭くて」


それだけでなく進藤屋は近隣の木綿問屋の頭のような存在であり、価格の調整やお上とのやり
取りなど七面倒くさい上に責任のある仕事が山のようにあるのである。


「兄上様が生きていらしたら良かったね」

ごろごろと寝転がるヒカルの背に縫い終わった着物を被せてやる。

「ほら、着ないと体が冷える」

ヒカルは褌を締めただけで裸だった。

つい先程まで睦んでいた名残で、そのまま羽織ることもしないで転がっているので、丁度いいとア
キラは気がついていたほころびを縫ってやったのだ。


こんな、大店の若旦那が着物の袖にほころびを作っている。それはないがしろにされているとまで
はいかなくてもあまり愛情をかけられていないという証拠で、アキラは縫いながら切なくなった。


跡継ぎとそうで無い子どもは扱いからして全く違う。生まれながらにして下にも置かぬ扱いを受けて
きた長男と違って、ヒカルは長い間ほったらかしに近い状態だったらしい。


(だから……ぼくなんか欲しがったのだろうけれど)


アキラはヒカルの愛人だった。

この時代、男の愛人というものはさほど珍しいものではなく、大店の中には女とは別に男の愛人を
何人か抱える者も居る。


もちろん子を為すことは出来ないから女の愛人より身分的な扱いは低くなり、大抵は貧しい長屋暮
らしをしているのが常だった。



けれど。

アキラは町の片隅ではあるもののかなり広い屋敷を宛がわれ、それなりに不自由無く暮らしていた。
それというのもヒカルが店の後を継ぐというのを条件にアキラを囲うことを両親に承諾させたからだ。



元々この家はアキラの家だったのだ。

大きな油問屋だった両親は、思わぬことから商売に失敗して財を失い、その心労からか相次いで病
でこの世を去った。


一人残されたアキラは多額の借を抱え、それを返済するために遊郭に売り飛ばされる所だったのだ
が、それを知ったヒカルがその日のうちに話をつけて家ごとアキラを買い取ったのだ。



「おまえ、嫌かもしんないけど、たくさんの男と寝るよりはたまにおれと寝るだけの方がまだマシなんじ
ゃない?」


いきなりずかずかと家に上がり込んできたヒカルは、あっけにとられるアキラの前まで来ると家を買い
取った旨の記された証書を見せて言ったのだった。


「こういうやり方好きじゃないけど、今日からおまえおれの愛人な?」

あんまりな物言いに、あまりにも失礼な提案だった。

けれどそう言って笑ったヒカルの顔をアキラは嫌いだとは思わなかった。

屈託の無い子どものような笑い顔は、両親を亡くして以来、心の安まる暇も無かったアキラの心に非
道く温かく染みたのだ。


家にそのまま住んでいてもいいというのも良かった。

思い出の詰まった家が他人の手に渡るのを見るのは自分が遊郭で男に抱かれることよりも更に苦
痛だった。


「――いいよ」

ぼくはキミの愛人になろうと、言ったらヒカルはほっとしたような顔をしてそれからそっとぎこちなくア
キラを抱きしめた。


実はこの時ヒカルは店の金を黙って持ち出して借金の返済をしていたこと。アキラのことをずっと前
から見て知っていて、密かに好意を抱いていたということをアキラは後になってから知った。



「佐為にさ、連れて行かれた碁会所で打ってるおまえを何度も見たんだ」

ヒカルの死んだ兄は碁にも長けていて、その界隈では評判の強い碁打ちだった。

アキラの父もまた同様に強い碁打ちで、だからよく碁会所では向かい合って打っていたのだ。

しかしその佐為にくっついて来ていた弟のことをアキラは全く覚えていなかった。

父と佐為が打つ、その盤面を見るのに夢中で周りに人がいたかどうかさえもあやふやなのだった。

「おまえ、碁の強いやつにしか興味無いって言うからそれからずっと佐為に教わってさ、そこそこ打て
るようになったかなと思ったらおまえ碁会所に来なくなっちゃうんだもん」
「商売の手伝いの方が忙しくなってしまったから……」


ヒカルとは違い、アキラは店の一人息子だった。幼い頃から商売のなんたるかを教え込まれ、実際に
店を切り回し始めた頃だった。


「台風で船が沈んでしまって……。もしあれが無ければ店は無くならなかったんだろうな」

油は売値も高いが仕入れ値も高い。

回収しようと買い足したその船も沈むという不運が重なったことが店が傾いた原因だった。

「ぼくがキミの兄上のように切れる人間だったら、もう少しなんとかなったのかもしれないけれど…」

思い詰めたような顔で言うアキラの額をヒカルはぺちりと軽く叩いた。

「あー、もうどうしてそーゆーこと言うのかな。店が潰れたのはおまえのせいじゃないし、誰のせいでも
無いんだって。真面目なとこ嫌いじゃないけど、そうやって何もかも自分のせいみたいに思う所は良く
ないと思うぞ」


言って乱暴に体を抱き寄せる。

痛いくらいの抱きしめようだったけれど、アキラはヒカルにこうされるのが好きだった。

痛みがそのまま愛情だとわかる。

ぶっきらぼうで飾りは無いけれど、ヒカルが確かに自分を好きらしいと感じることが出来て、アキラはな
んだか嬉しくなるのだ。


「キミは…商売の才はあんまり無いかもしれないけれど、人としての才はたくさんあると思う」

優しさと明るさと思いやりと。

商売をやっている者にありがちな計算高さと冷酷さが無い。

この先、店を継ぐとヒカルにもそういう部分が出てくるのかと思うとアキラは少しそれが寂しくもある。

「あんまり褒められてるって感じはしないけど、褒められたって思うことにする」

ぎゅっと強く抱いた腕をほどくと、ヒカルはアキラを間近から見つめ、優しい声音で聞いた。

「今日はこれからどうする? 打つ? それともおれともう一回、イイコトする?」
「打ちたい所だけど、イイコトの方をしてもらおうかな」


言うと破顔一笑、ヒカルは幸せそうな顔になった。

「大好き…アキラ」

それからゆっくりと唇を重ねる。

「ぼくもキミが好きだよ」

買われたからではなく、進藤ヒカルというキミのことが大好きだとつぶやくように言うとヒカルの頬が
赤くなった。


「おれも大好き。おれの愛してるのは今もこの先もずっと永遠におまえだけだから」

言って再び唇を深く合わせる。

舌で舌を探り合いながら、でもアキラは切ない思いにかられていた。

いつも来てもほんの半日ほどで家に帰らなければならないヒカルが昨日からずっと家に居る。
それは今日を最後にしばらくここに来られなくなるからだった。
もし来られるようになったとしても今のように足繁く来ることは無くなるだろう。



明日。

ヒカルは兄が結婚するはずだった米問屋の娘と祝言を上げるのだ。

本当は家に居て色々と準備をしなければならない身なのにヒカルがここに居るのは、独り身の最後
の我が儘と言って無理を通してきたからだった。


もし願いを聞いてもらえなければあいつを連れてどこかへ逃げると脅したからに他ならない。

兄には及ばないとはいえ、跡取りに逃げられては困るものだから渋々ながら両親もヒカルの言い分
を飲んだのだ。


「まあ……祝言の前日に遊郭に遊びに出る方もたくさんいらっしゃるようですから」

仕方ないことと母親は苦い口調ながら言った。

「でもヒカル。このような我が儘は以後は許されませんからね」

そして一月、いや二月、三月、子を為すまではアキラに会ってはならないとも告げた。

子を為せばヒカルの役目の一つは取りあえず果たされる。出来の悪い息子よりは孫に跡を継がせよ
うと両親は思ったのである。


「赤ん坊が出来たら後はあなたの好きにすればよろしい。でもそれでも、家族を持つということを努々
疎かにしないように」


このことをヒカルはアキラには告げていなかった。言えば傷つくとわかっていたからである。

「はいはいはい、わかってますよう。出来が悪くて金遣いの悪い息子でも種だけはちゃんとイイモノ持
ってマスから」


本当にもうあなたは…と、ため息をつく両親を残し、そうやってヒカルはアキラの元にやって来たのだ
った。



このような夜はたぶんきっと今夜で最後。

言葉には一切出さなかったがけれどそれはなんとなくアキラにも伝わったらしい。

いつもは自分からは決して甘えて来ないアキラがヒカルの胸元に頭をすりつけてぽつりとこぼした。

「このまま……明日が来なければいいのに」

何度も何度も唇を貪り合った後、ため息のように出たその言葉は切なさが滲み出ていてヒカルの胸を
も締め付けた。


「このまま朝になんかならなければいい」
「なに? おれと打てなくなるのがそんなに寂しい?」
「そう思いたいなら思っていればいい」



明日ヒカルは女を抱く。

頭で理解していてもアキラにはそれが耐え難い苦痛だった。

女を抱き、その女と正式に夫婦になる。

例え形だけとしてもヒカルに正当な伴侶が出来るということは、アキラにとっては胸をえぐられる程辛い
ことだった。


「キミはもう明日からぼくのものではなくなるんだ」

この腕もこの胸も声も眼差しもみんなぼく以外の人のものになるのだと、切ない声で一気に言ってから
アキラは一拍置いてつぶやいた。


「ごめん…囲ってもらっている立場のぼくがこんなことを言う資格はないのに」
「なんで! おれの方こそ…ごめん」


一番愛している人を伴侶とてして家に迎えられない。それはなんと不条理なことだろうか。

生まれも良く頭も姿も良い、アキラのような人間を無理やり金の力で「愛人」という存在にしてしまってい
る自分にもヒカルは嫌悪を感じていた。


アキラは本来、自分が「愛人」になどしてしまっていいような人間では無いのだ。

もし欲しいと思うならお日様の下で求婚し、正々堂々と娶るべき相手なのだった。

「ごめんな、本当に」

でも命かけておまえを一生愛するからと、言われてアキラは頷いた。

殊更に日陰の身を望むわけではないけれど、ここまで愛されてどうして文句が言えようか。

アキラを買ったのはヒカルであるけれど、ヒカルに買われたのもまたアキラであるのだ。


確かに金で買われはした。けれどアキラにはそれを断ることも出来たのだった。

本当に嫌ならば自害すれば良かった。

ヒカルに抱かれたくないと思えば身投げでもなんでもすれば良かったのだ。

それをしなかったのは死が恐ろしかったわけではなく、ヒカルならと思ったからだった。

屈辱的な申し出ではあったけれど、この男にならこの身をくれてやってもいいとアキラが思ったから「愛
人」は成立したのだ。


(悔しいけれど)

愛している。

照れくさいので面と向かって言ってやったことは無いが、アキラは今ではヒカル無しでは生きていられな
いくらいヒカルのことを愛するようになっていたのだった。






常に無いくらい激しく繋がり果てた翌朝、目が覚めると布団の中にヒカルの姿はもう無かった。

しんとした部屋の空気に、ああ、もう行ってしまったのだなとアキラはぼんやりと思った。

婚礼の朝だ、色々仕度もあろうしいつまでもぐずぐずと愛人の家にいるわけにはいかないのだろう。

「でも…せめて起こしていってくれても良かったのに」

朝起きて、時間があれば一局打とうと約束していた。それが無理でも婚礼の前にもう一度ヒカルと口づけ
たかった。


ヒカルだとて決して薄情でしたことではなく、たぶん起こさなかったのはアキラを思いやってのことだったの
だろう。


覚悟していても、割り切っていても、感情はやはり動く。

別れの朝などを味わわなくてもいいと、そんな切なさをアキラに味わわせたくなくてヒカルはおそらく一人で
こっそりと出て行ったのだ。


(それとも彼に引っ張って行かれてしまったのかな)

進藤屋にはそこで生まれ、そのまま育って丁稚となった義高という者が居て、年も近いことがありほとんど
ヒカル係のようになっている。


ヒカルがアキラに会いたい時に文を持たせたり、逆にアキラの家に居過ぎて帰りが遅れた時などにこっそ
りと裏木戸から屋敷に入れてくれたりするのが、いつもこの義高だった。


今日もきっといつまでも来ないヒカルに焦れて迎えに来たのかもしれなかった。

「祝言は何時から始まるんだろう……」

考えたくは無いのについ考えてしまう。

「相手の方は美しい方なんだろうか?」

愛していると夕べ素肌に指を置いてヒカルは言った。

おまえしかいらない。おまえしか愛せないと。

でもヒカルは女を知らない。

初めて知った女の味にそちらに気持ちが移らないとは誰にも言えないのだ。

女にもし心を動かされなかったとしても、血を分けた自分の子がもしも出来たらならどうだろう?

ヒカルには伝えていなかったけれど、アキラは数日前にヒカルの母から文をもらっていた。

それにはヒカルの結婚のことと、結婚してしばらくは子作りに専念させアキラの元へ行かないように約束させて
ある旨が書かれていた。


そして、出来ればその間に姿を消して欲しいと、数両の金も一緒に包んであった。

「こんなもの…送って来なくったって…」

アキラは呟きながらヒカルの母の文を見やった。

そして静かに、寝乱れた布団とその先、縁側の向こうに広がる庭を見る。

昨日、ヒカルがくつろいでながめていたその庭には、今日は穏やかな日が差している。

降った雨のせいで綺麗に洗われた庭の木からは甘い香が漂っている。

木犀が咲いたのだと、そう思ったアキラはこの花を好きだと言ったヒカルに香を嗅がせてやりたかったと思った。

「もう1日…早く咲けば良かったのに」

けれど咲くのはその花の都合で人の都合には合わせられない。世の中のこともまた思い通りには決していかな
いものだとアキラは苦い思いで布団から起きあがった。


身支度を調えて、家の中をざっと掃除する。

庭木に水をやり、思いついて一枝折り取ると、アキラはそれを花瓶に挿して部屋の隅の棚に飾った。

こうしておけば香りが染みついて、ヒカルが来る頃にも少しは香が残っているかもしれない。

アキラはそうしてから部屋の中心に立ち、ぐるりとまわりを見渡した。


生まれてから十数年。慣れ親しんだ景色がここにある。

目に馴染み、懐かしさと温かい思い出と色々な記憶があちこちに散らばる。

この家はアキラにとって自分の一部のようなものだった。

両親が生きている時は両親との。ヒカルと出会ってからはヒカルとの数え切れない思い出が残る大切な大切な
場所だった。


けれど今、アキラはその家から出て行こうとしていた。

少し前、ヒカルに縁談が持ち上がった時から密かに決めていたこと。

元々愛人として囲われた身であるし、ヒカルが結婚した後も関係を続けることは難しくは無かった。

この家に住み、通ってくるヒカルを迎え、それ以上を望まずに生きていけるものと思っていた。

けれど祝言が近づくにつれて押さえ込もうとしても押さえられない感情が沸き上がってきた。

それは自分以外の者をその腕に抱くヒカルに対する限りない嫉妬だった。

理性で納得しようとしてもどうしてもアキラはヒカルが結婚することに耐えられなかったのだ。

「ごめん…キミは怒るだろうけど…」

自分は自分で思っていたよりも器用では無かったのだと。居続けることは辛すぎるし、もしヒカルに子どもが出
来ればそれも更に苦しい。


ヒカルを自分だけのものに出来ないのだとしたらもうここに居ることは出来ないと、なんと自分は強欲だったの
かとアキラは今更ながらに思い知り苦笑してしまった。


「せっかくキミに助けてもらったのに」

自分を想ってくれているヒカルの愛情を裏切ることになるのだと、それだけが悲しいと思いながらアキラは少な
い荷物を風呂敷で包んだ。


父と打ち、後にヒカルともよく打った碁石も、白と黒を一つずつお守り代わりに半紙に包んでそれは懐に入れる。

木犀の花の側に書いておいた手紙を置き、そうしてしまうともうすっかりと仕度は済んでしまったのだった。



外はいつの間にか黄昏に近い時間になっている。

「…行かなくちゃ」

いつまでも居ては未練が残るばかり。夜になれは気持ちがくじけて出立を伸ばしてしまいそうで、アキラは今一度
部屋の中を見渡すと、誰にというわけでもなく深くお辞儀をした。


「今までありがとう。さようなら」

それは自分を慈しんでくれた両親と、育んでいた家と、誰よりも愛しているヒカルに向かって言った言葉かもしれな
かった。







暮れかける道をアキラは少ない荷物を抱えて足早に歩いた。

今日は取りあえず近くの宿場にと道を急いでいたはずなのに、気がつけば足は進藤屋へと向かっていた。


今頃は祝いの宴のまっただ中だろうか?

店の前には祝いの幕が下げられて、前では丁稚や店の者たちが祝いの酒を通る者に振る舞っていた。

「さあ、目出度い若旦那の祝言だ。皆々様もどうかご一緒に祝ってやってくだせい」

福の裾分だと、威勢の良い声に人々がわっと群がっている。

幕の内側からは明るい光が漏れ、出入りする人々と共に中の賑やかさが離れて立っているアキラにもよくわ
かった。


ヒカルはあの光の中に居る。

対して自分はこうして目立たぬように光を避けて道の端に立っている。

元から結ばれぬ縁であったのだと、その立場の差を見せつけられてアキラはいっそ清々しい程だった。

(やはり、別れるのが正解なんだ)

こうやって未練がましく婚礼をながめに来てしまったけれど、それは少なくとも間違いでは無かった。

「さようなら……ヒカル」

これでもう諦めがついた。

自分の中にまだ微かに残っていたかもしれないヒカルへの思いはこれで断ち切ることが出来ると、踵を返そ
うとした正にその時だった。


ガシャーンと、祝言の行われている家とは思えない大きな音がして、それから進藤屋の中は何故か唐突に
騒がしくなった。


先程までの賑やかさとは違う、何か言い争うような、そんな剣呑とした空気が幕の内側から漏れ聞こえてき
たのだ。


「―――――おって」

最初に聞こえたのは耳にざらつくようなドラ声だった。

「あんなうつけ者を亭主になど、ふざけるにも程がある!」

やがて怒り心頭といった雰囲気で店から飛び出して来たのは紋付き袴姿の初老の大男で、肩を怒らせて店
から飛び出してきたかと思ったら、くるりと振り返り更に大声ど怒鳴った。


「破談ですぞ! 破談。冗談じゃない。十代続いたこの市河屋、むざむざと潰させるために嫁にやるわけじゃ
ない。この始末は後できっちりとつけさせていただきますからな」


見ればその筋張った腕で、白無垢の花嫁の手首をがっちりと掴んでいる。

「まったく…よくも衆道の者など…」

そして半泣きになっている花嫁を引きずるようにして、怒鳴り散らしながら去って行ってしまったのだった。


一瞬、アキラは何が起ったのかわからなかった。

けれど中で何か拙い事態が起ったらしいことだけはわかった。

(ヒカルに何かあったんだ)

迷いつつ、愛する人の身心配さに、アキラは思わず店の前まで歩いて行った。

そこへひらりと幕がめくれ、見慣れた顔が現われた。

「まっ、待ってください若旦那っ」

義高や取りすがる数人の者たちを簡単に突き倒し、今にも走り去らんとしているのは誰あろう進藤屋の若旦那
、進藤ヒカルその人だった。


「ヒカルっ」

思わず叫んだアキラの声にヒカルは驚いたように振り返り、次ににかっと嬉しそうに笑った。

「なんだ丁度良い。今からお前ん所に行こうと思ってたんだ」
「え?」


わけがわからずに居るアキラの手を掴み、ヒカルは何事かと集まり始めた人ごみをかきわけるようにして走り
出した。


「待っ…」
「ダメ。こんな所に突っ立ってたら捕まっちゃうからさ」


ぎゅっと痛い程強くアキラの腕を掴み、それからヒカルは半町ほどの道のりを走った。



人のいない川縁まで来た所でようやくその足を緩め、そして崩れるように座り込んだ。

「あーーーーーっ、疲れたーーーーっ」

走り通しだったせいで息を荒くしながらヒカルは言う。

「一体…何が…どうなってるん…だ」

話せとアキラもまた息を切らせながら言う。

「何って…祝言ぶちこわしてきたんだ…よ」

言ってはははとヒカルは楽しそうに笑った。

「壊したって…」
「ん、そのまんま。始まってさ、半分くらいまできた時にいきなり酔ったふりして大声で歌って暴れて、それから
そこらの男ども全部に接吻してまわった」
「ええっ?」


あまりのことに驚いて口もきけないでいるアキラにヒカルはその時のことを思い出したのか少しばかり苦いもの
の混じった笑みを浮かべた。


「おれは男が大好きです。男しか好きになれませんって言ってさ、裾割って襟広げて、ちゅーちゅーもみもみや
らかしてきたんだ」
「なんだってそんな馬鹿なことを…」


ヒカルは別に男しか好きなわけでは無い。むしろ本当はごく普通に女性の方が好きなのだということをアキラは
いつだったか本人から聞かされている。


「すげえ効果絶大だったぜ? もう座敷中大騒ぎでみんな逃げ回るしさあ」

挙げ句の果てに花嫁の父である市河屋の大旦那の股ぐらを掴み、唇を吸った時に事態は収集不可能になった。

花嫁の父は激怒し、この婚姻は無効であると、破談だと怒鳴り散らして帰ってしまったからである。

「ちょーっと…いや、かなり気持ち悪かったけど、でももうこれでおれに縁談を持ってくるような馬鹿は一人もいな
い」


どうだと言わんばかりに真っ直ぐに見られてアキラはたじろいだ。

「まさか…そのために今回の結婚を承諾したのか?」

親に言われるまま、ろくでなしの遊び人の若旦那なりに家のことを考えて引き受けたことと思っていたのにそれは
違っていたようだった。


「そう。そのとーり。おれってさ、こんなんでも一応跡取りだから結婚するまでいつまでも永久にうるさく言われ続け
なきゃなんないだろ?」


でもお前以外の誰かと夫婦になる気持ちなんかこれっぽっちも無いからずっと対策を考えていたのだとヒカルは
言った。


「男の愛人くらいじゃ皆びくともしないけどさ、男にしか勃たない。女には感じないって変態には流石に引くよな」

進藤屋は大店である。

しかしほんの欠片でも親の情のある者はそんな男に大事な娘をくれてやろうとはしないし、ましてや切れる者で
あれば、己の代で身上潰しかねない馬鹿者と縁を結ぼうとは思わないはずだ。


「今日はこの付近の問屋や大店全てがうちに集まっていたんだ。来なかった者にも噂は伝わる。明日には進藤屋
の馬鹿旦那のことがこの辺りどころか遠くの町まで広まっていることだろうさ」
「なんてことを……」
「なんで? おまえおれが結婚しなくなって嬉しくないの?」
「そうじゃない。そうじゃないけど…そんなことをしたら進藤屋はこの先きっと困ったことになるぞ」


アキラは囲われ者となって以来、仕事という仕事はしていない。けれど近所の老人と碁を打ったり、人の集まる場
所に行ってはさり気に昨今の商売の動向や景気の話を聞き集めていた。


それは油問屋の跡取りであった頃に身に染みついた商売人としての習慣と、元より学び考えずにはいられない性
分から出た行動だった。


だから今ではアキラはそこらの問屋の旦那衆より世の中のことに詳しかったし、もし機会さえ与えられたら元のよう
に問屋を切り回すことだって出来ただろう。


「今、世の中が大きく動きつつあるのを知っているか? キミの店は今のうちにしっかりと経済的な後ろ盾を作って
おかないと遠からず江戸から退かざるを得なくなる」


それでも「ふうん」と曖昧な返事しか寄越さないヒカルにアキラはカッとして怒鳴りつけるようにして言ってしまった。

「キミはっ、世の中のことを知らなさすぎる!」

江戸における木綿問屋は大きく二つに分かれている。進藤屋のような小商いから立ち上げた元々から江戸の商人
である白木組と、伊勢の大店が番頭を寄越して代わりに商売させている伊勢組と。


ちょうど五分五分くらいであったその割合が、最近崩れ、江戸には伊勢組が増え始めているのだ。

「だからキミのご両親は市河屋との縁談を結びたがったんだ。経済的な後ろ盾をつけなければ元々の資本が違う伊
勢組には勝てないから…それなのに…」
「知ってるさ、そんなこと」


大人しくアキラ言うことを聞いていたヒカルは、ふいに遮るように言った。

「今じゃ大馬喰町の半分の木綿問屋が伊勢組だ。聞けば廻船問屋と組んで大きな商いの計画もあるらしいし、この
ままじゃ確かにおれたちは勝てないだろうさ」


普段と打って変わり、落ち着いた声で喋るヒカルにアキラは呆気にとられたように恋人の顔を見た。

「だから他の大店と…ってのもよくわかる。でもさ、そんなの所詮付け焼き刃だろ? 向こうは藩の後ろ盾もあるんだ
から普通にやってたってこっちが勝てるわけは無いんだよ」


だからおれはおまえが欲しかったのだとヒカルは言った。

「―――――え?」
「商いに何が必要か知っているか? 金とコネと運と頭だ。どれ一つ欠けたって上手くいきやしない。…で、今進藤屋
に一番欠けているのが頭だからさ」


ヒカルは言って苦い笑みを浮かべた。

若くして死んだ兄。本来の跡取りであった佐為が欠けたことが一番店にとって大きな痛手なのだと。

「おれはさ、コネと運は大丈夫だと思ってる。金もそこそこあるからさ、今日明日にどうなるとは思わない。でも頭だけ
はダメだ。おれは佐為みたいに世の中のことを読んだり、駆け引きをしたりする技には長けてない」


それは投げやりな言葉ではなく冷静に自分を見た上での言葉だった。

「でもさ、だったらおれが頭で無くてもいいんだよ。他所から頭を持ってくればいい」

そしてゆっくりと噛みしめるようにしてヒカルは言った。

「おれはおまえを養子にしようと思ってる。そして正式な進藤の人間として店を一緒に切り盛りして欲しいと思ってる。
おまえは頭もいいし商売の才もある。おまえだったらきっと佐為と同じように…いや、もっと上手く進藤屋を盛立てて
行くことが出来るはずだ」
「キミは…いつの間にそんなことを……」


ヒカルの言うことはアキラにとってはどれも初耳で驚くことばかりだった。

「最初からずっと思ってたさ。おれは結構強欲なんだよ。おまえはもちろん欲しいけど、おまえの才能も欲しかった」

それはろくでなしの怠けものと罵られる常のヒカルの顔では無く、アキラの見たことの無い、計算高い商売人としての
顔だった。


「じゃあ……最初からそのつもりでぼくのことを」

愛だ恋だとかそういうことでは無く、商売の片腕としてヒカルは自分が欲しかったのかと思ったら顔から血の気が引く
ような気がした。


そのために金と体で繋いだのかと。

ではいつの間にか真剣にヒカルを愛するようになってしまった自分はどうなる?

愛して愛して、失えば生きていられないかもしれないと思うほどヒカルを好きになってしまった自分はどうなる。


「ぼくは……そんな……」
「あ、違うぞ、違うっ」


黙り込み、青ざめたアキラにヒカルが狼狽したように表情を変えた。

「おれの言い方悪かったか? おまえ誤解したんだな? そうだな?」

言ってヒカルはぎゅっとアキラを抱きしめた。

「ごめん、今、順番間違った。今のだとおれ、店のためだけにおまえが欲しかったみたいな言い方だったよな。違うか
ら。本当に違うんだよ、元々はおまえとただ…」


ただ…おれは夫婦になりたかっただけなのだとヒカルは少しかすれた声で言った。

「おれはただ、本当におまえが欲しかっただけなんだ。おまえの全部が欲しくて、おまえと引き裂かれないようにした
かっただけなんだ」
「嘘だ。だってキミはさっき言ったじゃないか、ぼくのことを欲しかったけれど、ぼくの才能も欲しかったって…」


進藤屋のためになるから大金を払ってアキラの借金を払い、他にもっていかれないように愛人として縛り付けたので
はないかと、言ったらヒカルは更に青い顔になった。


「違うって、言ったじゃん。佐為にくっついて行った碁会所でおまえのこと見てからずっと好きだったって。だから」

だから、だから、だから金でおまえを縛ったのだと。他の誰にも渡したくなかったから弱みにつけ込んだんだと、ヒカル
は半べそをかきながら言う。


「でもそれは店のためじゃないよ。おまえが好きだったから―」
「だったらぼくは養子になぞならない。‥ならなくたってキミと愛し合うことはできる」
「だめなんだよそれじゃ! 愛人なんて…もしおれに何かあったら簡単に無かったことにされてしまう」


愛人のままでは、もしヒカルが病に倒れてもアキラは側に寄ることも出来ないだろう。そして万一ヒカルが死ぬようなこと
があれば体良く家からも追い出されて路頭に迷うことになる。


「そんなの…おれは嫌だ。一度全てを失ったおまえにもう一度失わせるのなんか絶対に嫌だ。そして…おれの愛している
のはお前だけなのに、そんな儚い繋がりだけで生きていくのも絶対、絶対嫌だったんだ」
「ヒカル‥」
「おれ、馬鹿だけどものすごくたくさん考えたんだ。どうしたらいいのか、店のことも併せてずっとずっと考えたんだ」



そして結論を出した。

店にとってアキラが必要な人間であると周囲に悟らせれば良いのだと。

遠くなく来る波乱の時勢にアキラがどれだけ役に立つか知らしめてやればいい。

それにはまず愛人ではなく正式にアキラを進藤屋に引っ張り込まなければならない。いくら切れる人間であったとしても愛
人風情の言うことを長年努めてきた使用人達が聞くはずがないからだ。


そのためにまず、邪魔な縁談話をヒカルは駆逐したのである。

今夜のことが記憶にある限り、どんな奇特な人間もヒカルには縁談を持って来ない。

ということは両親の孫に跡を継がせるという計画は成り立たず、ろくでなしの役立たずが大事な店を継ぐことになってしま
うのだ。


「おれが病気か死ぬかすれば他所から養子をもらって来るだろうけれど、生きている限りはそれも出来ない。それをやれ
る程、情の無いわけでもないみたいだしな」


それくらいならアキラを養子にすることを承諾するだろうとヒカルは言うのだった。

愛人とはいえ元々は大店の一人息子である。しかも死んでしまった長男と並ぶとも劣らない評判の切れ者だった若者であ
る。


「でも‥ぼくが養子になったって、結局は子どもは生まれない。進藤屋はキミの代で無くなることになる」
「そうしたらまた養子をもらってもいいんじゃないか?」
「え?」


義高の子を跡取りにしてもいいし、遠縁から迎え入れてもいい。

「おれとおまえで子ども育ててもいいじゃんか」

男女では片方が店で片方が家を切り盛りする形になるけれど、アキラとならば男同士、共に店を切り盛りすることが出来
る。


「この際だから親にはもうさっさと引退してもらってさ、家と子どもを見てもらってもいいし」

自分たちは思う存分商売をやればいい。しばらくはうるさく言われるだろうし、奇異な目でも見られるだろうけれど、目で見
てわかる程に店をもり立ててやればもう誰も二人に文句は言わないだろう。


「見てな。数年で進藤屋を始めとする白子組は伊勢組よりずっと大きくなる。江戸を伊勢者のいいようにはさせないさ」
「大した…自信だな」
「おまえが居るのに失敗するはずがない。おまえはさ、油問屋は救えなかったけど、きっと木綿問屋は救えるよ」


仕切り直しをするのだと言ったヒカルの言葉に、アキラは胸が熱くなるのを覚えた。

そうかと納得するものがあったからだ。

色々な言い方をしたけれど、結局の所ヒカルは過去を悔やむアキラをただ、ただ救いたかったのかもしれない。

「だから――いいだろ? 愛人じゃなく、おれの所にお嫁に来てよ」
「…嫁じゃなくて養子だろう」


滲む涙を気づかれないように拭いながらアキラが言う。

「間違えるな。全然違う」
「違わないよ。するのは養子だけどさ、おれの気持ち的には結婚だから」


長いこと日陰者にしちゃってごめんなと、髪に鼻をすり寄せられてアキラは思わず笑ってしまった。

「まだ…上手くいったわけじゃない。全部これからすることじゃないか」
「だから失敗なんかしないって。おまえが居ればおれ、何にも負ける気がしないし」


それにとヒカルは言葉を継いだ。もし万一計画通りにいかなくて引き離されてしまうようだったら駆け落ちしようとヒカル
は言ったのだった。


「店の金、あるだけ持ち出してさ、二人で手に手を取ってどこか遠くの町に行ってそこで子どもや年よりに碁を教えて暮
らしてもいいよな」
「バカなことを…」


でもヒカルが言うと荒唐無稽なことには思えなかった。ヒカルにはそう人に信じさせる力がある。
それも立派な商才だと気がついた時アキラは笑ってしまった。


「なに?」
「いや、ぼくもキミのことをとやかく言えないなと思って」


愛する人をそれだけでなく、才能の方からも眺めている。愛情と才能、両方を愛しているのだと思った時に自分とヒカル
は実はよく似ているのかもしれないと思った。


「…取りあえず、今日はぼくの家に行く?」
「そうだな。おれ、ほとんど何も食わずに暴れちゃったから腹空いてるし」


早く帰って何か食わせてとねだる顔にはさっきちらりと一瞬覗いた商売人の顔は無かった。それを自分はどう思ってい
るのかと考えて、アキラは心の内を自分で探ってみた。


擦れて欲しく無いと思い、また擦れたヒカルも魅力的だと思う。

子どもっぽい無邪気さと、その影に鋭く周囲を見渡している大人の男がちゃんと居る。

結局自分はヒカルならばなんでもいいのだと気がついてアキラはおかしくなった。

「ヒカル―」
「なに?」


暗い道、幼い子どものように手を繋いで歩きながらアキラは少し前を歩くヒカルに囁いた。

「今日は、一杯、一杯、一杯しよう」

気絶するまでやってもいいよと、言ったその瞬間にヒカルは棒を飲んだように立ち止まると、それから首筋をどす黒い
赤に染めた。


「――――――ばっ」
「だって今日は弔いの日だからね。『愛人』としてのぼくの。明日からは体だけで無く、ぼくの全てでキミの役に立てるよ
う努力するから、今日のうちによく味わっておいて」


そう言ったらヒカルは目を丸くして、それから少し神妙な顔になった。

「ってことは明日からはしてくんない?」
「さあね」
「うわ、してくんないと地獄だ」
「して欲しいと思うならキミも今以上に努力をしろ」


二人で危険な博打をするのだ。だからもし本当に自分を欲しいと思うならヒカルにも死にものぐるいで努力をしてもらわ
なくては困ると言ったらヒカルはしばし黙った。


「自信が無い?」
「いや…どんな体位でやったら一番おまえのこと感じさせられるかなあって」
「そういう努力じゃないっ!」


怒鳴った口を笑ったヒカルの唇が塞ぐ。

「嘘だよ嘘。おれもおまえに恥じないようにろくでなしは返上する」

おれも今日、自分の弔いをするよとヒカルは言った。

「役立たずの遊び人の怠けものの…後なんだ?」

薄く笑うその顔が愛しくて愛しくてたまらない。

「いいよ、もうなんでも」

なんでもぼくは心から体から全てキミのものだと言葉には出さず思いながら、アキラは愛しさをこめて強くヒカルの体を
抱きしめた。


「愛してるよ。ヒカル」
「おれも―」


抱き返す腕が嬉しかった。


明日から想像もつかないような騒がしい日々になるだろう。安易に頷かなければよかったと思うようなことになるかもし
れない。


けれど。

(ヒカルとならきっと大丈夫だ)

どんなことになろうとも―きっと、きっと―。


アキラは今一度ヒカルの体を強く抱きしめると顔を上げ、それからいかにも楽しげな笑い声をあげると、自分から愛する
男に口づけをしたのだった。




※なんか気持ち的にはプロキシを書いた時と同じくらい怖いです。ぶるぶる。どーなんでしょー(汗)書いた私はとっても楽しかったです。でも読んだ
皆様はいかがだったんでしょうか?これももう少し書きたい話などありますのでもし「もう見たくねー」とかいう意見が多数無い限りは書くと思います。
バカ旦那と出来る嫁って言うのはいいですね←?それから大変申し訳ありませんがこれは時代考証などものすごく大ざっぱでいい加減です。この
時代にこれは無かった、こういう言葉は使わなかったなどのツッコミはしないでいただけると嬉しいです。2005.10.17 しょうこ