抜け殻 ‐鎮魂花10‐
息を引き取ったばかりのあいつの体はまだ温かくて、抱くとしなりと腕の中で撓んだ。
力なく投げ出された腕も、その穏やかな顔もどれにもまだ温もりがあり、息が止まってい
るとはとても思えなかった。
寝ているだけ。
ただ眠っているだけなのだと、そう思えてしまうくらい生と死の間は曖昧だった。
この日が来る。
それはわかっていたけれど、それでも覚悟していた数日の後に今日が来てもおれは全然
耐えられなかった。
体につけられていた全ての器具を外されて、本当は色々処置をしなければならなかったら
しいけど、おれはほんの少しだけでいいから二人にさせて欲しいと無理矢理頼み込んであ
いつを抱いたのだった。
白いシーツでくるむようにして腕に抱いた、あいつは本当に眠っているようで、このまま時間
が止まればいいと思った。
例えもう二度とその目が開かなくても、もう二度とおれに笑いかけてくれなくても、それでもこ
うして抱いてさえ居られればそれでいい。
この体が無くなるなんて耐えられない。
もう二度とおれの手の届かない所に最愛のこの体が逝ってしまう。
どうか。
どうか。
どうか。
魂を取り戻せないのだとしたら体だけでもおれに残して欲しいと、おれはまだ温かいあいつの
骸を抱いたまま泣いた。
どうか。
どうか。
どうかおれに――。
もう二度と愛していると言ってくれなくてもいい。
もう二度とあの優しい声でおれの名を呼んでくれなくてもいいからどうか。
どうか抜け殻でもいいから塔矢を残してくださいと、叶えられるはずの無い願いを繰り返しながら、
おれは半身裂かれる痛みに耐えられず、声をあげて泣いたのだった。
※またまた鎮魂花ですみません。矛盾してしまうようですが、ヒカルにはアキラと一緒に居て欲しいし、アキラにはヒカルと
離されることなくずっと共に居て欲しいと願っています。2007.1.9 しょうこ